投稿者: 469buncho

  • 宮城県株式会社のケース(終)vol.129

    買収前の創業2代目社長は、父である初代社長ほどのカリスマ性が無いことをごく当たり前に受け入れていた。無理に張り合って社員たちに自分を大きく見せるよりも、マイペースでありのままに周囲と向き合うタイプだった。

    跡取りだった彼が他社に武者修行に出され、帰り新参の幹部として戻るまで、結構な歳月を経た。

    その間は部外者であったわけだが、宮城社の社員たちとは絶え間なく連絡を取っていた。
    同じ想いを抱きつつも境遇を別たれた志士同士として、悩みや愚痴には休日も関係なく相談にのった。

    互いに分かり合いながらも離ればなれになり、違った場所に居ながらも喜びや痛みを共有する結びつきは、やがて帰参したときには、普通の役員と従業員の結束とは違った形に変貌を遂げていた。

    それはまさに、宮城社が持つ社員の存在力、宮城社の個性そのものだった。

    といって、別に2代目と社員たちの関係は、恋愛感情などというものとは違う。
    部下から見ると、仰ぎ見つつも、つい肩を叩いて言いたいことが自由に言えそうな上司であり、言葉にはせずとも互いに認め合っている実感がビンビン得られる。

    感情面で張り合いのある上司は、感情量の多い社員たちにとって、初代とは違った意味の強いカリスマ性を持っていた。
    後をついて歩きたくなる創業社長に対し、肩を並べて歩きたくなる2代目だったのだ。

    宮城社を悪用しようとする輩さえいなければ、現社長の助けも要らず、社員と会社の理想的な関係が続き、【法人】はあなたの前に現われることがなかっただろう。

    しかし、平和な日常は破られてしまった。
    悪の標的になり、ホワイトナイトの出現によって救われたことで。

    2代目にすべての責任があったとは言えない。
    それでも、自身では会社と社員を守りきれず、他人(現社長)の力を借りたことは事実である。
    彼は社長の座を降りることを決めた。

    去るにあたっては、スーパーエリートの現社長や側近たちと良い関係を作り、残った社員たちの労働条件をできるだけ良いものにしようとした。

    乗り込んできたエリートたち相手の立ち回りで、柄にもなく賢いふりをしなければならなかった2代目の苦悩は、あなたとのやり取りで【法人】が見せた、とっつきの悪い印象に表れていたが、それは2代目の責任感や人の好さの傍証とみて間違いないだろう。

    「責任を取って」退いた社長
    強い感情を受け容れる器が、社員ひとり一人の強い所属欲求を満たし、その強烈な想いに秩序と倫理を持たせることに成功していた。

    創業から2代にわたる、社長と社員の間をつなぐ絆が、【法人】の性格になっている。
    普段着にサンダル履きで過ごしてきた庶民感覚の持ち主に、フォーマルなタキシードは窮屈なのだ。

    宮城社を救ってくれた現社長だが、会長に退いて社長を復帰させることが、従業員に安心感を与え、元の状態に復する引き金になる。

    外部の士業のプロたちに任せる仕事も、お仕着せのものにするのではなく、復帰した社長と社員たちの裁量に任せるのがよい。

    宮城社のコア業務のスキルを手中に収める現社長の野望は、一旦社内が正常化するまで中断だ。
    歯止めの効かない不倫が、2代目の復帰により終息するさまを見れば、短期間での極端な改革は見直すだろう。

    元々この現社長は、長期視点で資産運用をする投資家。それも投資のプロなのだから……。

    これが、今回あなたが出した結論だ。

    これ以上、言うべき言葉が見つからなかった。
    それだけを伝えると、あなたは席を立った。

    ありがとう、と、背後で聞こえた気がしたが、そんな気がしただけだったかもしれない。

  • 宮城県株式会社のケース(17)vol.128

    逆に、なぜ今までは不倫が起きなかったのか?

    いや、起きないのは当然だ。それが当たり前じゃないか。とも言える。
    しかし、起きてしまった今は、起きなかった過去の姿が何か特別なものに思える。

    ある時期から社長は、買収前の社長のことに関心を持ち、社歴を調べていることが多くなったと【法人】は言う。

    あなたはこの宮城社という【法人】の手のひらから、この問題の解決法として、かつての社長の存在に行き着いたが、どうやら現社長も同じ方向への意識が芽生えているらしい。

    現社長は、宮城社を買い取った時の社長だった創業一族の2代目から代表権を取り上げて相談役のポジションを与えたが、事実上、会社とは無関係の存在へ追いやった。
    そして、経営については自身が連れてきた人物に社長のポジションを継がせ、自分はオーナーの立場をとった。

    しかし、任命した社長の手腕に不満を感じて早々に解任し、自ら経営に乗り出して現在を迎えているわけだが、【法人】はその現状に不満を感じている。

    あなたはその、現社長が買収時に退陣させたという創業一族の2代目社長を、もう一度呼び戻すことを考えている。

    この【法人】の存在に最も適しているのは、その2代目社長だということが、あなたが【法人】の話から導き出した結論だ。

    宮城社では、とにかく社員たちの存在感が強い。
    おそらく、ひとり一人の気持ちが会社の存在と溶け合っているのだろう。

    なぜだろうか?

    あなたが社員たちの手相を見るわけにはいかないので推測するしかないが、おそらく宮城社に採用されるのは、感情豊かな人材が多かったのではないか。
    社風に合うのは、圧倒的にこのタイプだからだ。

    ということは、宮城社に集うのは主に、自分の想いを重ねられる職場を求める人材で、それには整いすぎた会社よりも、フランクな社風のほうが適している。

    だが、そもそも「会社」という漠然とした存在に、それほどの求心力があるだろうか。

    おそらく、そんな社員たちをしっかりと受け止めるトップの存在こそが、宮城県株式会社の最大の肝だったのではないか。
    あなたはそう考えている。

    《続く》

  • 宮城県株式会社のケース(16)vol.127

    かつての社長の復帰。

    これが、あなたが出した結論だ。
    今の社長には、会長に退いてもらう。
    代表権は持たせたままでよい。そうでないと、資金面などで現在のような注力は難しいかもしれないからだ。

    現社長には、宮城社を使って成し遂げたい野望があるようだが、しかしこの不倫の蔓延について、やはり言い知れぬ不気味さと、関係者に露呈したときの恐ろしさを感じていたらしい。

    社内で部下に対し、その不安を口に出して言った事実はただの一度もなかったが、たった一度、机上のパソコンで検索サイトに『社員の不倫 法的リスク』と入力し、表示されたリストを見る間もないほど即座にブラウザを閉じた履歴があることを、あなたは【法人】の話で知った。

    おそらく弁護士のところにでも行って相談したのだろう。
    が、その後も会社の中では弁護士との会話などはしておらず、側近たちにも一切話題を切り出さなかった。

    これらのことから、社内不倫のことを知った後も、それに関する言動や行動を慎んでいたことがうかがえる。
    トップの自分が部下たちにあたふたした自分の姿を見せたくなかったのではないかと思う。

    それなのに、魔がさしたように自席のパソコンでキーワード検索をしてしまい、すぐに我に返ったのだろう。
    社員たちに余計な動揺を与えないよう自分を律していても、やはり、かなり切羽詰まった気持ちだったに違いない。

    (どこかに、この事態を収めてくれる人物がいないだろうか)
    そう思っていたこともうかがえる。

    不倫している社員の人事記録を引っ張り出し、長い時間凝視した後、ため息をついてそのまま棚に戻したことも、何度かあった。
    初めての経営者体験の中、これまで感じたことのある孤独感とは明らかに別種の、経営者ならではの辛さを実感したのかもしれない。

    企業情報なら過去から未来までを読み通せる投資家社長も、なぜこんなにも社員たちの間で不倫が蔓延し始めたのかという謎は、解明できなかったようだ。

    《続く》

  • 宮城県株式会社のケース(15)vol.126

    かなり思い切った方針転換が必要だ。
    【法人】の手相を読み取ったあなたは、これからしゃべろうとする自分自身の考えにたじろいだ。

    本当なら、社長と直接話して決めたい。

    ただし、この【法人】相談では意思決定のポイントが違う。

    これまであなたが携わった問題は、常に共通していた。
    【法人】の性質に、会社が置かれた状況がそぐわない時、様々な問題が生じているのだ。

    その時会社を率いている社長の方針すらも、「【法人】が置かれた状況の一要素」にすぎない。
    そういう意味では、社長と話したとしても真の解決に至ることはできないだろう。

    あなたがこれまでしてきた【法人】への示唆は、社長の方針とはずいぶん違ったものが多かった。
    中には、真っ向から否定したものさえある。
    例えばこんな感じだ。

    ▲▲社
    経営効率化の旗印を掲げて、先代から長年かけて築いた信頼関係を手放そうとする2代目社長にストップをかけた。

    北海道株式会社
    サービス品質に比して営業力が弱いことに悩む社長が、無謀な採用活動で【法人】を消耗させることをやめさせた。

    岩手県株式会社
    「高品質・少量生産」の持ち味とは相性が合わない、浮ついた流行関連部品の過剰なニーズに対しては、ビジネス自体を手放させた。
    この判断は社長の方針には合っていたと思うが、さすがにやりすぎ感をぬぐえない。

    しかし、あなたがしてきたいずれの示唆も、【法人】から一定の評価は得られた。
    毎回の報酬額が、ハローワークからの最低保証額を上回っているのは、【法人】があなたの相談対応に価値を感じたからだ。

    ためらいは大きいが、今度の場合も、この宮城県株式会社に対してひとつの示唆を行うだけにすぎないといえる。

    (この【法人】には、やむを得ないだろう)
    あなたは心を決めた。

    《続く》

  • 宮城県株式会社のケース(14)vol.125

    あなたは、【法人】に手のひらを差し出すよう促した

    miyagi
    宮城社両手

      個人   【法人】
    生命線 取引線(売上仕入線)
    知能線 製品線
    感情線 社員線
    太陽線 市場線
    財運線 キャッシュフロー線
    影響線(生命線) 影響線
    ⑥’ 影響線(運命線) 影響線
    向上線 士業線
     

    ③社員線が異常に強く、会社と社員、そして社員同士の連帯感がこの会社のカラーを作ってきたといっても過言ではない。

    あるいは会社というよりも“運命共同体”と呼ぶほうが、より実態を表しているかもしれない。
    大きな会社の傘下で守られながら、独自路線の追求に専念できれば、きっと今回のような買収騒ぎの舞台に躍り出ることも無く、その仲の良さで業界に大きく貢献できただろう。

    すでに起きてしまったことは仕方ないとはいえ、宮城社を守ろうとして買収した新社長は、従来この会社が持っていた生産性の高さに惚れ込んで、その長所を愛でた。

    (高付加価値をもたらす連携の良さを、主要業務に集中させれば、宮城県株式会社は圧倒的な業界リードの地位を手にすることができる)
    そんな狙いが新社長にはあり、だからこそ買い取ってまでこの会社を守ろうとしたのだった。

    深く愛してしまったがゆえの強化施策が仇になったことに気づかぬ社長のひとり相撲が、今日のこの状態(不倫多発)を招いているとは思うが、それをどうやって止めさせるのが良いだろうか。

    左手の生命線から出発して人差し指へ伸びるのは『⑦向上線』だが、【法人】にとってこれは士業などのプロフェッショナル事業者とのかかわりを示す。

    一般的には会計士や税理士や社労士などだが、そういう社内業務の延長にある事柄については、外部からの過干渉は宮城社には逆効果といえるだろう。

    むしろ、会社が持つ権利を法的に守ることや、海外や国内の先進事例調査、または新社長がやったような原料素材の海外レートの読みといった投機的視点の専門家をこそ、士業線の裏付けとして用いるべきだと思う。

    (見える部分のインフラに特化してしまったが、そうではない部分のインフラだけでよかったのだ)
    あなたはそう思った。

    問題は、社長の想いと【法人】の在り方が一致していないことだが、不倫の問題を片付けるために大規模な方向転換を急いでしまうと、社長の野心に宮城社の姿がそぐわないことが顕わになってしまう点だ。

    今、新社長が宮城社から手を引いてしまうと、元々この会社を買って売り抜ける目的だったハゲタカファンドが息を吹き返して、再び魔の手を伸ばして来ることだろう。 だから、新社長の庇護は引き続き必要なのだ。

    左手の⑤投資キャッシュフロー線がすさまじく勢いがあることから、新社長が思い切って実施した宮城社へのテコ入れ効果が高いことが読み取れる。

    《続く》

  • 宮城県株式会社のケース(26)vol.137

    優柔不断だと思っている自分にも、即断即決できる事柄がある
    そんな、「般化」の中の「例外」とも言うべき現象は、どういう条件で発動するのか

    決めつけの多い人間のほうが、意外性ある回答に行き着くことがある
    「例外」をたどるルートを、数多く持っているからだ