青森県株式会社のケース(15)vol.085

第1回から第25回まで話した内容をすべて文字にして並べてみると、時の経過につれて『居酒屋の会話』より後の『事業開始後』について語っている部分が増えている。

(ほう)
あなたは興味深く思った。

青森社の創業神話は、社長が社員を(というより自分自身を)鼓舞させるために語る、いわば自慢話のはずだ。
それなら、普通は社長自身のきらびやかな武勇伝が披露されるはずだが、どうもそうではない。

初期の時代の話では、初代東京営業所長を務め、現在は青森社のナンバー2となっている幹部が主語の文章が大半を占める。

中期以降では「あまり面識もないまま勤務に就いた大阪営業所メンバー」や、「互いのオフィスをせわしなく行き来した東京営業所と本社メンバー」のひとり一人を主語にして語られている文章が多い。

さらに細分化し、社長の一人称表現だけを抽出してみた。
『俺が』という言葉より『俺たちが』のほうが、比較にならないほど圧倒的に多い。

(面白い人だ)
たぶん、社長はそんなことを意識してはいないだろう。

社員たちも、社長の『いつものあの話』のときは、何となく(内心苦笑しながら)聞いているだけだろうが、無意識に“社長が感じている自分への距離の近さ”や、“理屈抜きの信頼感”みたいなものは感じていると思う。

しゃべればしゃべるほど、聞かされれば聞かされるほど、それらはすり込まれていく。
これもある意味、見事な『創業神話』かもしれない。
社長にしかできないことだが……。

《続く》

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