薄暗い廊下には人の気配がない。
『開く』ボタンを押したまま、そっと首だけを外に出し、左右を見渡す。
右奥はすぐに行き止まりだ。
左側の奥は長く続いているようだが、照明が無く、先まで見通すことができない。
あなたの行く先は、エレベーターを降りて左斜め向かいの、細い通路の奥だ。
その通路は廊下から90度に曲がっているので、ここからだと完全に死角になる。
エレベーターを出て通路の前まで数歩進み、7~8メートル先の突き当りを見ると、薄暗くて柄は判別できないが、扉ではなくカーテンが垂れ下がっている。
(ここまで来たら、扉で遮断する必要はないということか)
ふと気づくと、通路の途中に非常階段に抜ける鉄扉がある。
あなたは少し安堵した。
いざという時、あなたが大声を出せば、上の階層にいる人の耳に届きそうだ。
もっとも、地下3階に人が常駐していれば、の話だが……。
何より、あなた自身がそこから逃げ出すこともできるだろう。
背後で、エレベーターの扉が閉まる音が静かに響く。
その音がやむと、地下4階フロアには完全な静寂が訪れた。