カテゴリー: 1:コンサルタントになりませんか?

  • めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(4)vol.031

    ひとりきりのアパートの室内は、相変わらず空気が澱んでいて、窓を開け放っていても、解消される気配さえ感じられない。

    だからあなたは、今日も外へ出ることにした。
    ブラブラと歩くうち、最寄り駅のそばに近いた。
    乗降客が多い駅なので、駅前はかなりの人通りがある。

    「手相の勉強をしているんですが……」
    改札口の前で、こう言いながら近づいてきた20代と思しき若い女性の顔を、あなたは少し呆気に取られたように、見守ってしまった。
    ときおり見かける『路上の手相鑑定』だが、声をかけられるのは女性だけだと思っていた。
    しかし、いま彼女が見上げている相手は、まぎれもなくあなただ。

    まさか自分がその当事者になるとは……。
    しかも、よりによって、あなたが手相鑑定を受けるなんて……。

    いつもなら当然、足を速めて相手を振り切るところだ。
    だが、あなたは足を止めた。

    ふと、「相談する側」の気持ちになってみたくなった。
    企業の担当者は、どんな気持ちで自社の問題を相談するのだろう、と。

    それを敏感に感じ取ったのだろう。
    彼女は、聞く姿勢を見せたあなたに話し始めた。

    「実習のためにいろいろな方に声をかけてご協力いただいているんですが、いま少しお時間よろしいでしょうか」
    周囲からの好奇の目に対する照れがある。
    あなたの返事はあいまいだったが、彼女は明るい声でありがとうございますと言いながら、あなたの手を取った。

    「とても繊細な方なんですね。でもすごくさっぱりしていて……」
    というところから始まった彼女の解説を、あなたは半分うわの空で聞いていた。

    実は一番関心のあった、“ これからどうなるか ” については、
    「努力家で、すごく個性的なので、自分が納得する形で、きっと切り拓けると思います」
    という、当たり障りのない、そして満足もない回答しか得られなかった。

    《続く》

  • めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(5)vol.032

    あなたに声をかけてきた路上の手相見の若い女性は、『鑑定の勉強中』だからまだ未熟だということなのか、それとも、彼女の鑑定の才能は今後もそのくらいの切れ味なのか、あなたにはわからないが、モヤモヤした感覚だけが残った。

    (無料だし、仕方あるまい)
    変なものを売りつけられたり、宗教の勧誘ではなかっただけ、良しとするしかない。

    (良しとするしかない)
    相手がアマチュアで、期待値が低いから、品質が高くなくても納得できる。

    だがもしそこにフィーが発生していたら……。
    プロに依頼した相手が、それに見合う成果を期待していたら、納得できない結果はシビアに評価される。

    手相見の若い女性と離れたあなたは、周囲からの視線を気にして、急ぎ足でその場を去った。
    不満はないが、満足もないという内容だったが、あなたは彼女を、それで許した。

    あなたに相談してくる企業の社員は、あなたを許してくれるだろうか。

    こちらが初仕事であることは、ハローワークからの説明で知っているはずだ。
    だが、たくさんの企業がハローワークを通じて相談依頼をしているのなら、せっかく巡ってきた自社の順番がお試しの場になることを、きっと承知しないだろう。

    つまり、あなたがビギナーでも、相応の成果を求めてくると考えて間違いなさそうだ。
    『お試しの場』なんていう、あなたの側から見た言い訳は通用しないはずだ。

    《続く》

  • めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(6)vol.033

    必要なのは、“ コンサルタントとしての面目躍如 ”
    それを果たせなければ、相手はあなたを許さないと思うのが妥当だ。

    相手は面談時間と労力に加え、あなたにかけた期待までをも、無意識に『コスト』として認識するだろう。
    時間や労力はともかく、かけた期待は相手自身にも数値的な測定手段がないため、気分によって相当に左右される。

    それが表面に出るときには、露骨でシビアな『評価』という形をとる危険性が高い。
    見えない期待を上回るリターンを提供しなければ、積極的なリピートはないと考えてよさそうだ。

    もちろん、コンサルタントは占い師ではないから、
    「10年後にこんな感じになります」とか
    「来年の春頃に、良いパートナーに巡り合えそうです」
    なんていう、ゆるい回答は受け付けてもらえない。

    多くは「90日後」とか、「半年のうちに」といった期限の中で、「○○%の売上アップ」や「××円の価格改善」、または「△円程度の株価へのインパクト」なんていう限定数値への説明責任も伴うだろう。

    だから、たとえあなたが短時間で面談を終了させ、『対面時間』という点で割高感を防いだとしても、相談そのものへの解釈投与レベルが低かったら、あなたの面談は期待値をはるかに下回り、面談の手際の良さが、かえってマイナスポイントになってしまう。

    「もうちょっと、しっかりと時間をかけて判断してもらいたい」
    といった具合に、ハローワークに報告されるに違いない。

    改札口前を離れると、あなたはスピードを落とし、ブラブラと歩いた。
    乗降客の多い駅前は、閑散とすることがない。ぼんやりと周囲の風景を眺めていても、なかなか飽きが来ない。
    空腹のせいだが、あなたの目は飲食店にばかり吸い寄せられた。

    インド料理店の前を通るときに、あなたの脳裏には、カレー3種とタンドリーチキンを卓に並べ、熱々のナンをちぎる自分の姿がやたらと鮮明に描かれた。
    ナンは、チーズナンだ。
    ちぎっている指先が火傷しそうに熱いが、細い糸のように伸びるチーズが自然に切れるまで、熱さをこらえながらゆっくりと持ち上げていく光景がありありと浮かぶ。

    いつの日か、そんなことが好きなだけできる身分(収入)を得たいものだ。

    (次カテゴリー『相談相手・第一印象の決め方』へ続く)

  • 【法人】現る!(1)vol.034

    地下4階。
    面談の現場は、非日常な場所だった。
    そんなに低い階層へ足を踏み入れるのは、霞が関勤務の頃以来かもしれない。
    ハローワークの中にも、そこへ行きつけるエレベーターは1基しかない。

    カードキーでロックを通過し、エレベーターの前に立った。
    キーは数日前、あなたの自宅に書留で届いた。
    ハローワークでも限られた職員しか持っていないため、当日忘れてこないよう注意されている。

    大げさな道具立てだ。
    これも「守秘義務」のためか。
    しかし、たかがコンサルにここまでの大仕掛けが必要だろうか。
    役所は特別だからと、役人が片意地を張っているのか。
    そうだとしても、さすがにこれは度が過ぎていると思う。

    ただ、労働基準局が相談を受け付ける部屋は、入室するために扉を二つ抜けるそうだから、同じようなシチュエーションを検討した結果、こんな特別室が準備されたのかもしれない。

    そうでないとしたら、それこそあなたが恐れているように、暴力の現場を隠ぺいする舞台装置の可能性も否定できない。

    エレベーターの扉が開いても、あなたは外へ出ず、周囲の気配に耳を澄ませた。

    《続く》

  • 【法人】現る!(2)vol.035

    薄暗い廊下には人の気配がない。
    『開く』ボタンを押したまま、そっと首だけを外に出し、左右を見渡す。

    右奥はすぐに行き止まりだ。
    左側の奥は長く続いているようだが、照明が無く、先まで見通すことができない。

    あなたの行く先は、エレベーターを降りて左斜め向かいの、細い通路の奥だ。
    その通路は廊下から90度に曲がっているので、ここからだと完全に死角になる。

    エレベーターを出て通路の前まで数歩進み、7~8メートル先の突き当りを見ると、薄暗くて柄は判別できないが、扉ではなくカーテンが垂れ下がっている。

    (ここまで来たら、扉で遮断する必要はないということか)
    ふと気づくと、通路の途中に非常階段に抜ける鉄扉がある。

    あなたは少し安堵した。
    いざという時、あなたが大声を出せば、上の階層にいる人の耳に届きそうだ。

    もっとも、地下3階に人が常駐していれば、の話だが……。
    何より、あなた自身がそこから逃げ出すこともできるだろう。

    背後で、エレベーターの扉が閉まる音が静かに響く。
    その音がやむと、地下4階フロアには完全な静寂が訪れた。

    《続く》

  • 【法人】現る!(3)vol.036

    ゾクゾクして、尿意を催す。
    そういえば、このフロアにトイレはあるのだろうか。
    それはあとで確認するとして、まずあなたは非常階段口の鉄扉に近寄り、ドアノブに手をかけてゆっくりと回してみた。

    (よし、動くぞ)

    そっと押してみると、さび付いた蝶番が大げさな音を立てた。
    あなたはぎょっとして周囲の気配をうかがってみるが、誰かが音を聞きつけたような気配の変化はない。

    まだ約束の20分前。相談者は来ていないらしい。
    エレベーターの扉は閉じたまま。
    ドアノブを握ったまま廊下のほうへグイッと体を伸ばし、エレベーター上の回数表示板を確認してみたが「B4(地下4階)」から動いていない。

    体勢を戻してもう一度非常口に視線を戻し、握ったままのノブをさらに押してみると、扉がギイッと音を立てながら開く。

    ゆっくり外へ足を踏み出し、慌てて止めた。
    さっきからずっと目の前に見えていたプレートの文字の意味が、ようやくあなたの意識に飛び込んできた。

    “この扉は反対側からは開きません。”
    一度出てしまうと、反対側から扉が開く階のエレベーターから下ってこないとここへは戻れないということだ。ひょっとすると、上の地下3階も開かないかもしれない。

    たしかにこの地下4階は、災害などの非常時に、避難場所としては使われないだろう。
    非常口が外への一方通行になっていても避難の妨げにはなるまい。

    そして、これから起こるかもしれない、あなたにとっての非常時にも、一方通行は何の妨げにもならない。
    むしろ、あなたが相手(達)より先にフロアを出て階段側に身を移せば、扉は相手から身を守る『盾』にもなりうる。
    とりあえず、身を守るプランが立った。

    (早めに来てよかった)
    あなたは非常口の扉を閉めて通路の奥へと進み、薄いカーテンをはぐって中に入った。

    《続く》