岩手県株式会社のケース(2)vol.094

スタビライザー。
【法人】は何度もこの単語を口にしたが、正直なところあなたには正確に伝わらなかった。

スタビライザー = 姿勢制御装置?

そんなことを何となく思い浮かべるだけで、技術的なことには深入りしないつもりだった。

ビアガーデンで、ビールの注文をランダムモードにした客が、調子に乗ってオーバーアクションした時、供給機と指輪で交信する技術をそう呼んでいるのだろう。

たしかに、いい気分でポージングしているときに、やたらとエラーが起きて機械が作動しなかったら白けてしまう。

ビールの注文は指輪をはめた客しかできないなど、客に面倒をかけるリスクを採れたのは、順調な機械動作の裏付けがあればこそだ。

好評とクレームは皮一枚の表裏だったが、場末の町工場にひっそりと息づいている名工の技術が、継続的な好評を勝ち取っていた。

ビアガーデンの運営会社(以後『ビア社』)にとって、それは想像を超える嬉しい誤算だった。

本来、規模は小さくとも企画を成功させた実績さえあれば親会社への顔が立つところだが、ブームにまで成長した。

その立役者は、コンセプトのタイトル(店名も『ビールの指輪』である)そのままに“指輪”であり、そのクオリティを支える岩手県株式会社の技術は、その心臓部だった。

ビジネスは急成長した。

想像をはるかに超えるニーズに対し、供給がまったく間に合わなくなった。
予約がまったくさばけない。

当初は3時間だった時間制限を2時間制にしたが、そんな程度では話にならない。

「プレミアム価格の会員なのに、たったの2時間で出されるのか」という客の意見が続出した。

予約受付の窓口担当者は、断ることが苦痛になる。
次の予約が2か月先になることを告げると、怒り出す客も多い。

ビールの指輪がどんなにプレミアムを謳っていても、せんじ詰めればビアガーデンだ。
気軽に利用できる場所でなければ、一般大衆のイメージとかけ離れてしまう。

普段の生活のすぐ近くにあるプレミアムだからこそ、ビールの指輪には高い価値を感じてもらえたが、ビアガーデンという感じではなくなってしまうと、客側の認識も変わってくる。

ビジネスが維持できなくなる恐れが出てきた。

親会社(アミューズメント施設運営会社(以後『アミ社』))は、投資回収は完了していなかったがビア社への増資を決定し、事業の拡大を急いだ。

早急な店舗展開を命じてきたため、ビア社では2号店、3号店の開設が進められることになったのだ。

《続く》

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