宮城県株式会社のケース(11)vol.122

(ということは……)
現在社内に蔓延している不倫の問題にも、社長の性格や意思が関与している可能性が高い。

よく、「社員はその会社を映す鏡」と言われる。

ここでいう“会社”は、社長そのものを指す場合もあるだろうし、社員たちの仕事ぶりの傾向が世間に印象された姿のことを指す場合もある。

だがいずれにせよ社員にとっては、自分の暮らしのために毎日通って一日の活動を行う重要な『場』であり、そこに醸成されている空気にさらされているうちに、その影響を受けて変化を生じることに変わりはあるまい。

(そうか)
いつごろから不倫が盛んになったのかが特定できれば、その時期は会社に何らかのストレスがかかり、社員たちの心理に重大な影響を及ぼしたという結論を導きやすい。

しかし、何をもって『不倫が開始された』とみるかが極めてあいまいで、【法人】から答えを引き出すための適切な質問が作りづらい。

本人たちだって、毎日のように接している相手にいつから惹かれ、いつ想いを届け、また相手のそれを受け入れたかなんて、計測しているわけではないだろう。

だからおそらくあなたが不倫中の社員たちの手相を見たとしても、半分以上は手のひらにそれらしき印は表れていなさそうな気がする。

現在恋愛中であることは読み取れても、今のあなたが求めるような情報ではないはずだ。

つまり「ストレスに対する心理的防衛として、異性との新たな関係に比重を置く形を採択した。ではそれは何年何月のことであるか?」などという記録であろうはずはない。

息苦しさから逃れるために社内(だけではないが)恋愛に走ったとしても、当人たちの意識には『社内に醸成された空気感の息苦しさから逃れるために』という文脈があることなんてほぼ無いだろう。

“残業続きで食生活がすさんでいた時に、手作りのサンドイッチを作って来てくれた彼女が、唯一の癒しだった”

“ギスギスして皆がいがみ合っている課内で、ひとりだけ文句も言わず、黙々と毎日夜中まで残業している彼に、何かしてあげられないかと思った”

などという感じ方をしているに違いない。

残業続きになるのは、業務の発生量に対して生産性が低く、生産性の低さは人間関係に円滑さを欠いているからだとしても、恋する二人にとっては結果として自分たちがそれぞれ想う相手に対して起こした行動のほうが重要で、大本の原因など基本的にどうでもよいことだ。

あなたはそれでも、一応あれこれと【法人】への質問を考えてみたが、社員の不倫開始をどうやって定義するかは断念せざるを得ない。

(それならば、社長自身が異性関係にだらしがないとか、自由恋愛を推奨するタイプだとか、そういった性癖はあるかどうかだ)

【法人】に対し、その質問から始めることにした。

《続く》

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