北海道株式会社のケース(2)vol.060

結局、たったの1年で先輩たちを追い抜いてしまった。

その間、父は他界した。
息子と共に神輿を担ぐ望みを果たせぬままに。

そのせいもあって、父のように社長を慕うまだ十代の彼は、弟のように可愛がってくれる先輩たちの言うことも素直に聞き、良い関係を築いている。

第二の家族と共に過ごす会社での毎日に、父を失った悲しみからは幾分救われ、苦しかった前3年の記憶はすっかり薄れていった。

しかし、それも長くは続かなかった。

彼の入社1年祝いを社員一同でしてくれてから2か月後、厳しくも優しかった父親代わりの社長が、不慮の事故でこの世を去った。

未亡人が夫の遺志を継ぐと宣言したが、社長を失った零細企業は深刻なダメージを受ける。

「祭り好きだから、俺はイベント屋。公私ともに祭り。俺の人生は祭りなんだ」
常日頃そう言っていた社長が、会社に命を吹き込んでいたことを、残ったメンバーは思い知らされた。

やがて社員たちは徐々に去っていき、残った社員は彼の他に、一番気の優しい1歳年上の先輩社員だけとなった。

火が消えたようなイベント屋は、仕事からも見放されていく。
ついに、2代目社長である未亡人は、会社をたたむことに決めた。

最後まで残ってくれた、たったふたりの従業員に廃業を告げた。

しかし、目の前でうなだれる少年のことを、生前の夫は一番気にかけ、可愛がってもいた。
不憫でならず、最後にひとつの提案をした。

「あなたにこの会社を譲ってもいいわ。あなたがやってみたいなら」

《続く》

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