投稿者: 469buncho

  • 皮肉な「書類選考通過」!二股の誘惑?(1)vol.015

    あなたは契約書を手に、アパートへの道を歩いていた。

    時刻はまだ正午前だ。
    バッグの中には、ハローワークの担当官から受け取った契約書が入っている。
    これに署名捺印して来週月曜日に提出すれば、同日付で処理され、仮契約が成立する。

    しばらく歩くと繁華街に差し掛かり、連れ立って歩くスーツ姿が、あちこちに目立ち始めた。
    昼休みの食事のために外出した勤め人たちだ。
    何となく浮き浮きした感じの人が多いなと思い、ふと今日が金曜日だったことに気づく。

    退職後のあなたは、切迫感に追われて曜日の感覚がなかったが、今日は久しぶりに安らいだ週末を迎えられそうだ。

    念願の『雇用契約書』というわけにはいかなかったが、あなたに労働対価をもたらしてくれる『業務委託契約書』を手に入れたのだ。
    たった1回きりのものだが。

    (喫茶店へ行こう)
    金曜日の力が、あなたをそんな気にさせたのかもしれない。
    曲がりなりにも仕事が与えられそうだからでもあるが、何よりあなたが『スカウト』された喜びと実感は、何物にも代えがたい。

    転職市場で一切認められなかったあなたに、相手から声がかかったのだ。

    たくさんの登録者に届く、まったくあてにならない「オープンオファー」でもなければ、それと何の違いがあるのか、あなたにはさっぱりわからない「興味通知オファー」でもない。

    面接確定のはずの「プライベートオファー」で、面接前に断られたことさえある。
    想定外の応募数に泡を喰った人事担当からの謝罪文と共に。

    苦い経験ばかりの中、今回はたったひとり、あなたにだけ声をかけられ、契約も成立寸前だ。

    祝杯をあげたくもなる。
    それに、法人の誰と対面するかわからないが、どんな話にも高いクオリティで対応し、一回限りのチャンスを、今後も継続していくためのプランが必要だ。

    空気の澱んだあなたの部屋は、どう考えてもそれを考える場にはふさわしくない。
    貧乏暮らしに外食は厳禁だったが、そんな事情で今日のあなたは喫茶店へ足を向けた。

    《続く》

  • 就活禁止? 低賃金コンサルタントへのいざない(7)vol.014

    「徹底した守秘義務に基づいて、多くの【法人】にお会いいただくことになるので、就職活動で企業と接触することは禁じられます」

    (?)
    当然あなたはあっけにとられる。

    (……一体、何の話が始まるのか?)

    「もし、私どもからの申し出に同意いただけた場合、最初に依頼者とお会いになった後、評価測定を行わせていただきます」
    見当もつかない展開に、あなたが発すべき言葉は何もない。
    担当官の言葉は続く。

    「ハローワークから依頼者にインタビューし、ヒアリング内容を部内で協議した結果、継続してお願いする決定が出れば、本契約を交わすことになります」
    要するに、まずは1回限りの契約を結び、ダメな場合はそのまま契約終了ということか。

    IT活用に関する調査と相談受付とか、そんなことか?
    経営コンサルタントも、分野によって細分化されている。

    あなたはよく知らないが、『ITコンサルタント』なんてのも、巷にはあるのかもしれない。
    それのハローワーク版といったところか。

    でもなぜ、自分に白羽の矢が立ったか?
    元公務員という理由ではないと思うが。

    そのあと、担当官の説明は理路整然と続いた。
    結局のところ、「調査し、解決手段を講じ、相手に投与する」とのこと。

    あなたの発言を採用するしないは相談企業の責任。
    それによって損害が生じたとしても、やはり相談企業の責任。
    あなたが負うのは、見当違いな解釈をした場合の相談企業からの評価下落だ。
    そうなればその後の依頼は減少し、あなたとハローワークの契約解除の可能性があるという内容だった。

    予想どおり、ハローワークのお抱えコンサルタントか。
    厚生労働省の天下りOBがふんぞり返っていそうなポジションだが、お飾りでは務まらないと判断されたのか。

    (次カテゴリー『好条件に飛びつけるか?』へ続く)

  • 就活禁止? 低賃金コンサルタントへのいざない(6)vol.013

    だが、次の担当官の言葉は、あなたの思惑とは全く違ったものだった。

    「実は今、私どもハローワーク【法人】部門からの依頼を受けてくださる方に欠員ができて、新たな人材を探しているのです」
    就職支援ではなく、IT関連での業務委託ということか?
    ハローワークで就職支援事業に関するデータマイニングでもしていて、その業務を任せたいということか?

    だが、それならもっと適役がいるはずだ。
    データマイニングには統計学的な要素が必要なはずだが、あなたの経歴とは縁がない。
    だから、任されてもできるとは思えないが、ここは是が非でもできると主張して仕事を得たいところだ。

    「不定期なご依頼になります」
    と担当官は言う。

    あなたの心はぐらついた。
    それでは生活費を賄えないかもしれない。

    「そしてこれが重要なのですが、私どもとの契約期間中は、求人案件に応募することはできません」

    あり得ない。
    あなたは絶望した。

    断ろうと思ったが、もう少しだけ話を聞いてみようと思った。
    救人案件への応募を禁止するほどなら、それなりのリターンがあってもいい。

    「生活のための就業の機会を、ハローワークの都合で制限してしまうからには、それなりの収入条件は提示させていただきます。まずは、説明をお聞きになったうえでご判断ください」

    『それなりの収入条件』という言葉に惹かれながら、あなたは彼女の次の言葉を待った。

    《続く》

  • 就活禁止? 低賃金コンサルタントへのいざない(5)vol.012

    いや、もしかするとフランチャイズ勧誘ではなく『技術職への転換の打診』ということも有り得る。

    「今後、ITエンジニア求人で適当なものがあった場合、ハローワークから連絡します」 といったふうな。
    むしろ、その可能性が高い気がする。

    就職に焦り、先行きの見通しが立たない今、そんなシフトチェンジも有りかもしれない。
    とはいっても結局、応募の範囲が広がるにすぎないので、その後はいつも通りの苦戦になるだろう。
    それでも一応、ハローワークの「○○支援」といった扱いで、採用した企業側には補助金が出るとか、気休め程度の効果はあるはずだ。

    (だが……)
    この年齢から、ITエンジニアなんて務まるか?
    近い将来、老眼や四十肩、節々の痛みなど、体のあちこちに陰りが生じる年齢になってゆくのだ。
    過去に経験があるならともかく、今さらプログラマーやシステムエンジニアに初挑戦するのはさすがに無理ではないか?

    (うーむ……)
    このままアルバイトに毛が生えた程度の収入でジリ貧となるか、思い切って職種転換して無理して体を壊しジリ貧となるか、そんな悲観的な2択をせざるを得ないかもしれない。

    しかし、心のどこかから別の声がして、あなたに方向転換を告げた。

    (エンジニアへの転換でもいい)
    今度はそっち側から、あなたなりのデータベース技術にトライしてみよう。
    そう思って、担当官の顔を、決意のこもった眼差しでじっと見た。

    《続く》

  • 就活禁止? 低賃金コンサルタントへのいざない(4)vol.011

    偶然だがあなたは、『IT資産を活かした部署の機能強化』に関心を持ち、個人的にではあるが、一般的に経営者が望む戦力強化を社内で画策してきた。

    今の作業をスムーズにシステム化できるよう現場を誘導し、仕様を明確化した分だけエンジニアには要求水準を上げたが、それでも大概望みどおりになった。

    現場とエンジニアが歩み寄ることに成功すると、想像以上の成果が実現できるのだ。

    「そこはシステムがからむから、システム室じゃないとわからん」
    「いや、そこは作業現場で決めてもらわないと」
    という押し付け合いを防ぐだけで、データベースは莫大な価値を生む。

    これを数多く行ってきたあなたは、当然この技能が就活に役立つと考えてきたが、ハローワークの応募書類作成セミナーをきっかけに、それは逆転しつつある。

    端的な表現方法が無く、職務経歴書の読み手が想像しづらい特技なら、いっそ経歴から抹殺したほうが良いのではないか?

    そう考えて、思い切ってこの最大のアピールポイントを職務経歴書から消そうとしていた矢先だっただけに、今向かい合っているハローワークの担当官からの言葉は、あなたに突き刺さった。

    でももし、この流れで彼女が
    『是非その経験を活かして、フランチャイズ経営を』とか、
    『水と油の両者を理解する能力のある方なら、きっとうまくいきます』
    とか言われたら、幻滅もいいところだ。

    《続く》

  • 就活禁止? 低賃金コンサルタントへのいざない(3)vol.010

    扱いづらいITエンジニアに苦労する経営者に共感する一方、あなたは、何人ものエンジニアと接してきた経験から、彼らにも同情できる。

    そもそもシステムというやつは「それを人間がやっていたら効率が悪いこと」を自動化する仕組みのことだ。
    難易度はまちまちだが、いずれにしても「一定の繰り返し作業を機械にさせる仕組づくり」の専門家がITエンジニアだ。

    だから、経営者が夢想する『自動化による自社事業の将来構想』みたいな漠然としたことを言われても、それは『設計図』とは似ても似つかぬものだ。

    「あの連中は、ビジネスってものがわからないんだ」
    と経営者はブツブツ言うが、それはIT技術を経営者側から見ているからだ。
    エンジニアだってビジネス上の自分の役割はしっかりと果たしている…と、あなたは考えている。

    融通の利かないコンピュータ相手に奮闘するITエンジニアにとって、経営者的発想は全くの別分野だ。
    そういういわば『漠然とした話』は不得意なのだ。まず要件定義して仕様書におとしてから関わりたい。

    だから、『会社事業そのものを語りあえるエンジニアが欲しい』という経営者の願いは、無いものねだりになることがほとんどなのだ。

    エンジニアの技能でなんでもやろうとすることをやめ、『社内の情報資源活用』というテーマで発想することにより、経営者の願いはかなえられるとあなたは考えている。

    《続く》