青森県株式会社のケース(11)vol.081

「なぜですか?」
あなたの憶測に対して、【法人】が訊ねてきた。

これまであなたが接してきた【法人】の中では(といっても2社しかないが)珍しく、言葉数が多く、好奇心も旺盛な感じだが、おそらくは社長の性格の反映なのかもしれない。

それとも、システム会社の営業が、株式上場を匂わせるトークをしたのかもしれない。

「なぜですか?」という【法人】の質問は、「相手の親身さを期待できない理由はなぜか」もあるが、それ以前に「なぜウチが上場を目指すのにふさわしくないのか?」という意味が強いような気がした。

念のため訊いてみると、「株式上場を考えていますか?」という質問を、社長は実際に受けている。

ついでに、社長がそれにどう答えたかも訊いてみたが、「そういう話はこれまで何度かあったが、うまく進んだことがない」と答えたという。

青森社が創業間もない頃は、株式上場の手伝いをするようなビジネスは、まだ整備されていない時代だった。

もしも、公務員だけを相手にしていた羽振りの良いころに上場の話を打診されていたら、旨味に目がくらんで手を出していたかもしれない。

その後、ベンチャーキャピタルのようなビジネスが活発になった。
満を持してコンサル会社が上場話を持ち掛けてきたころ、青森社は事務品質の悪さでクレームやキャンセルの続出に右往左往している最中だった。

もともと青森社の社長の実力では、IPOなどは歯が立たないレベルの話だったうえ、目先の対応に追われて手一杯の時期だ。

余裕が無いので断っていただけなのだが、対面上そうも言えないので「うまく進んだことがない」という、実態を濁した言い回しをしたのだった。

(やはり、運は良いのだ)
いきさつを聞いたあなたはそう思った。
ぜひとも社長自身の手相を見てみたいものだが、それは絶対にできない。

「でも、今は一時期よりはクレームなんかもかなり減ってますから、今だったら何とかなるんじゃないですか?」
【法人】は食い下がった。

たぶん、社長はシステム会社が持ち掛けてきた、システム導入の後ろに見え隠れする株式上場の話に救いを求めているのかもしれない。

今のこの【法人】の態度は、きっとその表れだろう。

【法人】には社長を誘導する力があるというのだから、今あなたが踏ん切りさえつけてやれば、青森県株式会社の方向性はすぐにでも決まるだろう。

しかし……

《続く》

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