北海道株式会社のケース(9)vol.067

不覚にも、涙が出そうになった。
(いけない)
そういえばこの鑑定、最初から感情移入していた気がする。

あなたは気を取り直した。
社長がプロフェッショナル集団を目指したきっかけと、この会社の強みについてはほぼ把握できた。
システム会社の営業担当者が、「プロフェッショナル集団の定義見直し」を提案することにも、こうなると賛同できる。
大卒にこだわる必要はない。教育システムがこれだけしっかりしていれば、人材が定着しやすい環境は既にできている。
じっくりと時間をかけて社員を育てることができるので、場数を踏んでいくうちにプロフェショナルな人材になるのは比較的容易だ。学歴は問題にならないはずだ。

しかし、北海道社のこれまでの傾向からすると、上昇志向で独創性の強いタイプが、教育システムとの不適合を起こして短期間での退職を繰り返している。
そうすると、人が居つかない文化が定着してしまう(というか、既にしているだろう)。それが社員たちの意識にも根付いてしまっているはずだ。

それに気づかない社長とも思えない。

あなたは、社長の方針に疑問を呈したシステム会社が、どんなパッケージを売ろうとしているのかを【法人】に質問した。
当然、北海道社を見て問題を感じた点に働きかけるような製品を勧めているはずだ。

しかし、【法人】の答えはあなたを失望させた。
「システム会社から提案されたのは、『プロジェクト型の収支管理に強い会計システム』です」
あなたの頭の中には、プロジェクト番号がズラリと記された『PJマスタ』という名称のデータ格納テーブルが思い浮かんだ。
売上・仕入のデータ、そして振替伝票仕訳などは、該当するPJコードを付与してシステム入力しておき、あとでそのコードを目印に、プロジェクト単位でデータを串刺しに出力できるといった程度の基本形しかイメージできないが、おそらくそれの発展形ではないかと思う。

【法人】は続けた。
「プロジェクト番号リストのインターフェースを起点に、顧客の取引記録の抽出や、売上と利益の図表化ができて、利益計画の策定資料が素早くできる点を特に強調していました」
と、あなたの想像の裏付けをするような内容だった。おそらくもっと高い金額のものなら、より高度な機能を備えているのだろうが、北海道社のスケールに合わせた廉価版を勧めているのだろう。

あなたが見たところ、それだけのシステムなら、北海道社はわざわざお金を払ってまで買わなければならないものではない。

(それは既に機械よりも的確にできている)
そもそも北海道社は、仰々しく基幹システムを導入するような規模になっていない。
規格外の道具を押し込んで、各種機能を宝の持ち腐れにしてしまうか、不必要な機能を使うために無駄な労力を奪われるか、どちらにせよ投資効率が悪すぎる。
財務体質が弱いところへ、大幅なキャッシュアウトをもたらす質の悪い投資などすべきではない。

「社員が居つかない状態が解消されると採用コストが抑えられて、システム導入費を払ってもおつりがくると、システム会社は話しています」
あなたの内心を感じ取ったかのように、【法人】はシステム導入による財務負担の軽減効果について口にした。

確かにそのとおりだ。今は、ほとんど常に社員募集をかけているような状態で、転職サイトへの掲載をはじめ、採用決定による手数料支払いや、社内での応募書類管理や面接対応にかかる手間暇を含めると、実質的なコストは結構な額になる。

(普通、このくらいの人数規模で求人募集している企業は、しばらく経つとまったく掲載されなくなるものだ)
長い間求職活動をしてきたあなたは、そういう実例をたくさん目にしている。繰り返し求人情報が掲載されているのは、大抵それなりの人数規模を持つ企業だ。

ごく小さな企業が繰り返し求人情報を出し続けるケースは多くない。採用活動に割く力あるなら、もっと別な方面に充当したいからだろう。
社員10名程度の企業では、処遇や知名度や将来性などの条件ゆえ、逆に、優秀な求職者からは相手にされないことが多い。やってきた応募者の中にそこそこの人材が居たら、慎重に吟味して採用し、何とか長続きするようにしたいという想いは、大きな企業よりもはるかに強い。

(北海道社だって、実態はそれに近いはず。それなのに、ワザワザそこまでする理由は?)
『プロフェッショナル集団』にこだわっているだけなら、ここまで来れば話は簡単だと思う。

求める人材のタイプを転換させ、継続的な採用活動はストップさせる。

今あなたの目の前にいる【法人】は、社内の空気感や土壌を構成して社長や社員を『誘導』できるというのだから、この男に対してあなたがそれを示唆すればよい。

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