カテゴリー: 3:シロウト跡継ぎの天才的経営術(北海道)

  • 北海道株式会社のケース(1)vol.059

    仰天する金額の報酬が振り込まれ、呆然とする間もろくになく、ハローワークから次の依頼の連絡を受けたのは2日後のことだった。

    「明後日の10時に、同じ場所でお願いします」
    担当官はあなたにそう言った後、
    「今後また改めて相談させていただきますが、1日に複数件の依頼が入る場合もありますので、ご対応可能かどうかを、少しお考えになってみて頂けますか?」
    どうやら本格的な、あなたへの依頼が始まりそうだった。

    (次は2日後か…)
    今度は相手の情報は何もない。

    話の聞きとりかたも、何を質問するかも、そして相手へのアドバイスもすべて、会ったその場で判断しなければならない。

    (しかし、相談業は本来、そういうものだろう)
    あなたは20代の頃を思い出した。
    女友達から頼まれて、彼女の友人の手相鑑定をしたときのこと。

    3人で会うはずが、友人が急遽来られなくなったため、顔も知らない女性と二人で会うことになった。
    お互いの特徴を電話で伝えあい、駅前の雑踏で待ち合わせたことも何度かある。

    アクシデントで集中力を乱される経験はたくさんあったが、それらが意外な形で役に立つときがきた。
    そんなわけで、あなたは意外に落ち着いていた。

  • 北海道株式会社のケース(2)vol.060

    社員7~8名の小さな会社だったが、充実した毎日になった。

    ここには学歴差別などはなかった。
    できる者は力不足の者を助け、雑用は全員で協力した。

    新参の彼も、大きなイベントなどの仕事に参加させてもらえた。
    彼にとってそれは、心の底からの喜びだった。

    一方、社長にとっても嬉しい誤算だった。

    彼のことは幼いころから知っており、あまりテキパキ動けるタイプでないことはよくわかっている。
    イベントを担当するには難があると思っていた。

    しかし、ここで親友の息子を放っておけば、一家は路頭に迷い、悲惨なことになるのは明らかだった。

    だから、創業からずっと経理を手伝ってくれる妻と十分に話し合い、いわば家族ごと面倒を見る覚悟で採用した。

    そんな社長の心意気を知る社員たちも、まだ少年だった彼を気遣っていた。

    しかし、入社後の彼をよく観察すると、一つひとつの仕事が完璧だった。
    顧客対応、会場手配、資材の段取りから金銭書き付け書類の扱いまで、彼が仕上げた事柄は見事な出来映えだった。

    前の会社で働いたとき、ミスのたびに受ける罵倒を回避するために身に付けた働き方だった。

    自分の要領の悪さを自覚していた彼は、聞いた話を端的に書き留める習慣を身に着けていた。
    彼の机の引き出しには、作業要領をまとめたノートが数冊束ねられていった。

    (コイツはモノになる)
    社長はそう思い、将来を嘱望した。

  • 北海道株式会社のケース(3)vol.061

    「そして私は、今も存在しています」
    北海道株式会社を名乗る【法人】は、今の話を物語った当人とは思えないほど冷静な声であなたにそう言った。

    (【法人】には感情もないのか)
    話に引き込まれていたあなたは、急に引き戻された現実に、肩すかしを受けたような気分だった。

    会社を受け継いだ少年が、どうやって再び立ち上がり、『プロフェッショナル集団』なるものを目指すようになったのか。

    やはり、最初にあなたが感じたように、無理にでも自分を鼓舞する言葉を発し続けなければ、生き残っていけない状況だったようだ。

    働く意義など度外視で、生きるために働く仕事の辛さは、あなたにはよくわかる。

    仕事を通じて果たしたい志が、働き始めて挫折した挙句、「仕事するのはメシのためだ」と開き直る人間は沢山見てきた。

    だが、北海道株式会社の社長に、志などという贅沢は許されなかった。
    ただただ、メシのために働き始めなければならなかったのだ。母と弟妹のためにも。

    「しかし、最近ウチを訪れたシステム会社と商談を重ねる中で、『プロフェッショナル集団』の定義見直しの助言を受けてから、社長の経営方針には迷いが生じ始めています」
    男は、あなたにそう告げた。

  • 北海道株式会社のケース(4)vol.062

    どの角度から切り込もうかと考えながら社員リストを目で追ってうちに、妙な違和感が割り込んできた。

    大学に行こうと考えたことが無いあなたは、大学の名称にも疎い。
    しかし、そんなあなたでも知っている有名校ばかりが「出身校」の項目列に並んでいる。
    それに、リストの人数が多すぎる気がする。

    “新生”北海道株式会社は、創業社長の夫人から引き継いでスタートした。
    最初のうちは社員もほとんどいなかったはずだ。

    10年の歳月を経ているとしても、退職者数が身の丈に合わないほど多いと思う。

    (退職者の在籍年数は?)
    知りたいと思っただけで、その項目の表示列がリストに追加された。
    驚いて男に理由を聞くと、【法人】とあなたがPC上でリンクアップされたからだと突拍子もないことを言う。

    (……)
    しかし、ハローワークが準備したこの面談の『設定』は無視すると決めている。
    要は「結果を出せ」ということだと思う。
    それに、こういうことは、あなたには胸が躍る楽しいことだった。

  • 北海道株式会社のケース(5)vol.063

    社員の側も、採用後、「自分にはふさわしくない」と思うまでの期間が非常に短い。
    なぜ、それに気づかずに入社し、そんなにも早く退職の決断をしてしまうのか。

    テキストマイニングの結果を注意深く探ってみたが、横暴な経営者や先輩がいるようなフレーズは見当たらなかった。

    また、有力者の横暴さについて、社内の会話では怖くて直接的に言えない場合、弱者たちが使う特有表現がある。
    アグレッシブな代替表現でプラス方向に言い換えられるのもそのひとつだ。
    しかし、探ってみても、無理矢理に作ったようなキレイな言葉などは無い。

    念のため【法人】にも訊ねてみたが、社長は温厚で怒ることもほとんどなく、社員に怒鳴ったりしたことはこれまで一度もないという。

    自慢話のネタというものも特にないためか、社員の話を聞くことが好きで、圧迫を感じているような従業員はいないらしい。

    あなたはさらに、採用に至らなかった求職者の情報を抽出した。
    思ったとおり、大卒者よりもそれ以外の応募のほうがはるかに多い。
    社長が意図的に大卒者を選んでいることはほぼ確定だ。

    (社長が最初に入社した商社で受けた仕打ちの反動か)
    そこではプライドの高い社員たちに雑巾のように扱われた。

    たまたま彼らに共通する条件が“大卒”ということで、今度は自分がそいつらを使いまわしてやろうとする復讐の意図があるのかもしれない。

    あるいは逆に、人格形成期の環境を無意識に求めてしまい、当時と同じ劣悪な条件の中に身を置くことで安心するという、一種歪んだ価値観を持ち続けていることも考えられる。

    といってもここでいう人格形成期とは、あくまでも“社会人としての”という意味だが。

    深みにはまりそうだ。

  • 北海道株式会社のケース(6)vol.064

    「社長は、共に残った1歳年上の先輩社員と一緒に事業を続けて、現在の私を存在させています」
    と、【法人】は言う。

    一番気の優しい先輩だと、さっき聞いた。
    とはいえ、要は後輩が上司になるわけだ。気持ちは複雑だったかもしれない。
    しかし、持ち前の穏やかさでその状態を受け入れ、二人の関係はその後もずっと良好だったらしい。

    「ただ、おとなしい二人がいきなりビジネス界に乗り出したため、競合との競り合いになると負けることが多くて、そのことでずいぶん悩んでいました」

    それはそうだろうと思う。
    売上を作るところでその壁に当たり、次に考えられるのは代金回収の時に弱気になることだ。
    苦労が多かったに違いない。

    「そんなとき、知り合いの大学生に頼まれて、ゼミの体験学習でセールスプロモーションの実践を経験させたことがあるのです」

    何となく話がつながってきた。後は想像のとおりだった。