宮城県株式会社のケース(終)vol.129

買収前の創業2代目社長は、父である初代社長ほどのカリスマ性が無いことをごく当たり前に受け入れていた。無理に張り合って社員たちに自分を大きく見せるよりも、マイペースでありのままに周囲と向き合うタイプだった。

跡取りだった彼が他社に武者修行に出され、帰り新参の幹部として戻るまで、結構な歳月を経た。

その間は部外者であったわけだが、宮城社の社員たちとは絶え間なく連絡を取っていた。
同じ想いを抱きつつも境遇を別たれた志士同士として、悩みや愚痴には休日も関係なく相談にのった。

互いに分かり合いながらも離ればなれになり、違った場所に居ながらも喜びや痛みを共有する結びつきは、やがて帰参したときには、普通の役員と従業員の結束とは違った形に変貌を遂げていた。

それはまさに、宮城社が持つ社員の存在力、宮城社の個性そのものだった。

といって、別に2代目と社員たちの関係は、恋愛感情などというものとは違う。
部下から見ると、仰ぎ見つつも、つい肩を叩いて言いたいことが自由に言えそうな上司であり、言葉にはせずとも互いに認め合っている実感がビンビン得られる。

感情面で張り合いのある上司は、感情量の多い社員たちにとって、初代とは違った意味の強いカリスマ性を持っていた。
後をついて歩きたくなる創業社長に対し、肩を並べて歩きたくなる2代目だったのだ。

宮城社を悪用しようとする輩さえいなければ、現社長の助けも要らず、社員と会社の理想的な関係が続き、【法人】はあなたの前に現われることがなかっただろう。

しかし、平和な日常は破られてしまった。
悪の標的になり、ホワイトナイトの出現によって救われたことで。

2代目にすべての責任があったとは言えない。
それでも、自身では会社と社員を守りきれず、他人(現社長)の力を借りたことは事実である。
彼は社長の座を降りることを決めた。

去るにあたっては、スーパーエリートの現社長や側近たちと良い関係を作り、残った社員たちの労働条件をできるだけ良いものにしようとした。

乗り込んできたエリートたち相手の立ち回りで、柄にもなく賢いふりをしなければならなかった2代目の苦悩は、あなたとのやり取りで【法人】が見せた、とっつきの悪い印象に表れていたが、それは2代目の責任感や人の好さの傍証とみて間違いないだろう。

「責任を取って」退いた社長
強い感情を受け容れる器が、社員ひとり一人の強い所属欲求を満たし、その強烈な想いに秩序と倫理を持たせることに成功していた。

創業から2代にわたる、社長と社員の間をつなぐ絆が、【法人】の性格になっている。
普段着にサンダル履きで過ごしてきた庶民感覚の持ち主に、フォーマルなタキシードは窮屈なのだ。

宮城社を救ってくれた現社長だが、会長に退いて社長を復帰させることが、従業員に安心感を与え、元の状態に復する引き金になる。

外部の士業のプロたちに任せる仕事も、お仕着せのものにするのではなく、復帰した社長と社員たちの裁量に任せるのがよい。

宮城社のコア業務のスキルを手中に収める現社長の野望は、一旦社内が正常化するまで中断だ。
歯止めの効かない不倫が、2代目の復帰により終息するさまを見れば、短期間での極端な改革は見直すだろう。

元々この現社長は、長期視点で資産運用をする投資家。それも投資のプロなのだから……。

これが、今回あなたが出した結論だ。

これ以上、言うべき言葉が見つからなかった。
それだけを伝えると、あなたは席を立った。

ありがとう、と、背後で聞こえた気がしたが、そんな気がしただけだったかもしれない。

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