めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(2)vol.029

担当官は早速、契約内容の詳細説明を始めた。

「守秘義務に則り、面談室で交わされたいかなるやりとりも、決して他言することはできません」

この話は前回の対面時に聞いているが、よく聞くとあなたの認識とは違っていた。

「もちろん、私どもハローワークの職員にも、面談内容を話すことができません」

つまり、面談時に何を言われ、何をされたとしても、それを訴えることは禁じられるということだ。

ハローワークと接触する多数の企業の中には、人格的に壊れているような輩だっているかもしれない。

依頼人の立場をいいことに、『評価を下げるぞ』などと脅され、暴力を振るわれたとしても、そのことを誰にも言えないということだ。

あなたは気になって、これまでこの仕事を担当していた前任者が、なぜ辞めたのかを担当官に訊ねてみた。

「残念ですが、それはお伝えすることができません」
どうにも怪しい。
この契約の為にフイにしてしまった▲▲社のことが、あなたの頭いっぱいに広がった。

(やはり、あちらを選ぶべきだった……)
悔やんでももう遅い。やはり、こちらが悪魔のささやきだったに違いない。
天使はあのとき、あなたの頭の上で▲▲社を指さしながら、「こっちだよ」とあなたを必死に導いてくれていたと思う。

(悪魔のささやきなら、せめて愛想ぐらいよくしたらどうだ)
あなたがそう考えていると、愛想はともかく、担当官が説明を補足した。

「もし、面談室で人道に反するような行為が行われ、受託者(あなた)に著しい各種の損害が生じた場合は、当然裁判になると思います。そのとき裁判所の命令があれば、面談室内の事柄は開示しなければなりません」
それはそうだろう。

「でも、現在までそういった争議は1件も起きていません。これまでに、この業務委託を請けて頂いた方は、契約締結時に必ずそこを確認されますが、結局それは全て、締結時だけの心配となっているのが事実です」
信用してよいものだろうか。いくら役所だからといって。

(署名捺印さえしなければ、こんなものに振り回されたりはしない)
だが、頭の中では砂時計がサラサラと落ちていく。
残り少ない上部の砂は、あなたの生活資金だ。

時は金なり。世の中は金がすべて。
そう、今のあなたには、選択の権利はあっても、選択の余地がない。

《続く》

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