▲▲社のケース(5)vol.052

あなたは、男に面談時間の上限を確認した。

「あまり長く、会社を離れるわけにはいかない」という、あいまいな回答が返ってきた。

あくまでも【法人】だからという設定を貫くつもりか。
どうにも人を喰った態度だ。

しかしあなたも、この『【法人】の相談受付』という茶番に対して、『手相鑑定』という茶番で経営相談を受け付けているからどっちもどっちだ。
だからこそ最初の対面を一方的に5分で切り上げた。
そして2度目の面談となる今日を迎えている。

(それなら、じっくり聴くのはここまでだ)

あとは短期決戦でカタを付ける。
今までの話と雰囲気から、質問ポイントは絞られている。

この男は、社内の人間関係に焦点を置いて話そうとしている。
今最もつらいと感じているのがそこだからだろう。

そして、あなたに打ち明けて相談し、意見を聞きたいのもそこのはずだ。
だから、どんなフレーズに対しても、無意識に話題を人間関係の方面に振り向けてしまう。

「仕入先との関係性」という肝心な部分を飛ばして2代目の話を始めたのも、彼の一番の関心事が、そこではないからだ。

「会社の状況説明」ではなく「彼自身の心情の吐露」が目的で話しているなら、問題解決に至るには積極的に話に介入する必要がある。

ポツポツと話し続ける男の話を聞きながら、あなたは考えをまとめていった。

▲▲社の流通改革と聞いて連想するのは、社業盛り返しの起爆剤となり、今最も重要な事業の柱である通販事業の流通体系のことだ。

従来の学校・企業・官庁向けの商品にも適用し、シンプルな管理体制とスケールメリットを活かした強化を図るべきだろう。

長年続いてきた仕入ベンダとの関係性が崩れることに古参社員が難色を示す一方、その歴史に深く接した経験を持たない若い社員たちは、成長性の高い通販方式を推しているというのが、誰でも考えつきそうな筋書きだ。

本当は、これを相手の口から語らせたかった。

あなたが自分だけですべて考えると、自分好みの方向に偏り、事実と離れて行ってしまうことがある。

それを防ぐには、時々相手の言葉で軌道修正をするのがコツで、そのための質問を用意していたのだが、結局自分でストーリーを作ってしまった。

まあいいだろう。今回に限っては、相手の会社が発表している事実を、ネットで最初からある程度知っているのだから。

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