岩手県株式会社のケース(6)vol.098

(へえ)
無感動で平坦な感想しか、あなたは持つことができない。
機械が苦手なあなたに、こみ入ったエレクトロニクスのメカニズムはどうにも馴染めない。
しかし、それほどの機能を指輪のパーツに仕込んだ技術の凄さはわかる。

たとえば、小型化をイメージすることはできても、それを制作するための部品や工具、そして動作イメージが伴わないと空想にすぎない。

だから、大多数の人間にとっては空想の域を出ない。

そんな中、岩手社のオヤジさんだけにはそのイメージが出来、しかもそのとおりに手を動かせる力があったということなのだろう。

(それにしても、なぜ『指輪側』に機能を集中しなければならないのか)
今聞いた話によれば、ランダムモード時に複雑な機能を発揮するのは指輪側ばかりだ。

デカい図体をした供給機側では、「ビールの指輪!」の音声を認識して半径60センチ範囲へ電波を送信し、交信完了後は乱数を発生させてサイズ選択をすることしかしていない。

サイズが決まってからの動作自体は、普通の自動販売機とさほど変わらないはずだ。
指輪と供給機の両者で、受け持つ機能に差がありすぎると、素人のあなたにも感じられた。

現在は、発信体である供給機の存在を、受信体である指輪が捕捉する方式で動いているが、考え方を逆にすれば良いだけな気がする。

『スタビライザー』は、指輪サイズだと岩手社のオヤジさんにしかできない仕事になるが、供給機側に付けられる大きさなら、比較的簡単に実現できるのではないだろうか。

あなたは【法人】にそう話してみた。

「実は当初は、ビア社はそういう形にしたかったようです」
【法人】はそう語り出した。

「【法人】の記憶」にそれが残っているということは、社内でその会話が行われていたということだ。

(やはりそうか)
このビジネスでは、指輪はプレミア感の演出用に、高いデザイン性さえ確保できればよい。

どれだけ欲張っても、本人識別機能まで装備できれば十分だ。
スタビライザー機能は明らかなオーバースペックである。

どう考えてもその機能は、供給機側に搭載するのが自然だ。

「それができずに、指輪に頼る仕組みになってしまったのは、ビア社の予算のためです」

(うーむ……)
何となく話が見えてきた。

《続く》

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