カテゴリー: 2:古参社員の声を聞け(▲▲社)

  • ▲▲社のケース(1)vol.048

    自分が【法人】だと名乗る男は、当然のようにあなたの前に現れた。
    当然あなたは、彼の言うことなど信じてはいない。

    会社が人間の姿をしているというのは、いくら何でも設定に無理がありすぎる。
    この男はただの人間だ。何もかも普通に見える。

    しかし、あなたに迷いはない。
    この男が何者であろうが、相談者に対して手相鑑定を行うと決めている。

    カウンセリングだろうが占いだろうが、はたまた霊視だろうがマッサージだろうが、手段はあなたに委ねられているのだ。結果を出せばよい。

    短くあいさつして椅子を示し、テーブルをはさんであなたも腰を下ろした。
    話し出そうとする相手を制し、あなたは両手を広げて目の前に置くよう、男に指示した。

    男はちょっと戸惑ったように、自分の手のひらとあなたの顔を見比べ、そのままの姿勢でいる。
    こんなところも、ごく普通の人間の反応だ。

    あなたは、もう一度手のひらを見せるように言い、ゆっくりと下ろされた両手の上に、上半身を傾けてのぞき込んだ。

  • ▲▲社のケース(2)vol.049

    ここまでが、応募書類を作った数週間前に、あなたがネット上で知り得た表面的な情報だ。

    「誰でも手に入れることができる」情報。
    おそらくあなたの前任者の多くがすがってきたであろう、薄っぺらで価値のない情報だ。

    いや、これだけでもかなりのことを語れるだろう。

    たとえば帝国データバンクで、さらに細かな財務情報や経営者の人物像を調べられる。

    それだけではない。
    日経テレコンで地方紙に掲載された▲▲社の関連記事を集めたりすれば、一層うがった見方も可能だ。

    …可能だが、その程度の情報なら、▲▲社では最初から持っているし、下手にうがった分だけ勘違いが甚だしくなる危険性がある。

    仮に、ジョハリの窓のうち▲▲社にとって「Blind Self(自分で気づいていない)」領域のことを、公開情報から導き出せたとしよう。

    しかしそれをアドバイスとして提供するには、よほどの実績や知名度でもないと相手が耳を傾けてくれない。
    一般の失業者には高すぎるハードルだ。

    unknown-houjin

    一方「Hidden Self(隠し事)」の領域へ踏み込んで、相手が明かしたくない事柄を聞き出すのも難しい。

    だからといって、それらの代わりにあなたが選択した「Unknown Self(自分にも他人にも未知の領域)」へのアプローチが、本当に有効な手段かどうかはわからない。

    むしろ、常識で考えれば、最も困難なはずだ。
    もしかすると、「薄っぺらで価値のない情報」以下のことを、あなたはやらかしてしまうかもしれない。

  • ▲▲社のケース(3)vol.050

    過去に個人を対象に行ってきた鑑定と全く同じテクニックを使って、あなたは▲▲社という【法人】を自称する男の手を見た。

    一瞬で脳裏に焼き付けた全体像の中から、いくつかの大きな特徴だけを捉えて、他はいったん白紙にする。

    あとは、相手とのやり取りに応じて、白紙エリアから必要な部分だけを復活させ、ガイドブックとして効果の高い地図を作り上げていく。

    その地図は段階的に精製されていくのだが、あなたが見た最初の形はこのようになった。

    sankakuleft
    ▲▲社(左手)
    sankakuright
    ▲▲社(右手)
     

    そして、あなたが創作した【法人】の手相は個人のものをベースに次のように置き換えた。

    baseguide
    基本線ガイド
      個人   【法人】
    生命線 取引線
    知能線 製品線
    感情線 社員線
    運命線 取引先線
    太陽線 市場(マーケット)線
     

    運命線は取引先との関係性を表す『取引先線』。
    右手のそれは『顧客との関係性』、左手のそれは『仕入先との関係性』と置き換えるのは当初からのプランだったので、そのつもりで見てみると、両手とも運命線に大きな食い違いがある。

    右手は35歳を表す地点、左はそれより4年遅く39歳。

    ▲▲社のホームページに掲載されている会社沿革では、昨年が創業からちょうど35年で、新社長に交代したときだ。

    食い違いは「社長交代」にこじつけられる。

    (案外、うまくゆくのではないか)
    あなたは幸先良いスタートに気を良くした。

    どこかの時点でこの【法人】という無理のある設定から解放されるだろう。
    「そろそろ、本当の会社の相談に変えましょう」と、常識をわきまえた経営相談に切り替えようと思うが、それには少しもっともらしい【法人】相手の面談の体を作らなければならないだろう。

  • ▲▲社のケース(4)vol.051

    こじつけに近いあなたの質問に、相手はハッと驚いた表情を見せた。

    いや、表情を見る前に、相手の身体の緊張が、そのまま伝わってきた。

    言葉や表情は、こちらの言葉を論理的に理解した後に出てくる二次的な反応だが、筋肉の反射は見せかけを繕う前の一次反応なので、あなたは割と信用している。

    それも、意図しない緊張の場合は一層信用度が高い。

    そして、意図しない緊張を引き出すのに効果的なのは、そのときあなたの目が相手を見ていないことだ。見られていなければ隠す必要がないので、相手はオープンでナチュラルな反応をする。

    手のひらに視線を落したまま、視覚以外の感覚で相手の微細な緊張を感じ取るすべを、あなたは幾多の鑑定経験から身に付けていた。

    「得意先の変革に対して、仕入先のそれが追いついていない」というあなたからの質問のうち、相手の緊張は後半の発声に対して生じた。

    ということは、十中八九『仕入先』のほうに何かがあるのだろう。

    そのことに見当がつきながらも、あなたは相手の言葉を待った。

  • ▲▲社のケース(5)vol.052

    あなたは眉をひそめた。
    文脈が一気に変わってしまった気がする。飛ばした話がかなりあるに違いない。

    あるいは、飛ばした部分に重要なポイントがあると認識できないからこそ、ドロ沼にはまってしまうのかもしれない。

    あなたが特に気になったのが、『最近になって急に世代間亀裂が入り始めた総務と経理』だ。

    社内で変革があり、管理部門の事務量が増えただけなら、「人が足りない」と不満を言い始めるのが定番な部署だ。

    その希望が叶わないと「自分たちの要望を上に通せない、役立たずの部門長」と、部下たちの不満が『上司』に集中したり、逆に「自分たちの嘆願を蹴った横暴な経営陣」を共通の仮想敵として部署内の連帯感を増したりする変化はありがちだが、部門内で世代間に亀裂が生じるというのは、なにか別な力が働いている可能性がある。

    その推測と「外部の力に頼った」の符号が一致するのではないか。

     

    もしかしたら、基幹システムの導入計画が、望まない状態の要因になっているのかもしれない。

    かなり深い話になりそうだ。

    あなたは壁の時計を見た。
    今回、一日で済みそうな話だろうか。

    通常、このような相談受付の最中に、あからさまに時計を見るという行為はどうかと思う。

    しかしハローワークでは、1日単位であなたへフィーを支払う。
    面談をさらに後日へずらすことはすんなり認めないと思う。

    【法人】の側が後日の再面談を望んだ形になっても、面談引き延ばしの疑いをもたれることは、今後の契約に良くない影響があるだろう。今回で終結させるに越したことはない。

  • ▲▲社のケース(6)vol.053

    実際に話を聞いてみると、ほぼあなたが想像したとおりのプランで、流通改革は実施されていた。

    要するに、後発の通販事業のように、いったん▲▲社で集荷し、自社内に物流センター機能を持たせたいということだ。

    新流通体制
    新流通体制

    従来の方式だと、配送のコントロール一切がベンダ任せとなる。
    正確な納期の把握に非常な手間ヒマを要するうえ、追加やキャンセルの依頼が▲▲社の頭越しに行われてしまうことも多い。

    それらが上手く伝達されずに顧客対応がチグハグになるケースがよく見られ、その対応策はベテランの勘で未然に防止するか、クレームの対応に現場へ出掛けて行って、そこからベンダの指揮を取って何とか対処するというスタイルだった。

    従前の流通体制
    従前の流通体制

    2代目社長が流通改革を思いついたのは、自社の営業事務部門の人件費割合の大きさに気づいたからだった。

    この体制で商品を取り扱っていては、業務量に比例して人数を増やさねばならないし、ベテランの名人芸で成り立っているから年配者が固まって存在し、給与水準も高い。
    彼らが毎晩遅くまで働く残業代もかなりの額にのぼっている。