投稿者: 469buncho

  • 岩手県株式会社のケース(7)vol.099

    ビール供給機は、ビア社と提携している飲料メーカーの傘下企業が、開発を担当した。

    最初は全機能を供給機に持たせるつもりだった。
    当然、そういうことになるだろう。

    しかし、供給機開発会社に費用の見積もりを出させたところ、ビア社の予算をはるかに超過していた。
    さっそく値下げ交渉に入ったのは当然だ。

    ただ、ビア社が親会社であるアミ社の意向を無視できないのと同様、開発会社も飲料メーカーから示唆された受注予算を減額することはできず、交渉は平行線をたどることになった。

    進退に窮したビア社は、供給機開発会社に発注する機能を絞った。
    音声認識、乱数発生及び自動配給機能だけを注文することとし、残りはエレクトロニクス業界の一部で評判の高い岩手社に依頼することになった。

    岩手社にしてみれば、ビア社の予算的なしわ寄せを受けてしまったようなものだ。

    (安い予算で高い技術を提供した挙句、今度はこき使われようとしているのか)
    あなたは岩手社に同情した。

    「今なら、もっと予算を大きくとれるんでしょうね。飲料メーカーにも強気で出られるはずでしょうから」
    【法人】は述懐するかのように言うが、これも岩手社の社内で交わされる会話なのだろう。

    予算を大きく取って、指輪偏重となっている今のスタイルを根本から変えてもらわないと、と【法人】は言う。

  • 青森県株式会社のケース(6)vol.076

    どこから見ていくかをあなたは考えた末、少数精鋭式が破たんした時期に注目することにした。

    (最初に成長が失速した頃の社員数は?)
    社員マスタから確認すると、最初の最盛期はパート3名を含む5人で社業を取りまわしていた。

    売上規模からするとかなりの少数精鋭だが、それは各研究機関内に、事務手続きを無償で引き受けてくれている役所の事務官たちが居たからで、この生産性の高さは青森社の実力とは言えない。

    本格的な成長期を迎え、顧客ターゲットが広がってくると、これまでのように青森社に都合よく働いてくれる福利厚生担当者を備えている客などは1%もいない。

    サービスを手広く展開するには、事務量に応じた本部社員を増員するのはもちろんだが、営業担当もそろえる必要がある。

     

    あなたは、本来の成長期に入ってからの財務諸表を、伝票単位に分解し、売上と仕入、そして販管費からいくつかの科目を抜粋してみた。

    いわゆる直接原価計算に近い算定をしてみると、金額規模こそ「対公務員限定時代」より大きいが、限界利益の下がり方が顕著だ。

    価格競争の激化で売上高が下がったのも大きいが、契約手続きなどの事務負担が激しく増加している。

    限界利益=売上高-変動費

    収益が減ればそれに応じて原価の引き下げを図るのはもちろんだが、固定費はそれ以上に徹底的に抑えなければ、激減してしまった限界利益ではそれを吸収できない。

    だが、青森県株式会社にとって、この事業における本格的なコスト発生は初体験のことゆえ、その削減方法が身についていない。それまで他人任せだった新規獲得から代金回収と解約に至るまで、すべてが弱かった。

     

    民間へ手を広げた当初は、顧客が少なかったので管理が弱くても注意が行き届いた。
    だが、ボリュームが増えるとたちまち事務品質が落ちた。

    対策に慌てた社長がアドバイスを求めた相手が研究機関の役人たちだったため、事務は混乱を極めることになった。

    事務が混乱を極めた理由は明白だ。
    家具レンタルサービスの利用者は、役所の厚生係から見れば新任の職員だが、青森社から見れば顧客にあたる。

    役所内における同僚向けのルール説明や注意喚起の仕方を参考にしても、青森社の商売には適合しない。

    かつては、商売への考えが甘い友人に「だから公務員ってのは世間知らずなんだ」と言い放った社長だったが、急成長のパニックに冷静な判断力を失っていた。

    クレームが続出するごとに急場しのぎで事務手順を増やしたことが、ただでさえ複雑化した業務に余計な煩雑さを加え、そのまま固定化されてしまったのも痛かった。

    《続く》

  • 青森県株式会社のケース(5)vol.075

    (それが『第1成長期』か)
    元国家公務員のあなたにはなじみ深い話がいくつもあった。

    たしかに、当時そんなことをしている業者はなかったから、新しいサービスとして活況を呈したのもわかる。

    あなた自身、初めて入った宿舎にベッドとタンスが備え付けられていて助かったが、その他のインテリアはどうそろえてよいか全く頭が回らなかった。

    テーブルや食器棚なども入居時に用意できれば、それらを使って生活していくうちに、次の引っ越しのときに必要な家具への嗅覚も育ったと思う。

    インターネットもないあの時代に、普通に参入したとしたら難しかっただろう。
    顧客にメリットを説明するためのコストがかかり、商売としては大きな賭けになってしまったに違いない。

    客側に仲介者がいて、しかも高い信用力と実務能力を持っていたという夢のような条件がそろったことで、青森県株式会社の社長はいわば下駄を履かせてもらった感がある。
    まあ、運も実力のうちだ。

    「でもねぇ、ひととおりサービスが行きわたった後は、異動の時しか新規客は増えないでしょう」
    【法人】はそう語る。

    しかし、ほぼ2年単位で異動が繰り返されるなら、母数が大きいだけにインパクトは大きいのでは、と、あなたは思いかけてすぐ悟った。

    (客は研究所の職員か。それだとビジネスは思ったほど伸びないだろうな)

     

    職員の9割程度を占めるはずの研究者たちには、引っ越しを伴う異動というものはほとんどない。
    研究所に腰を落ち着けてその地域で生活を送るのが普通で、引っ越しは結婚して独身寮から世帯寮に移るときくらいだ。

    頻繁な異動は残りの事務官たちだけのはずで、その中には社長の友人のように地元採用者が混ざっている。
    とすれば、国家公務員といえども人員の出入りはそう多くないことをあなたは察した。

    そうなると、最初の急成長がある時点でストップした理由がわかる。
    青森県株式会社が近隣の役所(研究所)を開拓しきってしまったからだ。

    ということは市場全体でいえば、他社が積極的に参入する本格的な成長時期は迎えていないので、青森社がひとり勝ちしていた時期は成長曲線でいうと、まだ“導入期”にすぎず、次の第2成長期に見える急上昇こそ本当の“成長期”と言えるだろう。

    このときから民間にもサービス提供を始めたというが、青森社社長のパーソナルな力が及ぶはずの同地区以外の顧客には、どうやって手を広げていったのか?

    《続く》

  • 岩手県株式会社のケース(6)vol.098

    (しかし、『スタビライザー』とは何のことか?)
    【法人】の説明序盤で早々に放棄したこの言葉に、再び戻ってしまった。

    改めて【法人】に質問してみると、どうやらこういうことらしい。

    「ビールの指輪!」という音声を感知したビール供給機の読み取り口からは、半径60センチの範囲に微弱な電波が10秒間放出される。

    放出範囲が広すぎたり、放出時間が長すぎたりすると、近くにいる他の会員の指輪が反応して誤作動を起こす可能性があるので、その防止のため「60センチ、10秒」を限度とした。

    mode_rnd

    照射範囲内に入った指輪は、供給機からの電波の存在を検知すると同時に発信元を突き止め、受信信号を送り返す。

    1秒間に128回の送受信が連続成功した時点で、「accept」の情報を供給機側へ送り、ランダムモードの注文は完了する。

    ちなみに、客が容器の選択ボタンを押した場合(通常モード)の電波放出範囲は短く、20センチを限度としている。

    mode_nml

    通常モードで容器サイズを決定する場合、普通は派手なポーズを取らないので、電波の送受信は20センチ以内で行われると考えて問題ない。

    しかしランダムモードを選んだ場合、会員の手は照射範囲などお構いなしに動き回り、半径60センチの外へ出てしまうこともある。

    どの角度へどんな速度で移動しようとも、そして、その途中で照射範囲の外へ出ようとも、単位1秒の中で正確に発信元を特定して交信を行える機能を、小さな指輪の中に装備させたのが『スタビライザー』と呼ばれるものの正体だった。

  • 岩手県株式会社のケース(5)vol.097

    手相とデータベース(あなたにとってはどちらも同じものだが)、いずれの判断材料も、岩手県株式会社が「高品質の多品種少量生産」あるいは「一品もの」に適していることを示している。

    岩手社を訪れている各システム会社の営業は生産管理システムを提案してきたというが、規模を追わないこの会社にはそぐわない。

    話を聞くと、どのシステム会社も、今話題沸騰の『ビールの指輪』の部品用にという話で勧めてきているようだが、それはあきらかな過剰投資だ。

    「今導入して使い方に慣れておけば、将来の多角的活用が期待できると言ってきた会社もありましたが、それはどうでしょう」
    【法人】はあなたにそう訊いてきた。

    岩手社内では、勢いに乗せられた今回の話は抜きにしても、いずれは必要になるものなのではないか、という検討もされているらしい。
    おそらく、二人の息子たちはまだ若い世代だけに、IT関連のそういった話には少し引き付けられるところがあるようだ。

    それはどうだろうか。
    あなたはそうは思わない。

     

    大きな企業では「システム導入は何年何月から運用開始したい」と時期を基準にできるのに対し、小さな企業では「システムは今この瞬間から使いたい」という切羽詰まった状況であることが多い。

    導入されてから使い方のレクチャーや訓練が始まるようでは使い物にならないので、早くから自社業務のIT化について検討し、使用練度を上げておくことは非常に大きな要素になり得る。

    その意味で、今導入して使い方に慣れておくというシステム会社のセールストークは妥当だ。

    しかし、システム会社に「相談」する程度ならともかく、パッケージを買う前提での「商談」はまだ早い。
    少なくとも、岩手社内でシステム活用するほど定型業務がかさんできてから始めるべきだと思う。

  • 岩手県株式会社のケース(3)vol.095

    ビジネスが予想以上に急成長したときに起きる代表的な問題は「品質低下」だ。

    これは、製品の品質である場合もあるし、事務品質の場合もある。

    それから見落としがちなのが、自社は何とかしのげても、外注先や提携企業がパンクしてしまうことだ。

    他社の内情までは詳しく知らないから、そんなに切羽詰まっている状況が把握できず、急に納期が遅れだしたり、ミスの連発が起きて何事かと追及したら、「そんなオーダー数に応じられる能力はない」と打ち明けられることがある。

    事業を始めたばかりの無名企業と組んでくれるのは、地元で同じように小さく事業を営む会社であることが多い。

    釣り合いの取れる規模のうちは良いが、片方が急成長を始めると、もう片方がそれについていけなくなる。

    ビア社の場合、急成長による自社内の品質低下は、親会社からの早々の援助により、さほど深刻にならずに済んだ。

    資金援助によるインフラ整備が早かっただけでなく、人員不足についても、同じビルのフロア内にいるアミ社から応援要員が駆け付けた。

     

    しかし、指輪の心臓部を託された岩手県株式会社は、単独で事業を営む地元の小さな町工場にすぎない。
    熟練工の社長(オヤジ)と二人の息子のほかは、事務の女性をひとり雇っているだけの陣容だ。

    当初ビア社の事業部長は「ひと月に5個も作れればいい」という見込みでこの話を打診してきた。
    「いいよ。そのくらいなら」と、オヤジが引き受けて始まった。

    ところが、たった4か月後には注文数が、月間300個になった。

    工場では他の仕事も受注している。それらも手掛けながらだと、休みなく働いても月に15個が限度だった。

    前月に78個の注文を受けたことに驚きながらも「断る口数より、やった方が早い」とだけ言って淡々と仕事をしてきたオヤジですら、これにはさすがに音をあげた。

    オヤジだけが持っている独自の感覚が、スタビライザーを実現させる。
    息子たちには、まだそれができない。

    オヤジが担当している他のことをどれだけ息子が引き受けても、絶対的に時間不足だ。

    それに、職人の仕事には長年の経験で自然に身についた理想的なリズムがある。
    前後の作業をすべて人任せにすると、肝心な部分の精製が上手くいかない。
    単なる計算で効率を追求しても、この場合は解決策にならないに違いない。