ひとりきりのアパートの室内は、相変わらず空気が澱んでいて、窓を開け放っていても、解消される気配さえ感じられない。
だからあなたは、今日も外へ出ることにした。
ブラブラと歩くうち、最寄り駅のそばに近いた。
乗降客が多い駅なので、駅前はかなりの人通りがある。
「手相の勉強をしているんですが……」
改札口の前で、こう言いながら近づいてきた20代と思しき若い女性の顔を、あなたは少し呆気に取られたように、見守ってしまった。
ときおり見かける『路上の手相鑑定』だが、声をかけられるのは女性だけだと思っていた。
しかし、いま彼女が見上げている相手は、まぎれもなくあなただ。
まさか自分がその当事者になるとは……。
しかも、よりによって、あなたが手相鑑定を受けるなんて……。
いつもなら当然、足を速めて相手を振り切るところだ。
だが、あなたは足を止めた。
ふと、「相談する側」の気持ちになってみたくなった。
企業の担当者は、どんな気持ちで自社の問題を相談するのだろう、と。
それを敏感に感じ取ったのだろう。
彼女は、聞く姿勢を見せたあなたに話し始めた。
「実習のためにいろいろな方に声をかけてご協力いただいているんですが、いま少しお時間よろしいでしょうか」
周囲からの好奇の目に対する照れがある。
あなたの返事はあいまいだったが、彼女は明るい声でありがとうございますと言いながら、あなたの手を取った。
「とても繊細な方なんですね。でもすごくさっぱりしていて……」
というところから始まった彼女の解説を、あなたは半分うわの空で聞いていた。
実は一番関心のあった、“ これからどうなるか ” については、
「努力家で、すごく個性的なので、自分が納得する形で、きっと切り拓けると思います」
という、当たり障りのない、そして満足もない回答しか得られなかった。