(呼ばれたことに気づかなかったらしい)
総合受付へ戻ってそのことを告げると、随分待たされたあげく、別室の場所を示され、そこへ行くように言われた。
(特別な紹介案件でも用意してもらっているのか?)
毎日訪れた記録は当然残っているだろう。それが高評価を呼んだのかもしれない。
あなたはドキドキしながら略図のとおりに歩き、指定の部屋へ向かった。
(ここだろうか?)
ドアプレートの室名を見て、あなたは不審に思った。
『起業支援相談室』
ドアにはポスターが貼られている。
「起業セミナー開催のお知らせ」
「融資・助成相談会。○年 ×月の日程」
「中小企業振興公社窓口移転について」など
あなたに起業願望はなく、当然、ハローワークにもそんなことを言った覚えはない。
適当な場所がないから、たまたまこの部屋を使うのだろうと考えながら、ドアをノックして開けた。
部屋の中は、テーブルを二つくっつけて会議机代わりにしたシンプルなレイアウトだ。
6人も入れば息が詰まりそうな狭い部屋で、テーブル越しにあなたを待っていたのは、20代半ば頃とみられる若い女性だった。
中肉中背、締まりのあるムダの無いスタイルを紺色のスーツで包んでいる。
肩までの黒髪が服と相まって色白の肌を一層引き立てている。
テーブルに隠れて全身は見えないが、張りのある立ち姿勢には、
女性らしい自然なしなやかさが加わっている。
かすかな笑みを浮かべてあなたを迎え、おずおずと入室したあなたへ、ドアを閉めるよう促した。
どうやら相手は彼女一人らしい。
何の話か想像してみたが、この部屋が起業支援相談室であることからの連想で、
(フランチャイズ加盟の勧誘ではないか?)という疑念が湧いてきた。