あなたの招き入れに応じて、相手はカーテンをはぐって入室してきた。
ひとりだ。
やや細身の中年男性が、グレーのスーツに身を包んで立っている。
それを迎える(迎え撃つ)あなたの瞳は、当のあなた自身は気づかないが、中途半端な保身を一切捨てた清々しさをたたえ、挑戦的な輝きを発していた。
相手の表情に、一瞬「オヤ」という風な動きがあった。
無理に気負った新米コンサルタントに感じる『張り子感』は、今のあなたにはない。
相手の男は、そういう『張り子』的な人間が待っていると予想していたのかもしれない。
あなたは静かな笑みを浮かべ、イスを示した。
相手は少し打たれたように棒立ちになった後、軽く頭を下げて、大人しくあなたの示唆に従い、腰を下ろした。
ハローワークから御社のことは何も聞かされていない。名前さえ知らない。
というありのままの事実を伝えながら、頭にひらめいた質問を伝えると、相手は驚き、戸惑う様子を見せた。
予想外だったに違いない。
御社の名前を知る必要があるか?
ということが、あなたの質問内容だったからだ。
社名は聞かない。
今、目の前にいる担当者の名前も聞かない。
どうせ事前情報がゼロなら、そんなものはこの場の相談内容には必要がない。
そう割り切ったあなたは、相手の素性を聞かない方針を取ろうとしたのだ。
しかし、首を振った相手が口にした社名を聞いた瞬間、むしろ戸惑ったのはあなたのほうだった。
「私は、▲▲社です」
(……どういうことだ?)