【法人】現る!(7)vol.040

ほうじん

4文字の音に、様々な漢字や慣用表現を当てはめてみた。
真っ先に思ったのは『邦人』だ。つまり日本人。

だが、それだと意味がつながらない。
何とも皮肉なことだが、▲▲社についてあなたは詳しい。
就職を夢見て必死に調べたから、▲▲社が日本法人であることは良く知っている。

この男が日本法人に勤める日本人だということが、この局面で何の説明になるというのか。
釈然としない空気感を発するあなたに対し、男は言葉を続けた。

「ハローワークから、【法人】部門の依頼としてお話を受けているはずですが、その【法人】部門とは、直接【法人】と接触する、特殊な役割を担っている部署なのです。そしてこのことは、内密にされています」

だから、なんだ。
その法人から来た【個人】ではないか。
いい加減な茶番は聞く耳を持たない。
あなたは無言の気合で、相手の言葉を弾き飛ばした。
さすがに男も、辟易し始めたようだ。

「私はその【法人】なのです。個人ではありません。にわかに信じ難い話でしょうが、実在するのです」
少し言い訳じみた感じでそう言った後、小さくため息をついて話を続けた。

彼によれば……
【法人】は、一部特定の立場にある人間以外とは接触しないという。

一般的に、登記簿やホームページ、コマーシャルなどで、世間に姿をさらしている法人格の意思決定や行動は、そこに所属する個人たちが行う。

しかし、法人格のあらゆる活動のきっかけを生み出し、会社という「場」を醸成する根本的な力は、すべて【法人】が担っている。

ということらしい。
作り話としても、興味深いことだ。

ITのシステムに例えれば、通常はインターフェースを通じてしか情報を抽出したり、書き換えたりできないのだが、そこをすっ飛ばして、サーバに直接データを書き込める権限を持っている人が【法人】だというのだろう。

内心面白がりながらも、あなたは身じろぎせず、黙って男の話を聞いていた。
「あなたをダマす話の前振り」もしくは「そういう妄想にとりつかれた、ただの変人」。
そのどちらとしか考えようがない。

当然、その【法人】とやらであるという証拠を見せろ、と言っても無意味だろう。
とりとめない話を延々と聞かされるのがオチだ。

《続く》

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