投稿者: 469buncho

  • ▲▲社のケース(4)vol.051

    こじつけに近いあなたの質問に、相手はハッと驚いた表情を見せた。

    いや、表情を見る前に、相手の身体の緊張が、そのまま伝わってきた。

    言葉や表情は、こちらの言葉を論理的に理解した後に出てくる二次的な反応だが、筋肉の反射は見せかけを繕う前の一次反応なので、あなたは割と信用している。

    それも、意図しない緊張の場合は一層信用度が高い。

    そして、意図しない緊張を引き出すのに効果的なのは、そのときあなたの目が相手を見ていないことだ。見られていなければ隠す必要がないので、相手はオープンでナチュラルな反応をする。

    手のひらに視線を落したまま、視覚以外の感覚で相手の微細な緊張を感じ取るすべを、あなたは幾多の鑑定経験から身に付けていた。

    「得意先の変革に対して、仕入先のそれが追いついていない」というあなたからの質問のうち、相手の緊張は後半の発声に対して生じた。

    ということは、十中八九『仕入先』のほうに何かがあるのだろう。

    そのことに見当がつきながらも、あなたは相手の言葉を待った。

  • ▲▲社のケース(3)vol.050

    過去に個人を対象に行ってきた鑑定と全く同じテクニックを使って、あなたは▲▲社という【法人】を自称する男の手を見た。

    一瞬で脳裏に焼き付けた全体像の中から、いくつかの大きな特徴だけを捉えて、他はいったん白紙にする。

    あとは、相手とのやり取りに応じて、白紙エリアから必要な部分だけを復活させ、ガイドブックとして効果の高い地図を作り上げていく。

    その地図は段階的に精製されていくのだが、あなたが見た最初の形はこのようになった。

    sankakuleft
    ▲▲社(左手)
    sankakuright
    ▲▲社(右手)
     

    そして、あなたが創作した【法人】の手相は個人のものをベースに次のように置き換えた。

    baseguide
    基本線ガイド
      個人   【法人】
    生命線 取引線
    知能線 製品線
    感情線 社員線
    運命線 取引先線
    太陽線 市場(マーケット)線
     

    運命線は取引先との関係性を表す『取引先線』。
    右手のそれは『顧客との関係性』、左手のそれは『仕入先との関係性』と置き換えるのは当初からのプランだったので、そのつもりで見てみると、両手とも運命線に大きな食い違いがある。

    右手は35歳を表す地点、左はそれより4年遅く39歳。

    ▲▲社のホームページに掲載されている会社沿革では、昨年が創業からちょうど35年で、新社長に交代したときだ。

    食い違いは「社長交代」にこじつけられる。

    (案外、うまくゆくのではないか)
    あなたは幸先良いスタートに気を良くした。

    どこかの時点でこの【法人】という無理のある設定から解放されるだろう。
    「そろそろ、本当の会社の相談に変えましょう」と、常識をわきまえた経営相談に切り替えようと思うが、それには少しもっともらしい【法人】相手の面談の体を作らなければならないだろう。

  • ▲▲社のケース(2)vol.049

    ここまでが、応募書類を作った数週間前に、あなたがネット上で知り得た表面的な情報だ。

    「誰でも手に入れることができる」情報。
    おそらくあなたの前任者の多くがすがってきたであろう、薄っぺらで価値のない情報だ。

    いや、これだけでもかなりのことを語れるだろう。

    たとえば帝国データバンクで、さらに細かな財務情報や経営者の人物像を調べられる。

    それだけではない。
    日経テレコンで地方紙に掲載された▲▲社の関連記事を集めたりすれば、一層うがった見方も可能だ。

    …可能だが、その程度の情報なら、▲▲社では最初から持っているし、下手にうがった分だけ勘違いが甚だしくなる危険性がある。

    仮に、ジョハリの窓のうち▲▲社にとって「Blind Self(自分で気づいていない)」領域のことを、公開情報から導き出せたとしよう。

    しかしそれをアドバイスとして提供するには、よほどの実績や知名度でもないと相手が耳を傾けてくれない。
    一般の失業者には高すぎるハードルだ。

    unknown-houjin

    一方「Hidden Self(隠し事)」の領域へ踏み込んで、相手が明かしたくない事柄を聞き出すのも難しい。

    だからといって、それらの代わりにあなたが選択した「Unknown Self(自分にも他人にも未知の領域)」へのアプローチが、本当に有効な手段かどうかはわからない。

    むしろ、常識で考えれば、最も困難なはずだ。
    もしかすると、「薄っぺらで価値のない情報」以下のことを、あなたはやらかしてしまうかもしれない。

  • ▲▲社のケース(1)vol.048

    自分が【法人】だと名乗る男は、当然のようにあなたの前に現れた。
    当然あなたは、彼の言うことなど信じてはいない。

    会社が人間の姿をしているというのは、いくら何でも設定に無理がありすぎる。
    この男はただの人間だ。何もかも普通に見える。

    しかし、あなたに迷いはない。
    この男が何者であろうが、相談者に対して手相鑑定を行うと決めている。

    カウンセリングだろうが占いだろうが、はたまた霊視だろうがマッサージだろうが、手段はあなたに委ねられているのだ。結果を出せばよい。

    短くあいさつして椅子を示し、テーブルをはさんであなたも腰を下ろした。
    話し出そうとする相手を制し、あなたは両手を広げて目の前に置くよう、男に指示した。

    男はちょっと戸惑ったように、自分の手のひらとあなたの顔を見比べ、そのままの姿勢でいる。
    こんなところも、ごく普通の人間の反応だ。

    あなたは、もう一度手のひらを見せるように言い、ゆっくりと下ろされた両手の上に、上半身を傾けてのぞき込んだ。

  • いっそ、占ってしまえ!(6)vol.047

    あなたは無論、【法人】などという存在は信じていない。
    しかし、その設定に調子を合わせるところが重要なポイントだ。
    【法人】と名乗った相手に対し、個人向けの占いをしたのでは共感的理解が示せない。

    手のひらの線や丘、あるいは手や指の形状など、手相を構成するあらゆる要素を【法人】に置き換えて鑑定することが必要だ。

    あなたが【法人】とハローワークに要求した3日間は、『要素の置き換え』の創造に費やすための時間だった。

    占いになぞらえた面談で、あの男自身の性格特性や問題点などを聞き出し、それに対して的確な分析やアドバイスができれば、相手もあなたの能力を認め、それによって何か次の展開も開けるだろう。

    今回、▲▲社の人間が来ているのなら、思ってもみない形で面接を受けることが出来るのだから、ここであなたの実力をアピールし、上手くいけば採用される可能性だってあるかもしれない。

    そのためには、【法人】に対する占いが、あまり的外れな内容にならないよう、手相の各要素が個人のものとかけ離れないようなアレンジが必要だ。

    一方的にしゃべっては不利になる。
    相手から、できるだけ多く会社のデータを引き出し、即席のデータベースを基にした面談に持ち込みたい。

    手相をダシにして、定量/定性を問わず、とにかくデータを吐き出させるためのトークのプランはある。
    そういうことに関しては、あなたの経験値は高いほうだ。
    特に、少年時代から二十歳そこそこのあなたが、ずっと年上の人間から『大人の悩み』を聞き出すというハンデをクリアするには、確かな技術の裏付けがなければならないが、それをクリアしてきたという点は少し自信を持っても良いかもしれない。

    ただ、これらはあくまでも個人に対してだ。
    今回は、個人から法人への変換という、想像もしなかった条件が加わり、大いに難易度が高い。

    (生命線は、【法人】向けならどんな意味合いを持つことになるだろうか?)
    3日後に向けたあなたの思考はそこから始まった。

    (【法人】鑑定第1エピソード『古参社員の声を聞け(▲▲社)』へ続く)

  • いっそ、占ってしまえ!(5)vol.046

    そして、場数を踏めば踏むほど、あなたは実感する。

    (手相そのものの知識より『目の前の依頼人の状況に合わせたトーク』が何より重要なのだ)

    それに気づいたのは、20代後半にカウンセリングを学んでからだ。
    『共感とノウハウの提供』をメインにして、手相の解説はサブ的な扱いにするほうが効果が高いことに気づき、鑑定技術を向上させた。

    以前から、見えた情報をそのまま伝えて解釈はすべて相手任せにするような、粗雑な対応はしないのがあなたのスタイルだったが、そこにカウンセリングやコーチングの要素を加えて質を上げたのだ。

    あらゆる情報をコンパクトにまとめはするが、一度に全体を見せず、潜在能力や未来の幸運の存在を強めに表現し、誘導するやり方を、いつしかあなたは身に付けていた。

    ただ、オカルト嫌いなあなたは、占いという特技をあまり公表しなかった。
    知人の紹介で次々と依頼を受けながらも、一度もプロを目指さなかったのは「こんなことを生業にしては、世間に顔向けができない」という一種の偏見による。

    一方、ビジネス現場でデータベースを駆使して他人の業務改善をしたり、相談に乗ることが多かったあなたは、《考え方》より《手段》の提供が問題解決に効果的だと理解していたが、これは占いのコツと全く同じものだった。

    だから、【法人】などという茶番に対し一見調子を合わせながら、実際にはあの男自身の運命を占うことで、相談への対応をしてやろうと考えたのだ。

    《続く》