オーバーフォース(1)▲▲社の鑑定を終えてvol.058

ハローワークへ駆け込んだあなたは、総合受付で担当官を呼び出した。

担当官は別室で待っていた。 あなたがやってくることがわかっていたようだ。

「金額は私には知らされていませんが、振り込まれた金額が想像より大きかったのでしょうか?」

あなたはうなずいた。

「驚かれたとは思いますが、そういうこともあるのです」

担当官が言うには、【法人】が面談内容に価値を感じた場合、それに相当する金額を報酬として支払うのは、先日取り交わした委託契約書のとおりだが、企業が享受した価値が基準になるため、個人では及びもつかぬ金額になることもあるそうだ。

それは帳簿に乗っているキャッシュとは違う【法人】の持ち物であり、違法なものではないという。

(それはそうだろう)

ハローワークが介在していて、裏金のような後ろ暗い金の授受が行われるはずがない。

「経済の流れの中では、見えているお金とそうでないお金があります。今回お受け取りになられたのは、一般的には捉えることのできない、表に出てくる機会を失ったお金です」

繰り返し、これは違法なものではないという。 強いて言えば、発行されたのに、生きた流通に乗ることのできなかったものと思ってほしい、と言う。

急に返還請求されることはないかとのあなたの問いに、担当官は「それはない」と応じた。 振り込まれたキャッシュは、あくまでもあなたの所有になったという。

「面談の都度、そんな大金が入るということではありません。今回は相手の【法人】が、面談にそれだけの価値を感じたということですので、あくまでも今回限りと思ってください」

担当官はそう言った後、少し気持ちを和ませようとしたのか、「毎回驚くほどの金額が振り込まれるほど、価値ある面談ができるよう頑張ってください」と笑顔を見せた。 

(信じられない)

不得要領にハローワークを後にしながら、あなたは用心深く考えた。 面談したあの男が▲▲社の社長だったとしても、この金額をあなたに支払うとは到底考えられない。

(来月分の家賃の心配どころじゃない)

10年分払っても、まだまだ十分手元に残る。そんな額だ。

(あり得ない)

常識を当てはめて否定しようと努力するが、爪に火を点すような倹約続きのストレスから、一気に解放された伸びやかさはおさえようもなかった。

通帳の金額を見ると「助かった!」と叫びたくなるのだ。 健康保険や住民税の払い込み用紙、買い替えが必要な日用品、食べたくても入れない近所の飲食店など、お金がないゆえにあなたの心にダメージを与え続けた存在が、急に失せたように感じる。 いや、実際に失せたのだ。

あなたに実感はないが、あなたが▲▲社に出会ってアドバイスした瞬間から、新たな波が訪れている。 それは単純に「ツキ」などという言葉で表せるものではない。

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