カテゴリー: オーバーフォース

  • オーバーフォース(1)▲▲社の鑑定を終えてvol.058

    ハローワークからの連絡は思ったより遅く、▲▲社との面談が終わって5日後だった。 例の若い美人の担当官から電話があり、報酬は明日振り込まれるという。 そして、最大の関心事、契約については、引き続き今後もお願いしたいとのことだった。

    複雑な思いながらも、あなたは胸をなでおろした。 最低保障の月額十数万円の収入は、少なくとも今月分は確保された。 といっても家賃と水道光熱費、そして食費だけでほぼ消えてしまう。

    今後この契約が続いたとしても、アパートの更新料1か月分は身を削る思いで貯めなければならない。 健康保険未払分の納付額は、月千円ぐらいにしてもらおう。 役所窓口での面倒くさそうに、あるいは迷惑そうに対応されても、こうなっては甘んじて受け入れざるを得ない。

    (それにしても、よくあんな面談内容で「今後」があったものだ)

    【法人】の手相鑑定だなんてふざけた茶番ではあったが、基幹システムを検討する際のポイントやCSRに言及した点が良かったのだろうか。 そういう意味では、キツネにつままれたような気分がぬぐえない。 しかし、その程度では済まない事実が待っていた。

  • オーバーフォース(2)北海道株式会社の鑑定を終えてvol.070

    今回振り込まれた金額は、前回と比べると極端に少なかった。

    ハローワークの最低保障よりは遥かに多額だったので、【法人】からの報酬がそれを上回っていたのは確実だ。

    しかし今回は、新要素『【法人】内のデータベース』の存在を知り、それを駆使した高度な対応ができたはずだが、前回からの大幅下落はいったいどういう理由によるものだろう。

    「【法人】からの報酬金額査定の方法は、ハローワークでも知ることができません」

    例の、美人の女性担当官は電話の向こうでそう言う。

    予想していたことだが、あなたは混乱する。 前回の、驚くほど多額の報酬には、初回の契約金みたいなものが含まれていたのかと訊いてみた。

    プロ野球選手が入団するときの契約金に相当するものが、この【法人】相談にもあるのかもしれないと思ったからだ。

    「いいえ。報酬は2種類だけです。ハローワークの最低保証額と、1回の相談に対して【法人】が感じた価値に相当する分しかありません」

    自由業の収入は水物だ。多い時も少ない時もある。そう思うしかないのだろう。 

     

    (そういえば、国保と年金、それと住民税はどうなるのだったか?)

    委託契約が継続になったときに説明を聞いたと思うが、詳しく覚えていない。

    あの時は、振り込まれた大金が本当に自分のもので良いのかという確認に頭がいっぱいだった。

    (わざわざ電話をかけ直して聞くほど急ぐ話ではない)

    次に会う時に聞こうと思った。 そのことに、環境の変化を感じた。

    ほんの半月前までは、未払い国保の分割納付はあなたの生活を脅かす大きな要因だったはずだ。 それが今となっては、“急ぐ話ではない”と思えるのだ。

    しかし油断はできない。 この仕事がいつまで続くかわからないし、続いたとしても報酬が減って毎回最低保証額しか受け取れなくなったら、収入は1か月で15~16万円程度になる。

    しかも、契約期間中の就職活動は固く禁じられているのだ。 特別ボーナスに浮かれているわけにはいかない。

    (北海道株式会社の規模が小さいから、▲▲社の時のような額にならないのか)

    ぜひとも参考に知っておきたいことだ。

  • オーバーフォース(3)青森県株式会社の鑑定を終えてvol.092

    朝方に、青森県株式会社からの報酬を振り込んだとの連絡があった。

    次の面談依頼についての呼び出しでハローワークへ行き、その帰りにあなたは銀行へ立ち寄った。

    パソコンの調子が悪くて起動せず、振り込まれたという金額をネット上で確認できなかったため、銀行で記帳することにしたのだ。

    記帳機械の前には先客が一人いる。 あなたは順番を待ちながら、窓口の方向へ目をやった。

    たくさんの視覚情報の中で、今日の日付を示す数字だけが、あなたの意識をとらえた。 明日にはまた、次の面談が用意されているとのことだった。

    前回、北海道株式会社の面談後に言われた「次の2件」の2件目のほうだ。青森社の評価査定が早かったため、依頼のスパンが短い。

    担当官は以前、「1日に複数件の依頼を受けられるか」とあなたに確認してきたが、来週月曜にはその2件の面談を受けて欲しいという。

    あなたはそれを請けた。今のところ、断る理由はない。 毎回収入額が不安定ならば、件数をこなすのが一番、という事情もある。

    (稼げるうちに稼いでおかなければ)

    まずは、青森社が今回のあなたの鑑定にどの程度の評価を与えたのか、それを確認することだ。

    あなたは順番が回ってきた記帳機械に通帳を差し込んだ。 1行分だけ印字される音がして、すぐに通帳が吐き出された。

  • オーバーフォース(4)岩手県株式会社の鑑定を終えてvol.111

    荒療治の鑑定を終えてから4日後、ハローワークから報酬の振込連絡があなたのもとへ届いた。

    まだ、ビジネス誌への掲載話がどう進んでいるか、あなたにはまったくわからない頃だ。 結果が気になるのはもちろんだが、その前に気になるのは岩手社からのあなたへの評価だ。

    (やりすぎでは……?)

    との思いの強い面談だったため、はっきり言ってあなたは自信がなかった。 ひょっとすると、はじめて最低保証が適用されるかもしれない。

    ハローワークからあなたに支払われる日額の合計より、【法人】の報酬が少なかった場合、日額合計に満たなかった金額分だけハローワークによって補てんされる。

    依頼を受けてから昨日までで10日あまりだ。 振り込まれた金額が5~6万円程度だとしたら、あなたの悪い予想は当たっている。

    この4日間、最初の1日こそ(これでオヤジさんを救った!)という気持ちの高揚で充実していたのだが、翌日から一転してあの日の勇み足な鑑定が気がかりになり、何をしていても落ち着かない。 

     

    あなたが岩手社に施した示唆は、売上増伸につながるものではない。

    岩手社の相談内容そのものが、受注のオーバーフロー状態に関するものだったので、示唆の方向性が間違っていたとは言えないだろう。

    しかし、手相から読み取れる【法人】の性質や将来の姿を加味したせいで、「ビジネス相談」というカテゴリーに分類した場合、あまりにも拡大解釈をしてしまった可能性がある。

    提携先を切り離すような策を施してしまったのは、出過ぎたマネだったように思えてならない。

    (むしろ、うまくいかないほうが良いかもしれない)

    あなたの読みが外れ、その後の計画も失敗した方が、結果は好転するかも……。

    (いや、むしろ失敗してくれ。失敗して、自分の行為は無かったものとなってくれ)

    と、ますます弱気が加速していく。 それはそれで、あなたの面談に価値がなかったことになるので好ましくないのだが、「この1回は負けでいい」と思ってしまうことを止められなかった。

    「1回負け」が「これで終わり」かもしれないというのに……。

      

    パソコンでネットバンキングのサイトへアクセスするのが怖かった。

    凍り付いたように固まった表情のままIDとパスワードを入力し、明細を見た。

    (よかった)

    青森社からの報酬の約半分といったくらいの金額が、振り込まれている。 つまり、公務員時代の最大年収の約半分だ。

    (とりあえず、最低保証額ではなかった)

    岩手社は、あなたの判断に価値を感じてくれたことになる。

    独りよがりの解釈。強引な施策。出しゃばり……。 【法人】の評価基準は謎のままだが、どう考えてもあれだけのことをした割には、この程度で済んでよかったとも言える。

    もっとも、この金額のことを「この程度」と言えるのかどうかもあなたには全く分からないし、「この程度」などと考えるのは何ともおこがましいかぎりだ。

    だが、心配の半分は解消したと言える。

    こうなればあとはもう、自分の判断が正しかったことを祈るばかりだ。

    岩手社のオヤジさんと二人の息子たち、そして事務員の女性。皆、一日も早く救われてほしい。 ついでに、この落ち着かない自分の立ち位置も、何とかなってほしい。

    どこまで続けられるだろうか。この仕事を……。

     

    (【法人】鑑定第5エピソード『【法人】における不倫問題(宮城)』へ続く)