岩手県株式会社のケース(4)vol.096

(いっそ・・)
と、ふとあなたは思った。

たしかに『ビールの指輪』のコンセプトは面白い。だが、今と同じ盛り上がりはそう長く続かない気がする。一時の過熱にあおられて、自分の姿を見失ってはならない。

(岩手県株式会社に、この仕事はふさわしいだろうか)
どちらかと言えば、高い技術力で先鞭をつけ、後進が歩む新しい道を切り拓く役割がふさわしいのではないか。
切り拓かれた道を均していくのはその後進(他社)たちで、道なき道を往くのがこのオヤジが率いる岩手県株式会社の精鋭たちと考えれば、製品を提供したビジネスが成長期に入ったのを見届けた時点で、自身はフェードアウトしていくのが自然だと思う。

せっかくヒットしたにもかかわらず、オヤジがこの仕事にこだわりを見せないのは、そういう自分の役割を知り、身を引くべき時期を察しているからこそではないか。

だからいっそ、撤退してはどうだろう。
【法人】の誘導で、社長や社員の動きは方向づけられる。
あなたが自分の直感を、目の前の【法人】に示唆することで、会社の舵が切られる(ということらしい)。

実行されるか否かは定かでないが、いずれにしてもあなたの解釈投与には大胆かつ慎重な判断が必要だ。
あなたなりの見切りをし、論旨展開するための情報が欲しい。
あなたは【法人】に、手のひらを見せるよう要求した。

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岩手県株式会社(左手)
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岩手県株式会社(右手)
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今回の基本線ガイド
個人 【法人】
生命線 取引線
知能線 製品線
感情線 社員線
運命線 取引先線
太陽線 市場(マーケット)線

第一印象は、「知能線(製品線)から伸びる太陽線(市場線)」だ。
普通の個人の鑑定なら、「才能で金運をつかむ相」というトークを展開できる。
【法人】に置き換えても今までの話を立証するかのような相で、オヤジさんはその技術で業界にしっかりと根を下ろしている。
部品の仕入先も顧客も、オヤジさんの技術を認め、信頼する中で関係が築かれており、製品に立脚した市場での存在感が明確に表れている。

また、右手の運命線(取引先線)が生命線(取引線)から昇っている。右手なのでいずれも売上を意味する。
オヤジさんにとって、納めた製品への思いは、自分の分身か家族に対するもののように強く、それほど強い思いを込めた製品が信用や評判を生み、次の売上へとつながることを明示している。

実際にデータベースの取引記録から確認しても、一度納品した機械や部品の修理依頼はほとんど見られず、むしろ周辺機器である他社製品に起きた故障修理や、岩手社製の部品が組み込まれている本体そのもののメンテナンス依頼が増えてくる傾向がみられる。
岩手社製品の高い安定性が同社への信用を築き上げ、他社を利用していた取引相手が乗り換えてくる形で、商売は繁盛していた。

また、製品を雑に扱う相手を避ける嗅覚も優れていると、あなたには感じられた。
今回の『ビールの指輪』についての企画が持ち込まれた際の会話の中でも、デザイン性の高さに強い関心を示していたと【法人】が話すので、オヤジさんは装飾品に興味を持っているのかと質問したが、腕時計すらしないタイプで、服の質の良さにはこだわるが、装飾に対する執着は全くないらしい。
指輪のデザインへの強い関心は、自分が作った製品が実際に使用される現場を想像し、大切に扱われる環境である手ごたえを感じたからではないかと思われる。

青森県株式会社のケース(9)vol.079

(また、システム会社か)
毎度おなじみになりつつある展開だ。
いつも思うが、時期と内容さえ間違っていなければ、彼らの言うことは常にまともだ。
コンセプトが明快で、事業サポート用アイテムの売り込み文句として申し分ない。

問題は、システム導入を検討している顧客側(それも作業現場の末端)の状況が、システムの機能説明のお手本どおりになっていないという点だ。
当然どの会社の現場でも、システム概要の紹介資料みたいな、教科書どおりの使い方では役に立たない。
その点は、機能のカスタマイズや業務改善のソリューションでシステム会社がカバーすることになるのだが、顧客側も自分の弱点や要望に気づけないので、具体的に何を満たしてほしいのかを言わないことが多く、ましてや部外者であるシステム会社からは、いかに穿っても見えないことはよくある。

そもそも、そういった会議に出てくる顧客側の出席者は、現場から報告を受けただけで『現場感覚が無い立場の人間』であることが多く、自分たちの会社に必要な具体的機能をイメージできないから、ピントのずれた発言しかできないというケースが多発している。

仮に、現場の作業担当者が呼ばれて出席していても、そこは慣れない会議室で改まった空気の中だ。
システム会社を呼びつけているのは自社のほうなのだが、彼らのことがお客様にしか思えない。
そんな人たちや、自社の幹部が何人も見守る中で、自在で適切な発言する勇気など、普通はない。
当たり障りのないことを控えめに言うのが精いっぱいで、それだけで発言時間は終了する。
当然、本当の問題は問題点としては認識されない。それどころか「おおむね上手くいっている」という印象を残す。
幹部たちの出す、その安堵の空気感が、対坐するシステム会社のメンバーに伝わると、ある意味その時点で落としどころが決定されてしまう。

本当は、問題は山積みなのだが、自社側とシステム会社側のどちらからも、根本的なところは見えないまま「事業改善プロジェクト」のシステム導入が進むことになるのだ。
まさに『ジョハリの窓』の4の領域(自他ともに認識できないunknown)だ。

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あなたが関わった前の【法人】たちは、たまたまその“領域4(unknown)”に解決のポイントがあって、そこにアプローチしたあなたに多額の報酬がもたらされる結果になった。
いま、青森県株式会社を訪れているシステム会社はどういう方法でアプローチしようとしているのか?

青森県株式会社のケース(10)vol.080

『攻めの飛び道具には、事務が有効』といったシステム会社の営業の言葉が、具体的にどんなことを指しているのかはわからないが、ある程度想像はつく。

例えばルート営業で食料品や資材などを納めている卸の会社などでは、「無くなりそうなタイミングで顧客に声をかける」といったアクションが高い満足を生むことがある。

そういう企業努力によって、既存顧客とのより良い関係を築き、その口コミが新規顧客獲得につながることも期待できる。
つまり、顧客獲得の手段を、営業担当者の直接的な接触だけに頼るのではなく、後方で事務を担当しているメンバーが、自身の業務の特性を生かしたスタイル(例えば各顧客の消費速度と前回納品日からの経過日数のリストを基にしたアプローチ)で間接的な営業に参画する。
『攻めの飛び道具』とはそんな意味ではないだろうか。

上の例は通常、顧客対応履歴を持っている営業事務の領域だが、ほぼ決まったスパンで納品が行われていて、売上伝票でも確認できる実績データを基にしているので、経理がその『飛び道具』の役回りを兼ねることも理論上は可能だ。

しかし、ある程度大きな企業では「経理は管理部門、営業事務は営業部門」と分断されることが多く、経理が兼務する形はほぼ見られない。
一方、小さな会社では総務と経理が兼務になっているケースが多く、営業サポートをそこまできめ細かくやり遂げるのは難しい。

青森社では派遣を含め社員は31名。うち営業が9名(3拠点に4名・3名・2名)。つまり、事務員の数は31-9=22。
そのうち、総務と経理に各1名の正社員。派遣社員1名がその二人をサポートする体制なので、22から3名を引いた残りの19名が営業事務を担当している。

青森社の経常的な固定経費(資本投下)のうち最大のものは「事務員の人件費」であることは、財務諸表を分解して考えてもわかる。
もともとが仲介業だから、製造や運搬用の設備投資は不要だ。だから、事務にお金をかけている今のスタイルが間違っているとは言い切れない。
しかし・・

(バランスが悪い)
売上高は多いが原価率も多くて粗利が乏しいのに、これだけの社員を抱えていては経営が苦しいのは当然だ。
おまけにこのビジネスに他社が参入して市場が広がり始めた頃、競合に対するアドバンテージ確保に焦ってスタートダッシュをかけ、拠点展開をしてしまっている。
人件費に加え、さらに地代家賃が営業利益の圧迫に拍車をかけている。

帳簿上の内部留保の金額や、銀行残高の数字に気が大きくなっていた社長の“勇み足”を、今度は“足切り”で清算することに意識が向くのは自然の流れというものだろう。

(一番のネックは、事務のオペレーションが複雑なことだ)
そのために人海戦術をやってしまったことが、今日の状況を招いている。
全体的なオペレーション改革を行わねばならないが、自社では収拾がつけられない状態ならば、その部分を外注してしまうのはひとつの方法だ。

が、レンタル管理の事務こそが青森社の事業である。
自社事業のカギを握るメインの業務にもかかわらず、ノウハウが未知のまま他社に投げてしまうことは、自社の命運を他社に委ねるようなものだ。
相手が親会社で資本関係がある、などのつながりがあるのならともかく、青森社にはそういった関係会社は存在しない。

「システム会社の営業も、『今、外注するとそのリスクがある』と、最初にそう話していました」
【法人】はそう言った。
(ホウ・・)
あなたは面白く思った。

システム会社の本音は、外注会社に回そうとしている資金があるなら、それをウチへ引き取りたいということだろう。
巷には、プレゼン相手の事情をロクに聞かず、いきなり導入実績や機能説明を始めてしまう営業担当も多い中、青森社の潜在リスクを引き出して、最初にそのことを伝えたということだ。
【法人】によれば、かなり親身な話し方だったという。社長はその話の続きに期待し、すぐに引き込まれたそうだ。

青森県株式会社のケース(11)vol.081

あなたは、この局面から先の展開をいくつか思い浮かべてみた。
1.「自社事業のカギを握るメイン業務」を、これから探そうとしている得体のしれない外注先ではなく「親身な我が社」に委ねさせるよう誘導し、事実上青森社の首根っこをつかんでしまう。

2.「自社事業のカギを握るメイン業務」だけでなく、オペレーション全般を見直すためコンサルタントを入れて本格的に革新を図る。青森社の株式上場を狙ったベンチャーキャピタルで、システム導入はその要素のひとつとして準備されている。

3.「自社事業のカギを握るメイン業務」を理想的な形に進化させるプロジェクトの音頭を取り、改革を成功させて青森社の経営健全化を成功させる。その暁に、そこまでに築いた合理的なパターンを搭載したシステムの購入という運びになる。

1は完全に期待外れ。2は経営者の質や事業の性格によっては「有り」だが、今までの話から総合すると、青森社には適さないだろう。3はビジネスというより慈善事業だ。いくら相手が親身に話してくれたとはいえ、そこまでは望むべくもない理想の夢物語だ。

「なぜですか?」
あなたの憶測に対して、【法人】が訊ねてきた。
これまであなたが接してきた【法人】の中では(といっても2社しかないが)珍しく、言葉数が多く、好奇心も旺盛な感じだが、おそらくは社長の性格の反映なのかもしれない。

それとも、システム会社の営業が、株式上場を匂わせるトークをしたのかもしれない。「なぜですか?」という【法人】の質問は、「相手の親身さを期待できない理由はなぜか」もあるが、それ以前に「なぜウチが上場を目指すのにふさわしくないのか?」という意味が強いような気がした。

念のため訊いてみると、「株式上場を考えていますか?」という質問を、社長は実際に受けている。
ついでに、社長がそれにどう答えたかも訊いてみたが、「そういう話はこれまで何度かあったが、うまく進んだことがない」と答えたという。

青森社が立ち上がって間もない頃は、株式上場の手伝いをするようなビジネスは、まだ整備されていない時代だった。
もしも、公務員だけを相手にしていた羽振りの良いころに上場の話を打診されていたら、旨味に目がくらんで手を出していたかもしれない。
その後、ベンチャーキャピタルが活発になり、満を持してコンサル会社が上場話を持ち掛けてきたころ、青森社は事務品質の悪さでクレームやキャンセルの続出に右往左往している最中だった。

もともと青森社の社長にとってIPOの話などは、自らの実力では持て余すハイレベルな話だったうえ、目先の対応に追われて手一杯の時期だ。
余裕が無いので断っていただけなのだが、対面上そうも言えないので「うまく進んだことがない」という、実態を濁した言い回しをしたのだった。

(やはり、運は良いのだ)
いきさつを聞いたあなたはそう思った。
ぜひとも社長自身の手相を見てみたいものだが、それは絶対にできない。

「でも、今は一時期よりはクレームなんかもかなり減ってますから、今だったら何とかなるんじゃないですか?」
【法人】は食い下がった。
たぶん、社長はシステム会社が持ち掛けてきた、システム導入の後ろに見え隠れする株式上場の話に救いを求めているのかもしれない。

今のこの【法人】の態度は、きっとその表れだろう。
それに、そうと決めれば【法人】には社長を誘導する力があるというのだから、今あなたが踏ん切りさえつけてやれば、青森県株式会社の方向性はすぐにでも決まるだろう。

しかし・・

青森県株式会社のケース(12)vol.082

(成長期なら、それもいいだろう)
成長期は、顧客の数が増える時期だ。
客は、その商品やサービスが欲しいので、基本的に買うこと自体はほぼ決定していて、どこから買うかという選択だけが残された状態にある。
だから成長期は「今売れている商品を売ればよい時期」であり、「顕在顧客に最もスピーディーに到達する競争の時期」とも言い換えられる。同じ業態で株式公開している企業が無いなら、上場することもまた有利な条件を持つ要因になることだろう。

(しかし、残念ながら今は成熟期だ)
成熟期に上場するということがどんなことか、青森社の社長には念頭にないと思うし、システム会社の営業がそこまで懇切丁寧に話すだろうか。
つまり、「今売れている商品を売ればよい成長期」とは違い、成熟期は「次のヒット商品」を出さないと売上や利益の増大が成されず、投資家に対するアピールが弱くなり、株の売買では売りが先行して株価は下落するというリスクがある。
その防止策についての助言をしているかどうかということだ。

上場後、経営者は株価を維持したいと思う。
一方、ベンチャーキャピタルは上場させた直後に、所有しているその会社の株を売って利益を得るのが目的だ。
利害は一致していない。
キャピタルは株を売り抜けるまでのお付き合いになるので、そのあとのアドバイスまで、本当に身を入れて対応してくれるかどうかは疑わしい。

今の青森社に次なる成長商品があるか? という要素を加えて考えれば、上場話などは手を出さないほうが良いと思うのだが、社長はそこまで見えていないと思う。

(ここは、逆に考えてみるべきか)
上場を狙って無理矢理に売上高を作って見せるなどのパフォーマンスは一切不要だ。
むしろ、絶対に上場が狙えない方向へ、思い切って舵を切るのだ。

「業界をリードしている」という、今となっては空しい看板にしがみついてもその効果は期待できず、必死でしがみつくほどその負担が増していく。
大体、現在のネット社会で「業界トップ」をアピールできるだけの実績があるなら、青森社にとっては過剰な設備を手放しても問題ないと思う。

たとえば地方拠点などはもはや過去の遺物だ。社員はともかく事業所は不要で、これを構えているがゆえの家賃が経営を圧迫している。
本社は自社の持ち物なので、手放すのは2拠点ということになるが、それだけでも毎月100万近くの経費が削減できる。資金繰りに与える好インパクトは非常に大きい。
他に、ビルの屋上にある広告塔や、雑誌の固定掲載枠の中に、手放してもさほどの影響がないものもあるだろう。それらは徐々に終了させ、WEBコンテンツの充実に一極集中させたほうが広告効果は上がるはずだ。

青森県株式会社のケース(13)vol.083

(むしろ、問題は「撤退時のオペレーション」か)
借りている事業所用不動産からの退去に伴う手続きは当然だが、今、各拠点単独で動いている事柄を停止させたことによる現場の混乱度と、本社業務に集約するために必要な処理がある。
それから当然、その拠点で働く社員をどうするか、だ。本社から転勤させた社員は戻ってくる公算が高いが、現地で雇った社員は退職してしまうかもしれない。

「こう言ってはなんですが、二つの営業所は『営業所』というより『出張所』でしてね。社員同士の会話でも、まあ、のんびりしたもんです」
【法人】はそう話す。
(ということは)
あなたは2拠点の各種伝票データを見た。
起票者の欄を確認すると、すべて本社の事務員が行っている。売上の伸長が止まってからは、現地の事務が減少しており、本社集中制度をもくろんだ社長が意識的に地方拠点の担当事務を本社へ引き上げ、それぞれ1名ずつ置いている2拠点の事務員も本社へ異動させようとしているところだった。

社員をドライに切り捨てることを考えていないという点で、青森社社長は、あなたが想像した人物像から外れてはいないようだ。
そんな社長の「人を受け入れる性格」が社内に行き届いているせいなのか、忙しい本社と対照的な地方拠点の社員を見下すような風潮は、【法人】の話からは感じ取れなかった。

(変だな)
むしろあなたは、そのことのほうに違和感がある。
大抵、経営状態が悪く、多忙でギスギスした職場においては、支社や営業所などは問答無用で一段下(制度上そうだから当然ともいえるが)に意識づけられ、そこがヒマだとなるや、やっかみも手伝って本社での不満のはけ口になるケースは多い。
折に触れて悪口の対象になっていてもおかしくはない。
しかし、そういうことは無いようだ。

(地理的な条件のためか?)
ふたつの営業所の所在地は、東京と大阪だ。むしろ本社のほうが「地方」と呼ばれるのが一般的な感覚だ。
「大都市へのあこがれ」が、ヒマな営業所に価値を与える原因となっているのだろうか?

(そんなに単純ではあるまい)
では、東京と大阪には、社内でも特に強い影響力を持った社員が所長になっているということか。
あなたは社員マスタをもう一度見直してみた。
青森社の第一次成長期は、先ほど確認したとおり、パート3名を含む5人で取りまわしていた。
この時の「5人」というのは社長を含めての数だ。当時の社員は1名だけだ。今や社長の右腕となっている。

彼は東京営業所の初代所長として8年ほどトップを務めたが、今は本社にいる。東京営業所は通勤圏内だったので、社長も足繁く顔を出してほぼ二人で立上げを果たしたが、続いて発足させた大阪営業所はそうもいかず、現地雇いの社員を大急ぎで育成し、配置人数を増やすことでカバーした。
営業9人のうち、大阪が最も多い4名体制となっているのはその当時の名残である。

つまり、トップとナンバー2は本社にいる。そして、本社の衛星的な位置づけの東京営業所と「外人部隊」で構成された大阪営業所には、どっしりと構えて本社への睨みを利かせているツワモノなど存在している様子はない。