北海道株式会社のケース(4)vol.062

どの角度から切り込もうかと考えながら社員リストを目で追っていくと、明らかな違和感があなたの意識に割り込んできた。
大学に行こうと思ったことが無いあなたは、大学の名称にも疎いのだが、そんなあなたでも知っている有名校ばかりが「出身校」の項目列に並んでいる。
それに、リストの人数が多すぎる気がする。

“新生”北海道株式会社は、創業社長の夫人から引き継いでスタートした。
最初のうちは社員もほとんどいなかったはずだ。10年の歳月を経ているとしても、退職者数が身の丈に合わないほど多いと思う。
(退職者の在籍年数は?)
知りたいと思っただけで、その項目の表示列がリストに追加された。
驚いて男に理由を聞くと、【法人】とあなたがPC上でリンクアップされたからだと突拍子もないことを言う。
(・・・)
しかし、ハローワークが準備したこの面談の『設定』は無視すると決めている。要は「結果を出せ」ということだと思う。それに、こういうことは、あなたには胸が躍る楽しいことだった。

(やはりな)
短くて3日。退職者の平均在籍期間はギリギリ1年といったところか。
(原因は何か?)
あなたはそれを推測すると同時に、高すぎる人材流動性を克服するための、会社側の課題を考えてみようとした。
通常、こういったデータを見て問題意識を感じる人間なら、皆そうするだろう。

(だが、さっきこの男が言ったことが活かせるかもしれない)
あなたは男に、退職者が会社を去った理由をリストに表示できるかと質問した。
実際、企業が『退職理由』というデータを保有している例はある。
しかし、そういった場所に記録されるのは管理上の形式的な記載がほとんどだ。
そんな表面的なものではなく、辞めた人間の本音を表示させたい。

「残念ながら、【法人】は社員の心までは読めません」
男は首を振った。『退職理由』というデータ項目は、社員リストに表示できないという。
だが、そう言われてあっさり引き下がれるものではない。
そもそも、社内データではないはずの、現社長の生い立ちまでを知っているのはなぜか?
社長の記憶を読み取りでもしないかぎり、それは不可能ではないか。

あなたの追求に対し、男はあっさりと回答した。
「社内で音声として発された会話は、【法人】の記憶に残ります」
(そうか。それなら・・)
あなたは要求を変えた。
退職者の社内での会話の中で、繰り返し発される単語やフレーズの順位表だ。
どんな情報もデータベース化できるなら、そういったテキストマイニング的なデータ加工もできるはずだというと、男は少々戸惑いながらも承諾した。
出来ることはできるのだが、その形の情報抽出は、相当疲れるらしい。

やがて表示された結果をサッと目で追ったあなたは、退職者たちよりも、社長の採用方針に強い関心を持った。
(なぜ、ここまでこだわるのか)
社員にこんな印象を持たせてしまう仕事内容なら、無理に大卒者を採らないほうが良いのではないかと思う結果だ。
『プロフェッショナル集団』の定義見直しを提案するシステム会社の気持ちもわからないではない。
当然、システム会社の面々は、ここまで赤裸々なデータは目にしていないはずだが、北海道社の内部を見た最初の印象で、定義の見直しに着目するのは当然ともいえる。

あなたは、今度はじっくりと『退職理由フレーズの順位表』に目を通した。

<仕事に対するネガティブフレーズ> 発された回数
仕事がつまらない 178,734
自分にはふさわしくない 94,621
給料が安い 65,111
この会社での仕事は自分のキャリアにならない 63,098
やりがいを感じない 34,283
個性が発揮できない 33,100
同じことの繰り返し 15,901
上司がつまらない 8,764
会社に将来性がない 8,145
土日は休みたい 2,252

退職の理由と考えられそうな、会社へのネガティブなフレーズだけ、上から順番に10個取り出してみた。
1位の「仕事がつまらない」は、定番ともいえるフレーズで、傾向を知るうえでは無効なデータと考えてよいだろう。10位の「土日は休みたい」も同様に、シフト制の会社では定番の意見だ。
複数のデータを取得した場合に、最上位と最下位の情報を除いて有効データにする方法は、フィギアスケートなどでもお馴染みだが、まさかこんなところでそれを適用することになるとは思ってもみなかった。

そうして、2位から9位までにだけを材料に考えてみると、
(はてさて、これは出来レースか?)
そう思ってしまうほど、共通する特性が見出せる。
3位の「給料が安い」というのはともかく、それ以外からはいわゆるエリート志向的な傾向が感じ取れるからだ。
どこでもありがちな「残業が多い」、「キツすぎる」や「オフィスがダサい」、「トイレが綺麗じゃない、「美人(イケメン)がいない」などという、プライベート重視や個人的嗜好に偏ったフレーズはトップテン圏外か、そもそも存在していない。

(強い自負心を抱いている人間ほど、辞めてしまう傾向があるようだ)
『プロフェッショナル集団を目指しています』とは、単なるスローガンではなく、社長は本気でそれを考えて採用にも取り組んでいるに違いない。皮肉な結果を生み続けているように感じられるが、社長はその事実をどのように捉えているのだろうか。

(それでも、現在に至ってもなお、社長の意思はブレていない)
やはりそこに最大の謎がある。それに、彼を採用してくれた社長が作った会社だから、社歴こそある程度長いが、零細企業に有名大学の出身者がこんなに入社するなど、就職難の時代といえども不自然な気がする。

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