▲▲社のケース(8)vol.055

いったん始めた開発は止められない。
システム会社で開発用の人員を確保すれば、その分の人件費がかかる。

当然、手待ち時間にもコストが発生する。
カスタマイズなら追加請求の見積もりが出せるが、待っているだけではそれもできない。
「いったん立ち止まって考え直したい」という客側の都合で凍結させておくわけにはいかない。

▲▲社側では、何が起きても日常業務は決して止めず、常に走りながら考えるという無茶をやりつつ、現場のオペレーションをシステムとすり合わせる必要がある。

各担当者は、次々に火のついた眼前の実務をこなしながら、同時に全体を俯瞰して未来の形を創造しないと、本当に役立つシステムはまずできない。

が、そこまで準備できている会社など皆無といっていい。

それに、経理部門だけが騒いでいる、ということは、全社的な大変革なのに、自分を『当事者』と考えている人間が少なすぎる点も致命的だ。

営業などの事業部門は「システムのことだから本部に任せる」とばかりに、要件を詰めていく肝心な段階では参加せず、話がまとまってきたところで各論的なイチャモンを付けて開発を混乱させるのが関の山だ。

「でも、システム会社がしてきた次の提案で、新社長は心を動かされたようです」
(フム?)

【事業フェーズに応じたカスタマイズプロジェクト】
 主なラインナップ
 ・商品とベンダの段階的変更を見越したデュアル製品マスタ
 ・「配送ルートシミュレーションツール」実装の原価計算システム

「彼らは、『このプロジェクトを行うにあたっては、弊社の開発チームリーダーと主要メンバーを固定して、継続的に末永く尽力したい』と、ウチの歴史になぞらえて、新社長を中心とする若手社員と自分たちシステム会社の関係を強固にし、共に第二創業期を歩みたいというプレゼンをしてきました」

(先代が築いてきた『関係者との信頼関係』という財産を、2代目にも自前で築かせようと誘導したか)
自立心の強い新社長には最も刺激的な誘いと言えるだろう。
それに、今の社内での彼の“苦境”を支えてくれる若手社員たちに報いてやりたいという一体感もあったはずだ。

(強力な仮想敵に対して強い結束を持つのが、この会社の文化だからか)
すでに▲▲社は業界のカテゴリトップの地位を築いている。

父の血を色濃く継ぐ新社長は、自社の既存の在り方を強力な仮想敵とし、若手メンバーたちと共に挑戦しようとしているのかもしれない。

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