▲▲社のケース(6)vol.053

社内に2つできてしまった流通ルートを放置せず、少人数で通販事業を軌道に乗せた方式を、従来事業にも適用しようとしたのは当然といえる。

倉庫スペースの増大に追加投資が必要になるが、回収スパンは短いと読んだ。

それに、物流センター機能の保有は▲▲社の今後の展開を、一層手厚いものにするだろう。

しかし、新社長が考慮しなかった重要なポイントがあった。

仕入ベンダの多くは、苦節の頃の▲▲社と助け合いながら、顧客たちとも長い付き合いを続けている。
注文商品を納めるだけの関係とはいえ、長く接しているうちに独自の関係性が生まれていた。

官庁や学校と付き合ったことをきっかけに、国家や地域社会レベルでものを考える社長や社員が、▲▲社の仕入ベンダの中に生まれていた。

顧客たちが事業として実施している各地の教育や文化的交流に協力する、ボランティアサークルなども作られていった。

そういった活動が定着してくると、社会に対して広く目が開かれた社風に憧れて、優秀な社員が集まる。

入社後すぐにそれらの活動へ参加できるので、「看板に偽りなし」と自社を信頼でき、働き甲斐の提供にも役立つ大切な要素になっていた。

それらすべてが、新社長の方針によって、断たれないまでも大幅に弱められてしまうことになった。

なぜなら、ボランティアなどの定例会は各ベンダ間で調整した納期に基づいて計画され、顧客との接触を保っているからだ。

通常業務の流れでこれら2次的活動に入ることが、ボランティア参加への障壁を低くしていたのだが、それが無くなってしまう。

その影響が売上に跳ね返った業者は共通の悩みを抱えはじめ、密に連絡を取って、打開策のために協力し合っているため、ベンダ間の結束は▲▲社の新社長が思っているよりはるかに強かったのだ。

これらも、先代社長が残した一種のインフラだった。
しかし、後継者は効率重視で新しいスタイルを押し進めようとした。

▲▲社とは手を切るというベンダがあると、代替業者の開拓を進めた。
そのベンダから仕入れる商品を使い続けてきた顧客たちには、新たな商品ラインナップを勧めた。

こういうことは、ビジネスではありがちなことと頭では理解していても、ちょっとしたきっかけで感情論にも発展しやすい。

他のベンダたちから、「あの会社は報復による締め出しを食らった」と受け取られてしまうと、一体感で出来上がっていた▲▲社との関係性にも陰りが生じてくる。

従わないと自分たちも締め出しをくらって長年の取引先を失うという恐怖の支配体制に怯えるベンダが増えた。

危機を感じた彼らは古参社員に助けを求め、その訴えを取り次いだ古参社員たちは、にべもなくそれを蹴った2代目への気持ちが離れていった。

先代社長からは従来ベンダとの関係維持を匂わす発言があったが、両者の間に直接的な話し合いは持たれず、取締役会などの幹部会議では、増収増益の実績を力強く語る2代目社長の姿が、やや浮いた印象で記憶された。

彼を推す若手社員たちは、幹部会議には出席できないからだ。

こうした話も、聞いてみれば際立った特徴のない世代交代の時の姿だ。
あなたにとっては自分が仮定した筋書きの確認をしているにすぎない。

あなたの関心は、「この事態を解決する基幹システム強化」とは、誰がどんなことをしているのか、だった。

《続く》

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