岩手県株式会社のケース(2)

スタビライザー。
【法人】は何度もこの単語を口にしたが、正直なところあなたには正確に伝わらなかった。
スタビライザー = 姿勢制御装置?
そんなことを何となく思い浮かべるだけで、技術的なことには深入りしないつもりだった。
ランダムモードで調子に乗ってオーバーアクションした利用者の指先が、ビール供給機の読み取り口に近づいたとき、理想的な形で交信がされるために必要な技術なのだろう。

たしかに、いい気分でポージングしているときに、年がら年中エラーが起きて機械が作動しなかったら白けてしまう。
ビールの注文で客に面倒をかけるリスクを採ったのは、順調な機械動作の裏付けがあればこそだ。
薬効と毒性が紙一重なクスリのごとく、好評とクレームは皮一枚の表裏だったが、場末の町工場にひっそりと息づいている名工の技術が、それを支えていた。
ビアガーデンの運営会社(以後『ビア社』)にとって、それは想像を超える嬉しい誤算だった。ビア社の実行責任者にしてみれば、規模は小さくとも商売にできた実績さえあれば親会社への顔が立つので、指輪に関してはもう少し粗雑な仕上がりでもよかったのだが。

大方の案に相違して、ビジネスは急成長した。
想像をはるかに超えるニーズに対し、供給がまったく間に合わない。予約がさばけないのだ。
当初は3時間だった時間制度を2時間制にしたが、そんな程度では話にならない。
「プレミアム価格の会員なのに、たったの2時間で出されるのか」という客の意見が続出した。たしかに払わせた金額を考えたらもっともなことだ。
予約受付の窓口担当者は、希望日時を断られた会員の「それじゃあ、その次の枠は?」と、常識的な延期日時を期待した質問に対し、「2か月先まで埋まっておりまして」と答えてムッとされることが苦痛になった。

どんなにプレミアムを謳っていても、せんじ詰めればビアガーデンだ。気軽に利用できる場所というイメージが、誰の意識にも深く刻まれ、生活の中に溶け込んでいる。
「今日はビアガーデンで飲んでいくか」とか「今週末はみんなでビアガーデンに行こう」など、リアルタイムのニーズが当たり前の中で、あまりにかけ離れた予約しか取れないようではビジネスが維持できなくなる恐れがある。

好評に気を良くした親会社(アミューズメント施設運営会社(以後『アミ社』))は、投資回収は完了していなかったがビア社への増資を決定し、事業の拡大(店舗展開)を命じてきた。2号店、3号店の開設が進められることになったのだ。

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