青森県株式会社のケース(6)vol.076

どこから見ていくかをあなたは考えた末、少数精鋭式が破たんした時期に注目することにした。

(最初に成長が失速した頃の社員数は?)
社員マスタから確認すると、最初の最盛期はパート3名を含む5人で社業を取りまわしていた。

売上規模からするとかなりの少数精鋭だが、それは各研究機関内に、事務手続きを無償で引き受けてくれている役所の事務官たちが居たからで、この生産性の高さは青森社の実力とは言えない。

本格的な成長期を迎え、顧客ターゲットが広がってくると、これまでのように青森社に都合よく働いてくれる福利厚生担当者を備えている客などは1%もいない。

サービスを手広く展開するには、事務量に応じた本部社員を増員するのはもちろんだが、営業担当もそろえる必要がある。

あなたは、本来の成長期に入ってからの財務諸表を、伝票単位に分解し、売上と仕入、そして販管費からいくつかの科目を抜粋してみた。

いわゆる直接原価計算に近い算定をしてみると、金額規模こそ「対公務員限定時代」より大きいが、限界利益の下がり方が顕著だ。

価格競争の激化で売上高が下がったのも大きいが、契約手続きなどの事務負担が激しく増加している。

限界利益=売上高-変動費

収益が減ればそれに応じて原価の引き下げを図るのはもちろんだが、固定費はそれ以上に徹底的に抑えなければ、激減してしまった限界利益ではそれを吸収できない。

だが、青森県株式会社にとって、この事業における本格的なコスト発生は初体験のことゆえ、その削減方法が身についていない。それまで他人任せだった新規獲得から代金回収と解約に至るまで、すべてが弱かった。

民間へ手を広げた当初は、顧客が少なかったので管理が弱くても注意が行き届いた。
だが、ボリュームが増えるとたちまち事務品質が落ちた。

対策に慌てた社長がアドバイスを求めた相手が研究機関の役人たちだったため、事務は混乱を極めることになった。

事務が混乱を極めた理由は明白だ。
家具レンタルサービスの利用者は、役所の厚生係から見れば新任の職員だが、青森社から見れば顧客にあたる。

役所内における同僚向けのルール説明や注意喚起の仕方を参考にしても、青森社の商売には適合しない。

かつては、商売への考えが甘い友人に「だから公務員ってのは世間知らずなんだ」と言い放った社長だったが、急成長のパニックに冷静な判断力を失っていた。

クレームが続出するごとに急場しのぎで事務手順を増やしたことが、ただでさえ複雑化した業務に余計な煩雑さを加え、そのまま固定化されてしまったのも痛かった。

《続く》

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