▲▲社のケース(終)vol.057

(鑑定は茶番とはいえ、実際に役立ちそうな提案を、ひとつくらいしなくては)

ちょうどいいことに、先ほどの話の中で、仕入ベンダの中には、官公庁の事業に協力するボランティア活動を行っているところがあると聞いた。

あなたはCSRの理屈を持ち出した。

(システム開発費用として考えていた金額の、ほんの数パーセントでかまわない。それら団体への寄付をすればよい)
一瞬そう思ったが、待てよ、と思った。

(仕入ベンダと関係の深い古参社員の中に、そのボランティアに関心を持っていたり、実際に携わっている人が居るかもしれない)
特に、自分の子供たちと一緒に参加したいと考えている社員は居そうだ。

日ごろは忙しくて子供との時間を作れないが、業務の一環として機会を作ってやれば参加しやすくなるだろう。

仕入ベンダたちが納品時期を申し合わせてボランティアの集合日を設定したように。

(実は、『ボランティア活動への障壁』が最も高いのは、▲▲社ではないのか)
基幹システムに高いお金をかけるよりも、これまでとは違った角度で仕入ベンダたちとの関係性を作つことで、社員たちに尽くす方法を考えれば、新社長が望む形に近くなる。

古参社員には、より広い視野で顧客と仕入ベンダを開拓してもらいたいそうだが、わざわざ開拓せずとも新しい関係性は築けるはずだ。

売上計上の処理に手間がかかるのは、経理担当者だけに負担を押し付けていたからで、経営者が音頭を取ってオペレーションを取りまとめたうえで、それをシステムに乗せればよいのだ。

システム会社を呼ぶのはそうなってからでよい。
費用的にも、その方がずっと安く上がり、良いものが出来上がる。
社員たちのケアへお金を回しても、リターンのほうがはるかに大きいだろう。

ボランティア活動を行う社員たちを助けるための費用が、公的機関への協力の意味合いを持つから、企業としてはCSR活動という名目が立つ。

仕入ベンダたちとのよき関係を続けていく限り、継続的な取り組みとして広報活動に活かせるだろう。
彼らが社を挙げて既に実践している社会活動に、晴れて▲▲社も仲間入りができるのではないか。

「ありがとうございます。それも試みてみます」
頭を下げた男に対し、仕入の改革は今後数年でかたちが整う、とあなたは告げた。

この男が仮に新社長だとしよう。
さらに、今あなたが話したことが伝言ゲームにならず、すべて実行に移されたとしてみよう。

それでも、『父親との葛藤解消』『基幹システム導入中止』『CSR活動開始』『古参社員との和解、及び彼らの家族関係援助』『新体制の強化と業務オペレーション軽量化』を同時並行で短期間に実行するのはあまりにも困難だ。

(「数年」と、そこまで言い切ってよいものか)
とは思うが、それを言い切るのが占いというものだ(あくまでも、個人相手なら)。

あなたの頭には、「これはあくまでも【法人】鑑定という設定だ」という、どうしようもなく釈然としないシコリが残る。

(この男自身のために言ってやりたい)
だが、そういうわけにいかない分だけ、あなたの言葉には熱意が加わっていた。
そのことには自分でも気づいている。罪悪感の裏返しだ。

「ありがとうございました」
男はもう一度礼を言い、今度は深々頭を下げ、あとはハローワークに報告しますと告げた。

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