北海道株式会社のケース(3)

「そして私は、今も存在しています」
北海道株式会社を名乗る【法人】は、今の話を物語った当人とは思えないほど冷静な声であなたにそう言った。

(【法人】には感情もないのか)
話に引き込まれていたあなたは、急に引き戻された現実に、肩すかしを受けたような気分だった。
会社を受け継いだ少年が、どうやって再び立ち上がり、『プロフェッショナル集団』なるものを目指すようになったのか。
やはり、最初にあなたが感じたように、無理にでも自分を鼓舞する言葉を発し続けなければ、生き残っていけないほど追いつめられた状況だったようだ。

働くための仕事ではなく、生きるための仕事に就かなければならない辛さは、あなたにはよくわかる。
自分がしたいこと(希望)を目指して就職し、途中で挫折して「仕事するのはメシのためだ」と開き直る人間は沢山見てきたが、北海道株式会社の社長は、最初から『希望』などと贅沢を言う余裕もなく、メシのために働き始めなければならなかったのだ。母と弟妹のためにも。

「しかし、最近ウチを訪れたシステム会社と商談を重ねる中で、『プロフェッショナル集団』の定義見直しの助言を受けてから、社長の経営方針には迷いが生じ始めています」
男は、あなたにそう告げた。

(また「システム会社」か)
前回の▲▲社の時にも、システム会社が加わってから会社の雲行きが急速に怪しくなっていった。
あの時は、自社がもともと抱えている、根本的な問題を加速させてしまったからだった。
しかし▲▲社の場合は、「自社内の流通センター機能を充実させて、商社としての実力をアップさせる」という、具体的で明確な方針があったので、アドバイスするにしても糸口が見つけやすかったのだが・・。

(プロフェッショナル集団を目指す、とはまた、フワッとして曖昧で厄介な・・)
定義があるようで無いのが「プロ」という言葉だが、北海道社の社長にとってそれは、経営者としての「魂の象徴」とでも呼ぶのがふさわしいと思う。
創業社長が「祭り好きだから、俺はイベント屋」と、短いフレーズに自身と会社の生きる姿勢を凝縮させていたのに似ている。
(だから、「定義」だとか「意味」だとか、他人が余計なおせっかいで理屈をつけてはいけない“聖域”じゃないか?)
システム会社の営業が何を言ったか知らないが、どうもロクなことを言っていないような気がしてきた。

社長は来年30歳になるという。
二十歳で準備もなしに会社を譲り受け、そのやりくりに必死だった彼は、正直なところ、いまだに相当世間知らずな部分が残っているそうだ。
何より、「システム会社」なるモノとは、今回初めて接触して技術分野の話を聞き、いろいろ勉強になるものだと素直に感心することが多いらしい。プロフェッショナル集団の定義に疑念を持つようになったのも、その影響だと男は言った。

(やはりな)
あなたは現社長と、彼を支えてくれた前社長夫妻、そして夫妻と彼を引き合わせてくれた、彼の亡くなった父親に加担してやりたい気持ちになった。彼らの意志(遺志)や、それを糧に歩んできた社歴に。
差し当たっては、システム会社が識者ぶってズカズカ踏み込んだと思われる『プロフェッショナル集団』の解釈について、あなたなりの見方を整えておこう。

(それも、『プロフェッショナル』のほうではなく、『集団』に着目してみよう)
あなたは男に、社員の人数とその構成を知りたいと告げた。
「口で言うのは大変ですから、そこのパソコンで見てください」
と、男は妙なことを言いながら立ち上がり、テーブルに置かれたデスクトップPCの電源を入れ、あなたの前にディスプレイとキーボードをスライドさせた。
「どうぞ。何でも聞いてください」

(なんだ、これは?)
起動したばかりのPC画面にはデータベースソフト「マイクロソフトアクセス(Access)」が開いており、個人名の一覧が表示されている。
「これはウチの社員リストです。他に見たいものがあれば言ってください」
言えば何でも、データになっているものは画面表示させられるという。
あなたは呆気に取られた。
(その話が本当なら・・)

念のため、試してみることにした。
画面に表示されているのは在籍社員だけのようなので、退職した過去の在籍者もすべて出してくれというと、あなたの目の前で画面が自動的に切り替わり、10名程度のリストが、200名以上に早変わりした。
在籍者コードという項目が追加され、そこに「0」と入力されているのが現役、「1」が退職者だ。

(これは面白い)
例えば勤怠管理情報も出せるかと聞くと、それも可能だという。
北海道社ではタイムカード管理をしていないので、記録された出退勤情報は持っていないが、【法人】自身の記憶を画面表示することはできるそうだ。
あなたはそれを聞き、膨大な質量の限りない可能性を感じた。
社内の資料としては存在しなくとも、【法人】の記憶にさえあれば、すべての情報をデータ化できるということなのだ。
おそらく、今の「在籍/非在籍」みたいな聞き方をすれば、それに応じたコード番号でデータを識別できるのだろう。
それなら、どんな問題でも解決の糸口がつかめそうだ。
(とは、少し言いすぎかな・・)
あなたのデータ読解力と解釈投与の言葉の選び方、そして、実行にあたっての相手側のリソースと実行力。
これらの4つがバランスよく作用しないと、解決に至ることは難しい。

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