投稿者: 469buncho

  • 宮城県株式会社のケース(1)vol.112

    何か複雑な気持ちだ。
    あなたは顔にこそ出さなかったが、この後の面談はどういう展開を見せるだろうかと戸惑った。

    まさか【法人】から不倫の相談を受けることがあるとは、思いもよらなかった。

    まあ、【法人】という存在からの相談自体が、しばらく前までのあなたには思いもよらないものだったが……。

    (これも『口コミ』のせいか)
    北海道株式会社の面談後、にわかに広まったと思われる【法人】間でのあなたに関する口コミ。

    どんな点が、どんな具合に好評だったのか、それはあなたに口コミのことを教えてくれたハローワークの担当官も知り得ないことだ。

    当然、あなたにもわからない。

    自分が【法人】の目にどう映り、何を期待されているかわからないまま接すると、ついつい自意識過剰になる。

    試みに、目の前にいる「宮城県株式会社」に尋ねてみた。
    【法人】間でのあなたの口コミについて。

    「他の【法人】の考えをここで話すことはできません」
    宮城社は怪訝な顔で答えた。

    これ以上の質問は、あなたにとってもよくないことになりそうだ。
    事業に関すること以外で、下手に【法人】の事情に踏み込むことはタブーなのだろう。

    深掘りすると、それこそ契約終了になってしまう恐れがある。
    今、この仕事を失ったら、あなたは小金を持った程度の失業者に逆戻りだ。

    (ひょっとすると、以前にもこういった「深掘り」をして解任になった担当者もいたのではないか……)
    あなたは、これ以上この話題に触れることを避けた。

  • オーバーフォース(4)岩手県株式会社の鑑定を終えてvol.111

    荒療治の鑑定を終えてから4日後、ハローワークから報酬の振込連絡があなたのもとへ届いた。

    まだ、ビジネス誌への掲載話がどう進んでいるか、あなたにはまったくわからない頃だ。 結果が気になるのはもちろんだが、その前に気になるのは岩手社からのあなたへの評価だ。

    (やりすぎでは……?)

    との思いの強い面談だったため、はっきり言ってあなたは自信がなかった。 ひょっとすると、はじめて最低保証が適用されるかもしれない。

    ハローワークからあなたに支払われる日額の合計より、【法人】の報酬が少なかった場合、日額合計に満たなかった金額分だけハローワークによって補てんされる。

    依頼を受けてから昨日までで10日あまりだ。 振り込まれた金額が5~6万円程度だとしたら、あなたの悪い予想は当たっている。

    この4日間、最初の1日こそ(これでオヤジさんを救った!)という気持ちの高揚で充実していたのだが、翌日から一転してあの日の勇み足な鑑定が気がかりになり、何をしていても落ち着かない。 

     

    あなたが岩手社に施した示唆は、売上増伸につながるものではない。

    岩手社の相談内容そのものが、受注のオーバーフロー状態に関するものだったので、示唆の方向性が間違っていたとは言えないだろう。

    しかし、手相から読み取れる【法人】の性質や将来の姿を加味したせいで、「ビジネス相談」というカテゴリーに分類した場合、あまりにも拡大解釈をしてしまった可能性がある。

    提携先を切り離すような策を施してしまったのは、出過ぎたマネだったように思えてならない。

    (むしろ、うまくいかないほうが良いかもしれない)

    あなたの読みが外れ、その後の計画も失敗した方が、結果は好転するかも……。

    (いや、むしろ失敗してくれ。失敗して、自分の行為は無かったものとなってくれ)

    と、ますます弱気が加速していく。 それはそれで、あなたの面談に価値がなかったことになるので好ましくないのだが、「この1回は負けでいい」と思ってしまうことを止められなかった。

    「1回負け」が「これで終わり」かもしれないというのに……。

      

    パソコンでネットバンキングのサイトへアクセスするのが怖かった。

    凍り付いたように固まった表情のままIDとパスワードを入力し、明細を見た。

    (よかった)

    青森社からの報酬の約半分といったくらいの金額が、振り込まれている。 つまり、公務員時代の最大年収の約半分だ。

    (とりあえず、最低保証額ではなかった)

    岩手社は、あなたの判断に価値を感じてくれたことになる。

    独りよがりの解釈。強引な施策。出しゃばり……。 【法人】の評価基準は謎のままだが、どう考えてもあれだけのことをした割には、この程度で済んでよかったとも言える。

    もっとも、この金額のことを「この程度」と言えるのかどうかもあなたには全く分からないし、「この程度」などと考えるのは何ともおこがましいかぎりだ。

    だが、心配の半分は解消したと言える。

    こうなればあとはもう、自分の判断が正しかったことを祈るばかりだ。

    岩手社のオヤジさんと二人の息子たち、そして事務員の女性。皆、一日も早く救われてほしい。 ついでに、この落ち着かない自分の立ち位置も、何とかなってほしい。

    どこまで続けられるだろうか。この仕事を……。

     

    (【法人】鑑定第5エピソード『【法人】における不倫問題(宮城)』へ続く)

  • オーバーフォース(3)青森県株式会社の鑑定を終えてvol.092

    朝方に、青森県株式会社からの報酬を振り込んだとの連絡があった。

    次の面談依頼についての呼び出しでハローワークへ行き、その帰りにあなたは銀行へ立ち寄った。

    パソコンの調子が悪くて起動せず、振り込まれたという金額をネット上で確認できなかったため、銀行で記帳することにしたのだ。

    記帳機械の前には先客が一人いる。 あなたは順番を待ちながら、窓口の方向へ目をやった。

    たくさんの視覚情報の中で、今日の日付を示す数字だけが、あなたの意識をとらえた。 明日にはまた、次の面談が用意されているとのことだった。

    前回、北海道株式会社の面談後に言われた「次の2件」の2件目のほうだ。青森社の評価査定が早かったため、依頼のスパンが短い。

    担当官は以前、「1日に複数件の依頼を受けられるか」とあなたに確認してきたが、来週月曜にはその2件の面談を受けて欲しいという。

    あなたはそれを請けた。今のところ、断る理由はない。 毎回収入額が不安定ならば、件数をこなすのが一番、という事情もある。

    (稼げるうちに稼いでおかなければ)

    まずは、青森社が今回のあなたの鑑定にどの程度の評価を与えたのか、それを確認することだ。

    あなたは順番が回ってきた記帳機械に通帳を差し込んだ。 1行分だけ印字される音がして、すぐに通帳が吐き出された。

  • 岩手県株式会社のケース(終)vol.110

    この手詰まりを打開するには、権威ある第三者による強烈な介入が必要だ。
    飲料メーカーの気を変えるために、記事が出た後の次のステップに必要な材料が、どうしても欲しい。

    そして、めくった次のページに、その『材料』は登場した。

    超一流工業大学でエレクトロニクスの大家と言われ、大手メーカー数社の技術顧問を務める教授の解説が、この巻頭特集の最後を締めくくっていた。

    “考えられないほどの高い技術力”
    “我が国エレクトロニクス界の最奥的実力”

    のっけからベタ褒めである。
    教授は岩手社のオヤジさんと同い年で、プロフィールを見ると誕生日も同じだ。

    理論と現場。ところは違えど同じ分野で長年たたき上げた仲間へのシンパシーがよほど強かったのかもしれないが、そこはあなたにはわからない。

    が、辛口の評論で有名と紹介されているわりに、というか、プロフィールさながらの『辛口』は、オヤジさんではなく、岩手社を巡る現在の状況に対して遺憾なく発揮された。

     

    “一時的なヒット商品のパーツなどに使われるレベルではない。この技術水準は産業の基盤を支えるような大仕事にこそふさわしく、金額に換算するならけた違いのものだ”

    “ビール容器のサイズ決定程度の機能は、サイズさえ大きくすればはるかに低コストで実現できる。それに気づかない企業は営利の能力が著しく欠如している。『商売』というものを一から考え直した方がよい”

    “己の手に余る宝を持ち、それに気づけないことの社会的損失。激しい憤りを感じる”

    “直ちに手放すべき。これ以上岩手社を追い詰めるな”

    と、かなり激しい。よく載せたな、というレベルだった。

    あなたはニヤリとした。
    前ページで花を持たせたビア社に対し、一転して厳しい論調だ。

    あるいは雑誌社の記者が、岩手社を無慈悲に追い込んでいるビア社のことを、あなたと同じように忌々しく思っているのかもしれない。アメを舐めさせた直後に激しく鞭を食らわせていて、あなたとしては溜飲が下がる思いだった。

    超一流工業大学の教授で、大手メーカーの顧問を務める『権威の象徴』から発された岩手社養護コメントが、業界最大手のビジネス誌の巻頭特集という『権威ある媒体』に掲載された。

    これ以上のインパクトはあるまい。

  • 岩手県株式会社のケース(17)vol.109

    『下町発! アクセサリーに込められたスーパーエレクトロニクス』

    業界最大手の週刊ビジネス誌に、巻頭特集が組まれている。
    あなたの手は興奮で少し震えている。
    おぼつかない指先で目次ページを確認すると、なんと18ページにもわたる大きな取り扱いだ。

    (こんな内観だったのか)
    初めて見る岩手社の工場内。

    あなたの想像では、もっとゴチャゴチャした場末感いっぱいのイメージだったが、意外にすっきりと落ち着いており、工作機械や素材なども整然と置かれている。

    そして、初めて見るオヤジさんの顔。
    これも、小柄で油まみれの黒い顔という、あなたのベタな想像を裏切り、痩せ型の長身で、整った穏やかそうな顔立ちだ。『工場のオヤジ』というよりも『研究室長』とでもいうほうがふさわしいかもしれない。

    (よかった。先にこれを見ていたら、あの文章は作れなかったと思う)
    あなたは胸をなでおろした。
    しかし、本当にあの文面を元にファックスを送ったのだろうか。

     

    疑問はすぐに氷解した。

    記事の書き出しは、「編集部に送られてきた1通のファックス」のことから始まっている。
    雑誌社が岩手社から受けた文章の抜粋が、そのまま転記されているようだが、その8割方はあなたが【法人】の前で起草したままの文章が使われている。

    かなり鳥肌が立った。
    なんとも恐ろしいことに思えたのだ。

    あなたの示唆(この場合は明確に文章だが)は、【法人】にここまでの影響を与え得るという事実に、今はっきりと直面したわけだ。

    奮える指でページを繰っていくが、実は文章はほとんど頭に入ってこない。
    どんなテーマで各ページが彩られているか、ぐらいの捉え方で、ざっくりと目を通す。

    (18ページも書くことがあるのだろうか?)

    意外に思ったのは、オヤジさんの想いについては、見開きで4ページ程度しかないことだ。工場の紹介記事的なページを含めても5ページ半から6ページにとどまっている。

    それこそ、「あと12ページも、一体何を載せているのだ?」といった感じだ。

  • 岩手県株式会社のケース(16)vol.108

    (どう転ぶか)
    あなたにとっては初となる「【法人】の追跡調査」だ。

    これまで接した【法人】たちにも、次なる行動を示唆してきたが、いずれもいつ行われるかは不明で、もし行われたとしても、それを外部から見ることしかできないあなたにとって、確認可能なものかどうかは全く予知できないものだった。

    しかし、今回の岩手社に対する行動計画は明快な短期決戦だ。

    ここ数週間、大手のビジネス誌を注視していれば、あなたの示唆が実行に移されたことが確認できる。

    【法人】は早速オヤジさんをはじめとした全メンバーを「誘導」し始めたと信じているが、だからといって、特定個人の思考・言動・行動を変えさせてしまうような力が、それほど急速に作用することなどあるのだろうか。

     

    (効き目の早い薬ほど、生体に負荷をかけてしまう)
    あなたが岩手社以前に接した【法人】に対して施した示唆は、薬に例えるなら『体質や生活習慣との呼応によって、徐々に作用する薬効』といえる。

    「長年の仲間たちとの決裂が進みつつある状態の軌道修正」を処方した▲▲社

    「実直に築き上げてきた自社の能力値を、社員たちに気づかせてあげる」処方をした北海道株式会社

    「無意識に優秀な社員を育て上げる社長の特性を活かした新事業案」を処方した青森県株式会社

    これらの【法人】は、自社の文化や風土の長所が活かせていないとか、気づかぬうちに壊してしまっていたことが、経営上の問題として引き起こされていた。

    それゆえ、たまたまシステム会社から提案を受けている対症療法のような処置を退けて、自然治癒や超回復のような作用が発揮される策を提供してきた。

    言い換えれば、『本来の力』を引き出すために、余分なものや不自然なものを遠ざけるのがあなたのスタイルだった。

     

    そんな中、今回の岩手社には「劇薬」あるいは「外科的処置」のような策を提供してしまった。

    結果がわかりやすく、あなたにとって手ごたえは十分といえるが、それによって、もしも急速な悪化を始めた場合、その止め方はあなたしか知らないにもかかわらず、それを施すことはできない。

    契約上、関係した【法人】と関わることは禁止されているからだ。

    面談から数日後、報酬は支払われたが、それはあくまでも面談に対して【法人】が感じた価値であり、あなたが施した作戦の成功を意味するものではない。

    効果の発現を待つ間にも日は進み、あなたには別の【法人】との面談がセットされ、新たな問題に取り組む日があなたを待ち受けている。

    そうして待つこと10日ほど、書店でビジネス誌をパラパラとめくるのが日課になっていたあなたは、とうとう発見した。

    《続く》