宮城県株式会社のケース(12)vol.123

訊いてみると(意外なことに)社長はその夫人との仲は実に円満で、仕事終わりによく待ち合わせてトレーニングジムに通っているらしい。

トライアスロンの趣味が共通しており、子供がいないことから二人で身軽にあちこち飛び回って大会に参加したりもしているとのことだ。

かつて、こんなこともあったという。

出張先と同じ地区で行われる財界のパーティーがあり、途中から夫人が合流した。

本来、業務と無関係なことに社員を巻き込むのを嫌う社長だったが、その日は人手が必要で仕方なく同行の社員たちをパーティー会場へ付き合わせた。

その時社員たちが目にした社長夫妻の行動は、パーティー開始早々からあちこちのテーブルを回り、品良く挨拶して積極的に参加した印象だけを残して、二人とも会場から早々に退出してしまうというものだった。

社員たちもすぐに開放されたのだが、夫妻は共々にザックを背負って一足先にそそくさと街中に消えていった。

後で調べると、その方角に会員制スポーツクラブの支店があったので、そこへ行ったのは間違いないと噂された。

おいしい地酒とそこでしか獲れない海鮮の刺身や煮付けで有名な土地だったが、全国の名所や美味などは散々たしなみつくして、夫妻は全く興味がないようであった。

社長は長男ではないので家を継ぐ必要もない。そして代々続く有名な資産家の一族であり、老後の生活にも心配がない。身軽な夫婦生活を、まるで友達や兄妹のように楽しんでいる様子がうかがいしれた。

《続く》

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