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  • 皮肉な「書類選考通過」!二股の誘惑?(5)vol.019

    かつてない大波に、あなたの心は躍動した。
    すぐに帰って、▲▲社向けに作った応募書類を読み直し、面接でのアピールポイントを整理しておかなくてはならない。
    飛び上がるようにストゥールから立ち上がり、カップに残ったコーヒーはそのままにトレイを片付けた。

    「ありがとうございます」
    店員の声を背中で受けながら、小さな会釈をして喫茶店を飛び出した。

    アパートに帰ると、早速パソコンの電源スイッチをオンした。
    買ってから6年目を迎え、いい加減くたびれたマシンだ。

    なかなか立ち上がらない画面にイラつきながら、あなたは手帳を開き、さっきメモしたアドバイザーからのメッセージを見返していた。
    面接の想定問答をイメージして紙に書こうと思ったが、適当な用紙がない。

    あなたはバッグから、昨日ハローワークで出力した求人票を引っ張り出した。
    今日応募しようとして、結局できなかった3社分のものだ。

    頭に浮かんだフレーズが消えないうちにと、求人票の余白に書き込もうとしたとき、ハローワークの担当官が口にした言葉がよみがえった。

    『徹底した守秘義務に基づいて、多くの【法人】にお会いいただくことになるので、就職活動で企業と接触することは禁じられます』

    あなたの手は止まった。

    《続く》

  • 皮肉な「書類選考通過」!二股の誘惑?(6)vol.020

    思わず頭を抱える。
    これは、契約条項に抵触するだろう。

    契約書で該当する箇所を探すと、やはり、契約期間中の企業との関わりを禁じる旨が記載されている。
    今さらながら、『他企業との接触を契約で禁じる』とは、苦しい就職活動にあえぐあなたにとって、なんと厳しい条件だろう。

    だが今はまだ契約前だ。
    面接が決まった▲▲社の件の結果が出るまで、締結日を待ってくれないだろうか。

    あなたは、ハローワークへ連絡を取ろうと急いで体を起こし、携帯電話に手を伸ばした。
    呼び出しのコールを聞きながら、今後のことを考えた。

    月曜に行われる▲▲社の面接は1次だ。
    だから、その後、役員か社長に会うために、少なくともあと1回は別の日取りで面接がセットされるはず。

    もし内定がもらえるとしても、最短で2~3週間後にはなるだろう。

    一方、ハローワーク担当官は、現在受付を待っている法人がいるから、契約締結後2週間以内には依頼の連絡をすると言っていた。

    そんな状況で、こちらの都合で契約を遅らせてくれとは言いづらいが、就活に関しては融通をきかせてくれるのではないか。なにせ、ハローワークなのだから。

    数回のコールの後、電話がつながった。
    勢い込んで話そうとしたあなたの勢いが止まった。

    業務時間外のアナウンスだ。時刻は18時半。
    明日の土曜はちょうど閉庁日で、ハローワークが開いていない。

    事情は月曜の朝に話すしかない。

    《続く》

  • 皮肉な「書類選考通過」!二股の誘惑?(7)vol.021

    ハローワークとの契約は、不定期/不自由/収入額不明瞭。
    この3要素が、前向きな気持ちでの締結をためらわせる理由だ。

    しかし、継続契約の可能性があり、少ないが確かな収入が見込まれる話に対し、▲▲社の話は当然不採用に終わることもあり得る。

    だが、▲▲社の人事担当者は、官庁経験の中でもあなたが秘かな自信と誇りを感じている「出先機関の事務責任者の経歴」にフォーカスし、高く評価してくれているらしい。
    こんなことは初めてだ。

    (今度こそ、うまくいくのではないか?)
    正解のない堂々巡りを繰り返す中で、こんな考えも浮かぶ。

    (▲▲社は、しごとセンターの案件だ)
    ハローワークへは、このことを隠しておいて、まずは面接を受けてしまうことが可能だ。
    可能性はできるだけ確保しておくという考え方だってあるだろう。
    生活がかかっているのだから。

    (いや、しかし・・)
    徹底した守秘義務のもとで委託業務に従事する契約者の行動は、ハローワークで徹底的に調べられるかもしれない。

    (やはり、契約日の先送りを打診しよう)
    たったふたつの話を受けただけで、こうも振り回される我が身が不甲斐ない。
    が、あなたとしては、そのほうがすっきりして面接に臨める。
    普通の求人とは違うのだ。仕方がない。

    とはいえ、せっかくのチャンスを、正体不明のオファーと天秤にかけることが、あなたの人生にとって、正しいことなのだろうか?
    結局、伸びやかな金曜日は、あなたには訪れなかった。

    《続く》

  • 皮肉な「書類選考通過」!二股の誘惑?(8)vol.022

    『起業支援の【法人】受付部門』
    これについて調べようと思いついたのは、土曜日の朝だった。

    昨日あなたと会ったあの若い女性担当官は、自分はそこの担当者だと名乗った。
    しかし、ハローワークのホームページをいくら探しても、そんな部門はない。
    起業支援活動のページから探しても、それらしき情報は見当たらない。

    「生活のための就業の機会を、ハローワークの都合で制限してしまうからには、それなりの収入条件は提示させていただきます」
    彼女はたしかにそう言った。

    具体的には、どういうことなのだろうか?

    契約書には「最低限度額として、本契約の締結日から起算して、【法人】への対応後、評価測定協議の最終日までの日数(勤務を要しない日を含む)に、直前に受給した失業給付の日額相当を乗じた金額を支給する」 と書いてある。

    読み取りづらい条文だが、元公務員のあなたにとってはありふれた文章だ。
    難易度としてはむしろ序の口レベルだ。

    担当官によれば、2週間以内に相談を受けるそうだから、仮に14日間とすれば、その間に8万円前後の収入が期待できる。
    その間、就職活動をしてはならないという点が、通常の失業給付と正反対な特徴だ。

    しかし、「それなりの収入条件」と担当官は言ったが、これではまともな暮らしができそうにない。

    何よりもまず、普通の勤め人だった頃に借りたこのアパートの家賃負担は大きすぎる。しょぼい部屋でさほど高くない部屋代だが、ハローワークが提示している低賃金ではそれすらも払うことがままならないだろう。

    とはいっても、敷金・礼金・仲介手数料・火災保険料・引っ越し費用などを捻出できない。
    ハローワークの役人は、きっとこの事情を理解してくれないだろう。

    《続く》

  • 皮肉な「書類選考通過」!二股の誘惑?(9)vol.023

    あるいは、契約書の【最低限度額】という文言に、救われる要素を見いだせるのではないか。
    何らかの条件を満たすことで、収入アップが可能なのかもしれない。

    さらに契約書の但し書きを見ると、「別途報酬等が支払われる場合において、その金額が最低限度額を上回る場合、最低限度額の計算による支給は行われないものとする」とある。

    最低限度額とはあくまでも補償されるものだ。
    たとえば14日間の契約期間中に、なんらかの形で6万円の報酬を、企業またはハローワークから受け取ったとする。

    その場合、あなたは2万円の補償を受けて所定の8万円を手にすることができる仕組みが【最低限度額】だ。

    だから、受けた報酬が10万円だった場合は、最低限度額の補償は発動しない。
    このときの契約期間の収入は、10万円になる。

    「別途報酬等」の正体は不明だが、まずは暮らせるだけの収入を得る方法を探そう。
    そして、今後生きていくために、何とか契約が継続できれば……

    そう考えている最中、ふと我に返る。

    (なぜハローワークの話を受ける前提で考えているのか?)
    あなたには▲▲社の話も来ているのだから、こちらの可能性もあるのだ。

    もし、▲▲社へ入社できれば、今の生活をするには月々の給与で十分なうえ、貯蓄だってできる。
    あなたは改めて、月曜日の面接対策にいそしむことにした。

    《続く》

  • 皮肉な「書類選考通過」!二股の誘惑?(10)vol.024

    月曜の朝、8時前に、あなたはすべての準備を終えた。
    8時半にハローワークに連絡を入れて、そのあとすぐに▲▲社へ向かう。
    携帯からかけて音が途切れたりすると厄介だから、自宅の固定電話からかけるつもりだった。

    しかし、契約締結の延期を要望するとして、一体どのくらい延ばしてもらえばよいだろうか。
    当然、先方もそれを訊いてくるはずだ。

    欲を言えば、▲▲社が不採用と判明するまで待ってほしい。
    ただ、さんざん日延べしたあげく、もしも内定が出たら、ハローワークへは顔向けができない。

    さらに欲を言えば、まず今回の1次面接の結果が出るまで契約の締結は待ってもらい、次の面接に進めれば、さらに待ってもらいたい。

    そうやって、もし3次くらいまで面接が実施された結果、内定になったら、その時点で断らせてもらいたい、が……
    ……さすがに、そんな虫のいい話、自分なら認めないと思う。

    あなたは、ひたすらにハローワークの開始時間を待った。

    《続く》