「その後いかがですか? 今、ご希望に合う求人はありますか?」
担当官はそう訊ねてきた。
はっきり言って、今のあなたは希望などと贅沢を言える状況にない。
買い手市場の弱者代表というほど自信を失っている。
気弱に答えるあなたの顔をじっと見て、担当官はゆっくりとうなずいた。
……
少し間が空き、違和感をおぼえつつもあなたは次の言葉を待った。
「本日こちらへお越しいただいたのは、私どもからの要請を、受けて頂くご意思があるかどうかを確認させていただきたかったからです」
(ついに来たか)
あなたは内心で身構えた。
ここからが本番(フランチャイズの加盟提案)だ。
しかし、担当官が口にしたのは、またも予想と違った事柄だった。
「『応募書類作成セミナー』で、書類の添削を希望されましたよね?」
(どういうことか)
あなたはさらに様子を見た。
職歴から判断して、こういったことにご興味をお持ちと思われますが……
みたいな導入トークから、学習塾の経営とか、マッサージ店開設とかそんな話が始まると思っていたのだ。
確かに、担当官が言うように、あなたはセミナーで書類添削を希望した。
実はそれこそが、あなたが強く求めていたものだったからだ。
応募書類添削を受けられる機会はあまりない。
超有名な転職サイトで見つけた【添削サービス】に申し込んだら、『今、ご紹介できる適当な求人案件がありません』という無造作なメールが返ってきたことがある。
添削サービス希望の話がすり替えられていることに、あなたは腹を立てた。
結局、登録者を増やすためだけのエサで、転職サイトの応募書類添削はアテにならないと認識した。
また、ハローワークの窓口担当者に応募書類を見せ、アドバイスを求めたこともある。
しかし、担当者の当たりはずれも多く、無駄足になることも多かった。
窓口にいるから書類作りのセンスがある、という保証はないから当然ともいえるだろう。
そして、「しごとセンター」では、担当アドバイザーとよほど相性が悪いのか、会話が噛み合わず、対面中ずっと圧迫され続けて、会うこと自体が苦痛だった。
初対面でのオリエンテーションが済んだ後、何度もカウンセリングを勧められた。
書類添削には良い機会だったのだが、彼女とは再会したくないので一度も応じたことがない。
そんな中、思いがけず目についたこのサービス。
どうしても受けたかった。
『セミナー開催前の1か月間に、ハローワーク求人に30社以上応募していること』が条件だ。
あなたは問題なく、それに該当していた。
我ながら(ぶざまだ)と思いつつも、これを受けないという選択肢はなかった。
そして、2日間のセミナーでさらに作りこんだ書類を、祈るような気持ちで講師に渡したのだった。