投稿者: 469buncho

  • オーバーフォース(1)▲▲社の鑑定を終えてvol.058

    ハローワークからの連絡は思ったより遅く、▲▲社との面談が終わって5日後だった。 例の若い美人の担当官から電話があり、報酬は明日振り込まれるという。 そして、最大の関心事、契約については、引き続き今後もお願いしたいとのことだった。

    複雑な思いながらも、あなたは胸をなでおろした。 最低保障の月額十数万円の収入は、少なくとも今月分は確保された。 といっても家賃と水道光熱費、そして食費だけでほぼ消えてしまう。

    今後この契約が続いたとしても、アパートの更新料1か月分は身を削る思いで貯めなければならない。 健康保険未払分の納付額は、月千円ぐらいにしてもらおう。 役所窓口での面倒くさそうに、あるいは迷惑そうに対応されても、こうなっては甘んじて受け入れざるを得ない。

    (それにしても、よくあんな面談内容で「今後」があったものだ)

    【法人】の手相鑑定だなんてふざけた茶番ではあったが、基幹システムを検討する際のポイントやCSRに言及した点が良かったのだろうか。 そういう意味では、キツネにつままれたような気分がぬぐえない。 しかし、その程度では済まない事実が待っていた。

  • ▲▲社のケース(9)vol.056

    あなたは遠慮なく言った。

    ・開発費用8千万は希望的観測。1億4、5千万は覚悟すること

    ・段階的カスタマイズは2千万では到底収まらない。
    『デュアル製品マスタ』などと聞こえの良いネーミングをしているが、現場を知らない開発者や、他人が登録したマスタ情報を使っているだけの経理担当者が想像するような、『規則的なマスタ登録』など及びもつかぬ想定外の事象が次々と沸き起こるはず

    ・想定外の事象への対処のために、システム会社の工数が際限なく膨れ上がって金額がかさむので、開発は途中で強引にストップがかかることになる

    ・途中でのストップにより必要条件が満たされず、プロジェクトには落第点がつく。
    ▲▲社のシステム開発プロジェクト責任者は保身のため、「後は保守の範囲で何とか対応する」というシステム会社の発言に、救われたようにOKを出し、何が何でもその案で社内稟議を通してしまう

    ・しかし、『保守の範囲』でしてくれることなどタカが知れている。
    現場は『改編/改良』を求めて悲鳴を上げているので、結果的にその声は無視することになる

    ・システムでカバーできるはずだった業務オペレーションが、あちこち歯抜けになり、現場がアドリブでカバーするので属人化が進み、共有化に障害をもたらすだけでなく、教育制度が整わない

    ・教育制度が無い組織は、よほど根性のある人でないと務まらないので人材が居つかなくなる

    まあ結局、「大金を投じて社員を疲弊させたうえ、利益を垂れ流す源泉を作るような投資をしようとしている」ということを、あなたは一気にしゃべった。具体的金額は感覚的に言ったものだが、実際にそうなるだろうという確かな予感があった。

  • ▲▲社のケース(8)vol.055

    あなたが当初から気になっていたふたつの事柄。
    【管理部門内にも世代間亀裂が波及】
    【この問題の解決に基幹システムがどう絡むのか】
    これらには、やはり直接的な関係があった。

    「システム会社の営業担当者と技術担当者は、こちらの状況にとても理解を示してくれました。……まあ、売り込みに来ているわけですから当然と言えますが」
    と【法人】は言い、その内情を詳しく語った。

    通販事業が軌道に乗り出したころから、社内の売上計上処理が増加し、旧体制の複雑さの弊害が際立ってきた。

    仕入ベンダから顧客へ納品完了した連絡があるまで売上を立てられない旧体制と、自社倉庫から出荷する時点で顧客に納品請求書を発送できる新体制が並立するようになったからだ。

    旧売上計上
    従来の売上計上
     
    新売上計上
    新体制の売上計上
     

    業務量増大と事務の煩雑さに音を上げた経理部門の要請で▲▲社にやってきたシステム会社は、新旧双方のオペレーションに対応するために、まずはベースになるシステムを構築し、その後は新社長の方針に従い、旧体制を終息させるカスタマイズ提案をした。

    ベースの設計から完成で8千万円、カスタマイズで2千万円、トータル1億円の見込みだった。

     

    さすがに新社長もこの提案には乗り気ではなかった。
    増収増益を力強く語ってはいるが、それだけのキャッシュが飛んで行ってしまうとなればこれは容易ではない。

    倉庫の確保に多額の投資を予定している状況で、システム構築にそんな支出は現実的でないという判断だ。

    「そんなわけで、いったんは断りました」
    あなたはそれを聞いて力強くうなずいた。

    (時期尚早だ)
    システム導入の話が進み始めたのは、経理部門が騒ぎ出したことがきっかけというではないか。

    つまりは予想外の変化に対応しようというドロナワ的事情だ。
    今後のオペレーションの変化が読めない状況なのに、次の展開に合わせて開発しようとしている。

    夢物語もいいところだ。

  • ▲▲社のケース(7)vol.054

    「新社長の狙いは、旧来色の払拭です」
    【法人】はあなたにそう告げた。

    さえぎって基幹システムのことを聞こうと思ったが、仮にも相手は相談に来た客だと思い、それはやめた。

    それに、経営トップの知られざる情報を教えてくれるらしい。
    あなたはもう少し黙っていることに決めた。

    新社長は大学卒業後すぐに、父が経営する▲▲社に入社し、今日を迎えている。

    父親をはじめ、多くの古参社員たちから様々な手ほどきを受けて成長し、骨の髄まで従来の社風が染みついているはずなのに、社内のどこにもなかった新体系のビジネスを着想し、通販事業という形にしおおせているところから察すると、いわゆる「ぬるま湯に浸ってしまう」タイプではないのだろう。

    「新社長が目指すのはあくまでも新しい体制での事業展開で、古参社員の活躍をスポイルすることは考えていません」
    【法人】はそういうが、あなたには信じられない。

    すべての事業を通販と同じく新流通体制に一本化したら、古参社員は通販事業の一線ですでに活躍中の若手たちの後塵を拝することになる。

    パソコンを使ったオペレーション重視になればなるほど、眼の壮健さや指先の動作など肉体的な若さがものをいう。

    そんな条件下では、ベテランほどランクが下になってしまうことが想定される。

    新体制の人数は不足しているそうだが、欲しいのは経験豊富で扱いづらい先輩ではなく、これから育てていく若者であると見るのが一般的な見解だ。

  • ▲▲社のケース(6)vol.053

    実際に話を聞いてみると、ほぼあなたが想像したとおりのプランで、流通改革は実施されていた。

    要するに、後発の通販事業のように、いったん▲▲社で集荷し、自社内に物流センター機能を持たせたいということだ。

    新流通体制
    新流通体制

    従来の方式だと、配送のコントロール一切がベンダ任せとなる。
    正確な納期の把握に非常な手間ヒマを要するうえ、追加やキャンセルの依頼が▲▲社の頭越しに行われてしまうことも多い。

    それらが上手く伝達されずに顧客対応がチグハグになるケースがよく見られ、その対応策はベテランの勘で未然に防止するか、クレームの対応に現場へ出掛けて行って、そこからベンダの指揮を取って何とか対処するというスタイルだった。

    従前の流通体制
    従前の流通体制

    2代目社長が流通改革を思いついたのは、自社の営業事務部門の人件費割合の大きさに気づいたからだった。

    この体制で商品を取り扱っていては、業務量に比例して人数を増やさねばならないし、ベテランの名人芸で成り立っているから年配者が固まって存在し、給与水準も高い。
    彼らが毎晩遅くまで働く残業代もかなりの額にのぼっている。

  • ▲▲社のケース(5)vol.052

    あなたは眉をひそめた。
    文脈が一気に変わってしまった気がする。飛ばした話がかなりあるに違いない。

    あるいは、飛ばした部分に重要なポイントがあると認識できないからこそ、ドロ沼にはまってしまうのかもしれない。

    あなたが特に気になったのが、『最近になって急に世代間亀裂が入り始めた総務と経理』だ。

    社内で変革があり、管理部門の事務量が増えただけなら、「人が足りない」と不満を言い始めるのが定番な部署だ。

    その希望が叶わないと「自分たちの要望を上に通せない、役立たずの部門長」と、部下たちの不満が『上司』に集中したり、逆に「自分たちの嘆願を蹴った横暴な経営陣」を共通の仮想敵として部署内の連帯感を増したりする変化はありがちだが、部門内で世代間に亀裂が生じるというのは、なにか別な力が働いている可能性がある。

    その推測と「外部の力に頼った」の符号が一致するのではないか。

     

    もしかしたら、基幹システムの導入計画が、望まない状態の要因になっているのかもしれない。

    かなり深い話になりそうだ。

    あなたは壁の時計を見た。
    今回、一日で済みそうな話だろうか。

    通常、このような相談受付の最中に、あからさまに時計を見るという行為はどうかと思う。

    しかしハローワークでは、1日単位であなたへフィーを支払う。
    面談をさらに後日へずらすことはすんなり認めないと思う。

    【法人】の側が後日の再面談を望んだ形になっても、面談引き延ばしの疑いをもたれることは、今後の契約に良くない影響があるだろう。今回で終結させるに越したことはない。