投稿者: 469buncho

  • 転職門前払いとハローワークからのオファー(3)vol.003

    ハローワークに到着したあなたは、受付機から待合の札を取り、パイプ椅子に腰かけて、自分の番号が表示されるのを待つ。

    昨日は求人案件を数件、検索用PCからプリントアウトした。そのうちの3件へ応募する。

    このあとは、やはり昨日「しごとセンター」でピックアップした求人4件に応募するために、50分ほど自転車をこいで都心へ向かう予定だ。
    電車賃の負担は、大げさでなく家計を圧迫するので、そんな移動手段を余儀なくされている。

    平日朝一番のハローワークは、それほど込み合っていない。
    だが、一時間以内にフロア内の光景がどう変わるかを、あなたは詳しく知っている。

    求人検索用PCがズラリと並ぶ一帯では、表情を失くした利用者たちが機械の前にびっしりと張り付き、一言も発さずに求人情報画面を切り替えて案件を物色している。

    失業給付受付窓口の前には長蛇の列ができ、最後尾はかなり離れた距離にある総合受付にまで達する。

    失業手当の口座振込申請者の数は、備え付けのイスの数をはるかに上回るので、名前を呼ばれるまで所在なさげにカウンター前のあちこちのスペースにたたずむ人でごった返す。

    今あなたがいる就労相談窓口も、あっと言う間に数十人待ちになるはずだが、今日はハローワークへの到着が早かったので、あなたの受付番号札の数字は一ケタだ。
    電光掲示の番号表示は、次があなたであることを示している。

    ……

    しばらくの間、3社の募集要項を丹念に見直していたあなたは、ずいぶん待たされていることにようやく気付いた。
    電光掲示の番号は、もはや20番台だ。

    《続く》

  • 転職門前払いとハローワークからのオファー(2)vol.002

    職探しが困難な現実を、あなたはこの1年ほど、身をもって体験中だ。

    前の会社は求めて辞めたわけではないが、形式上は『自己都合による退職』だ。

    次の職場を決めてから退職するはずが、今や失業給付が終了し、蓄えを食い尽くすほどにまで切羽詰まっている。

    あなたはずっと事務職だった。
    わりあい器用で、ずいぶん幅広く活躍してきた、と思う。
    転職回数が多かったからこそ、それが実感できる。
    総務、経理、人事、営業事務、企画etc.

    就職支援のカウンセリングでも、『その順応性の高さは長所になるから、そこをアピールポイントに』というアドバイスを何度も受けてきた。

    が、それは違っていた。

    順応性の高さは、同じ職種で長年やってきた同士の競争では有利だが、あなたは複数の職種を経てきて、どの職種もそれほど長くは経験していない。

    若いときなら経験年数が少ないことを、順応性でカバーできるが、あなたの年齢ではそういうわけにはいかない。

    十年戦士の応募書類は圧倒的な説得力を持つが、あなたの職歴では、どんなに工夫して書類を作っても、人事担当者に斜め読みされるだろう。

    いや、同じところに十年以上勤めたことはある。しかし、官庁なのだ。
    これは意外なハンデキャップになる。

    10年以上官庁にいたことが逆に、『民間では通用しない理由』と宣言されたことも、一度や二度ではない。

    公務員時代にはバリバリやっていて、それなりに自信を持っているあなただったが、それは早々に封印しなければならなくなった。
    だからといって、民間経験に特化したアピールもまた、大きなマイナス要因をはらんでいる。
    職歴に統一性がないからだ。

    生活のために職種で贅沢を言えない状況だった。
    とにかく目の前の職に飛びつくしかなかった。

    数百社へのエントリーで、面接まで進めたのは、たったの6社。
    その希少なチャンスにかけた願いも、あえなく散った。
    面接の悪夢を見てしまうのも仕方あるまい。

    就職活動にすべての気力、体力、資力をつぎ込む毎日。
    少ない貯蓄が余命のように感じられ、恐怖が増大する。
    やはり、職種にこだわってはいられない。こうなると、正社員も派遣もバイトも関係なくなってくるのだ。

    (まずはハローワーク)
    簡単な朝食を済ませた後は、日課となっている【ハローワーク詣で】だ。
    あなたは澱んだ空気の充満するアパートの部屋を出た。

    《続く》

  • 転職門前払いとハローワークからのオファー(1)vol.001

    「前の会社を辞めた理由は何ですか?」
    向かって一番右の、50代くらいで小太りの面接官が、あなたに問いかける。
    答えるために息を吸い込んだ瞬間

    「自分を一言で売り込んでみてください」
    その隣にいる、痩せ型で30代くらいの面接官が、銀縁のメガネ越しにあなたをジロリと見た。

    一度に二人からの質問を受けたあなたはとまどう。

    その横からさらに
    「1年ほど職歴が無い期間があるようですが、その間は何を・・?」

    またその隣からは
    「先ほどおっしゃった、前の会社を辞めた理由の『自分の志向と合わない点』というのが、当社でも起きてしまった場合、その点をどうクリアできますか?」

    準備してきた応対がまるで通用しないことにあなた混乱し、言葉が出ない。
    沈黙が続くと形勢は不利だと知りつつ、あなたの思考は停止した。
    全身全霊で臨んだ念願の面接が、さっそく消化試合になりそうな気がする。

    (おかしい。何か変だ)
    あなたはイスから立ち上がり、脱出を図った。
    が、振り向くとなぜか目の前には、胸の高さのバリケードが張られている。

    それに急に体が重くなり、足が持ち上がらない。
    仕方なくあなたは、両手をついて這って進んだ。

    後ろから、面接官たちの声が追ってくる。
    どうも人数が増えているようだ。

    もはやあなたは振り返ることをやめた。やみくもに脱出を図る。
    バリケードのてっぺんに両手をかけ、思い切りジャンプした。
    しかし、地を蹴ったはずの足は空を切り、バリケードにかけていたはずの両手まで空を切って、勢いよく下がった。

    あなたの意識はそこで覚醒した。

    今の手足の動きはどうやら現実に行われたらしく、両手で勢いよく掛け布団をはいでしまったことに驚きながら、あなたはこの悪夢に終止符を打った。

    狭い一人暮らしのアパートだ。

    薄汚れた壁に、雑然と並べただけのカラーボックス。
    あとはパイプハンガーと、パソコンが置かれたテーブルがあるだけの殺風景な室内のシルエットが、薄い光の中にぼんやりと浮かんでいる。

    起き上がって窓際へ行き、くたびれて色あせたカーテンをまくると、土ぼこりで汚れたガラス越しに、薄曇りの朝の光景が広がる。
    今しがた見た夢と現実に大差がない、いつものあなたの一日を思わせる光景だ。

    《続く》