青森県株式会社のケース(4)vol.074

友人が勤めている研究所は、職員数約500名。
職員全員が公務員宿舎に入っているわけではないが、官舎というのは各省合同のものがほとんどだ。
他の機関の職員も多数入居している。

公務員宿舎は「独身用」「単身用」「世帯用」の3種類に分かれている。

これらがマンションのように立ち並ぶ一帯がある一方、戸建ての平屋(または2階建て)がまとまって建っている地区もある。

他の研究機関の中にも、給与振込口座を固定して銀行との関係性を築き、宿舎費等の振替で手数料を無料にしている所があるという。

社長は、それらに対しても給与天引き制を適用して家具レンタルを展開できれば、いい商売になるのではないかと考えた。

男子独身用宿舎などは、1棟で100世帯程度の大きさを持つ建物も多いが、各世帯の間取りはほぼ同じだ。
部屋の見取り図は厚生係の協力を得れば簡単に得られる。

世帯用などその他の集合住宅も同様で、戸建て形式にしても同時期に建築されているだけに、間取りはさほど違わない。

それぞれの見取り図面に合わせて家具をコーディネートし、セットAとかBとかの選択式にすれば、面倒を嫌う利用者に受け入れられ、こだわり派には豊富なオプションを提示すればよい。

世帯持ちの利用はさほど見込めないだろうが、単身赴任者、独身者などは、入退去時の引っ越し手配が格段に楽になる。
使った家具が気に入れば次の転勤先でレンタルし続けてもよいし、買取りにも対応できるようにすればサービスはさらに奥深くなる。

社長がこのビジネスに感じる最大のメリットは『大幅な人件費の節約』だ。

新規客の獲得とサービスの説明、契約事務と引き落とし口座登録、そして毎月の代金回収と解約手続きまでを、役所の厚生担当がやってくれるのが大きい。

自社でやったらその部分の原価が膨れ上がる内容だが、そこがスッポリと省略できるのだ。

顧客も、とりっぱぐれのないお役所の役人で、全額振り込まれる給与からの天引きである。
貸し倒れリスクはほぼ無しと言ってよい。

そのぶん自社では、家具の選定と調達、そして運搬に特化できる。
普通に参入したら到底実現できない高粗利を読み取った社長は、話に乗った。

「わかった。やってみるよ。お前、協力してくれるな? お前のとこだけじゃないぜ。ここら一帯を全部だぞ」
友人はうなずいた。お互いに地元ネットワークは幅広く密に持っている。
他の多くの研究所内に、共通の友人もいる。
「あいつがやるから」と言えば、それだけで人物の信用という点はクリアだった。

当時はまだそんな時代でもあり、一大都市とはいえど、そんな空気が濃厚な“田舎”の頃だった。

商売は当たった。

開始すると見えてくる様々な問題点は、ビジネス改良の手引きでもあった。
そこから湧いてくるアイデアを形にした。

『14日以内ならチェンジ無料』等、実際に暮らし始めてからの利用スタイルに応じた変更サービスなどは、クレームから生まれたといってよい。

他にも、もともとの倉庫業を活かした『個人宅用荷物預かり』の提供も開始し、収入源を増やしていった……。

《続く》

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