あなたは受話器を置き、ガックリとうなだれて深いため息をついた。
人生の道に現れた救い主が、せっかく差し伸べてくれた手を、あなたは悪魔のささやきに惑わされて、振り払ってしまったかもしれない。
今この瞬間のあなたを見て悪魔はほくそ笑み、天使は悲しげに眉をひそめている気がする。
結局あなたはハローワークの依頼を受けることにし、▲▲社のほうへは、「昨日からインフルエンザを発症したため行けない」と、嘘を言ったのだった。
『別のところが決まったから』とは、あえて言わなかった。
その “ 別のところ ” は、たった1回限りの契約なのだ。
「決まった」などというフレーズは相応しくない。
それに、病気が原因なら、万に一つ、別の日取りで面接が組まれるかもしれない。
だからあなたは、▲▲社へ電話する前に、
「完治したら是非、前向きに考えさせて頂きます」
という言葉を準備しておいた。
しかし、▲▲社の人事担当者は、
「ではまたご縁がありましたら」と言って電話を切った。
「お大事に」とも言っていた。
是が非でもあなたが欲しいというわけではないと言い渡されたも同然だ。
あなたはスーツの上着を脱いで足元へ落とし、ネクタイを外すと、くたびれたベッドの上に倒れ込んだ。
しごとセンターのアドバイザーへ、断ったことを電話する気にはなれない。
メールで連絡しておこうと思ったが、それも今すぐする気にはなれなかった。