荒療治の鑑定を終えてから4日後、ハローワークから報酬の振込連絡があなたのもとへ届いた。
まだ、ビジネス誌への掲載話がどう進んでいるか、あなたにはまったくわからない頃だ。 結果が気になるのはもちろんだが、その前に気になるのは岩手社からのあなたへの評価だ。
(やりすぎでは……?)
との思いの強い面談だったため、はっきり言ってあなたは自信がなかった。 ひょっとすると、はじめて最低保証が適用されるかもしれない。
ハローワークからあなたに支払われる日額の合計より、【法人】の報酬が少なかった場合、日額合計に満たなかった金額分だけハローワークによって補てんされる。
依頼を受けてから昨日までで10日あまりだ。 振り込まれた金額が5~6万円程度だとしたら、あなたの悪い予想は当たっている。
この4日間、最初の1日こそ(これでオヤジさんを救った!)という気持ちの高揚で充実していたのだが、翌日から一転してあの日の勇み足な鑑定が気がかりになり、何をしていても落ち着かない。
あなたが岩手社に施した示唆は、売上増伸につながるものではない。
岩手社の相談内容そのものが、受注のオーバーフロー状態に関するものだったので、示唆の方向性が間違っていたとは言えないだろう。
しかし、手相から読み取れる【法人】の性質や将来の姿を加味したせいで、「ビジネス相談」というカテゴリーに分類した場合、あまりにも拡大解釈をしてしまった可能性がある。
提携先を切り離すような策を施してしまったのは、出過ぎたマネだったように思えてならない。
(むしろ、うまくいかないほうが良いかもしれない)
あなたの読みが外れ、その後の計画も失敗した方が、結果は好転するかも……。
(いや、むしろ失敗してくれ。失敗して、自分の行為は無かったものとなってくれ)
と、ますます弱気が加速していく。 それはそれで、あなたの面談に価値がなかったことになるので好ましくないのだが、「この1回は負けでいい」と思ってしまうことを止められなかった。
「1回負け」が「これで終わり」かもしれないというのに……。
パソコンでネットバンキングのサイトへアクセスするのが怖かった。
凍り付いたように固まった表情のままIDとパスワードを入力し、明細を見た。
(よかった)
青森社からの報酬の約半分といったくらいの金額が、振り込まれている。 つまり、公務員時代の最大年収の約半分だ。
(とりあえず、最低保証額ではなかった)
岩手社は、あなたの判断に価値を感じてくれたことになる。
独りよがりの解釈。強引な施策。出しゃばり……。 【法人】の評価基準は謎のままだが、どう考えてもあれだけのことをした割には、この程度で済んでよかったとも言える。
もっとも、この金額のことを「この程度」と言えるのかどうかもあなたには全く分からないし、「この程度」などと考えるのは何ともおこがましいかぎりだ。
だが、心配の半分は解消したと言える。
こうなればあとはもう、自分の判断が正しかったことを祈るばかりだ。
岩手社のオヤジさんと二人の息子たち、そして事務員の女性。皆、一日も早く救われてほしい。 ついでに、この落ち着かない自分の立ち位置も、何とかなってほしい。
どこまで続けられるだろうか。この仕事を……。