カテゴリー:  顧客2段階の法則「新規獲得とリピート獲得」

  • めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(1)vol.028

    総合窓口で、担当官を訪ねてきた旨を告げると、すぐに案内された。3日前とは違い、今度案内されたのは応接室だ。

    あなたは自分の服装を見下ろし、少したじろいだ。そういえば今日は、改まった契約締結の場だ。
    今度はきっと、彼女の上司も同席しているだろう。もう少しまともな格好で来るべきだったかもしれない。

    動揺するあなたの内心など知る由もなく、案内の係員はドアをノックして開け、あなたに入室を促した。

    遠慮で少し伏し目がちに足を踏み入れ、そっと顔を上げると、担当官が立ち上がってあなたを迎えている。
    今日は中間色のパンツスーツだ。
    前回はテーブルに隠れて全身は見えなかったが、思っていた以上にほっそりしたスタイルだ。
    豊かな黒髪が、スーツの色とのコントラストで、衣装以上に引き立って見える。

    彼女はかすかな笑みと共に、あなたに着席を促した。
    他には誰もいない。今日も一人なのか。
    それも気にはなったが、まずはさっきの電話の件だ。担当官の方から口にしてきた。

    「いかがされましたか。面接のほうは」
    あなたが断ったことを告げると、担当官はそのことに感謝し、改めてあなたの意思を確認した。

    あなたの答えは、言うまでもない。もはや、まな板の鯉だ。
    8万円の収入の為に、チャンスをフイにしたのだから。

    《続く》

  • めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(2)vol.029

    担当官は早速、契約内容の詳細説明を始めた。

    「守秘義務に則り、面談室で交わされたいかなるやりとりも、決して他言することはできません」

    この話は前回の対面時に聞いているが、よく聞くとあなたの認識とは違っていた。

    「もちろん、私どもハローワークの職員にも、面談内容を話すことができません」

    つまり、面談時に何を言われ、何をされたとしても、それを訴えることは禁じられるということだ。

    ハローワークと接触する多数の企業の中には、人格的に壊れているような輩だっているかもしれない。

    依頼人の立場をいいことに、『評価を下げるぞ』などと脅され、暴力を振るわれたとしても、そのことを誰にも言えないということだ。

    あなたは気になって、これまでこの仕事を担当していた前任者が、なぜ辞めたのかを担当官に訊ねてみた。

    「残念ですが、それはお伝えすることができません」
    どうにも怪しい。
    この契約の為にフイにしてしまった▲▲社のことが、あなたの頭いっぱいに広がった。

    (やはり、あちらを選ぶべきだった……)
    悔やんでももう遅い。やはり、こちらが悪魔のささやきだったに違いない。
    天使はあのとき、あなたの頭の上で▲▲社を指さしながら、「こっちだよ」とあなたを必死に導いてくれていたと思う。

    (悪魔のささやきなら、せめて愛想ぐらいよくしたらどうだ)
    あなたがそう考えていると、愛想はともかく、担当官が説明を補足した。

    「もし、面談室で人道に反するような行為が行われ、受託者(あなた)に著しい各種の損害が生じた場合は、当然裁判になると思います。そのとき裁判所の命令があれば、面談室内の事柄は開示しなければなりません」
    それはそうだろう。

    「でも、現在までそういった争議は1件も起きていません。これまでに、この業務委託を請けて頂いた方は、契約締結時に必ずそこを確認されますが、結局それは全て、締結時だけの心配となっているのが事実です」
    信用してよいものだろうか。いくら役所だからといって。

    (署名捺印さえしなければ、こんなものに振り回されたりはしない)
    だが、頭の中では砂時計がサラサラと落ちていく。
    残り少ない上部の砂は、あなたの生活資金だ。

    時は金なり。世の中は金がすべて。
    そう、今のあなたには、選択の権利はあっても、選択の余地がない。

    《続く》

  • めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(3)vol.030

    担当官からの電話を受けたのは3日後、木曜日の朝だった。
    面談は来週火曜日の午後2時。
    総合受付には立ち寄らず、定刻10分前に面談室へ入り、相手を待つようにと言われた。

    なお、担当官は同行せず、案内もないという。

    いよいよ怪しい。
    外部との連絡を徹底的に排除し、当事者同士以外の接触を完全にシャットアウトする。

    本当に、そこまでしなければならないことなのか。
    相手の社名も、担当者の名前も謎のままだ。

    あなたは、今朝からまだ起動していないパソコンに、チラリと目をやった。
    月曜日から3日間、就活は停止している。
    応募書類を作らず、転職サイトのチェックもしていない。
    こんなことは、本当に久しぶりだ。

    ハローワークへも行かず、時間に余裕ができたのに、恒常的な焦りを感じて落ち着かない。
    強迫観念に駆り立てられて就職活動の日々を送っていたが、いつしかその「強迫観念」こそがあなたの支えになっていたことに気づく。

    つっかえを失った恐怖感ばかりが募り、せっかく得られた時間的余裕が目に入っていない。

    (正社員時代、休日の朝は何をしていたか)
    もはや、あいまいな記憶だ。
    溜まった洗濯物を、洗濯機の2回まわしで片づけ、散らかった机の上を片づけ、ぼんやりとショッピングモールを閲覧し……。
    たしか、そんなパッとしない1日のスタートから、平坦な時間を過ごしていたような気がする。
    平日の5日間、猛烈に効率を追求してきた分を埋め合わせるように、週末に無為な時間を垂れ流してこられた時代は、なんと、もったいなくも平和な生き方だっただろうか。

    そして今、急に時間ができても、何をしてよいかわからない。
    時間を埋める指向性がなくなっているのだ。

    近所のカフェ店で食欲をごまかしつつ、安いコーヒーを飲んで時間をつぶすこともできるが、平日の昼間にしょっちゅう通うのは、どうにも世間体が悪い。

    無職である自分を、自分自身が恥じているために、人の目が怖いのだ。
    まるで、労働力を提供する代わりに社会での存在を許されているかのように。

    このことは、公務員を退職し、初めて職を失って取り乱したときに初めて気づいた。
    あなたが感じる強迫観念は、実は自分の無力感に気づいてしまったときの発作かもしれない。

    自分で自分を認めていないからこそ、あなたのことを心から認め、応援してくれる真の友人、傍らにいてくれる真の恋人、そして天職にも巡り合えない。

    本当は、自分に起きた事象を焦って解消しようなどと考えず、素直に受け入れて時の流れに身を任せることが、あなたにとっての課題なのだ。

    それに本腰を入れ始めた時こそ、見えなかった目の前の扉が開き、あなたの本当の人生がスタートする。

    本当の苦難、本当の喜びに出会える、あなたが居るべき世界だ。
    そこには、本当に分かり合える友人や、心から愛し合える恋人や、生涯かけて取り組める天職が待っているはずなのだ。

    今の状態こそ、そこに気づける好機なのだが、そうもいかないまま日を送り、日曜日を迎えた。
    週が明ければ約束の火曜はすぐそこだ。

    《続く》

  • めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(4)vol.031

    ひとりきりのアパートの室内は、相変わらず空気が澱んでいて、窓を開け放っていても、解消される気配さえ感じられない。

    だからあなたは、今日も外へ出ることにした。
    ブラブラと歩くうち、最寄り駅のそばに近いた。
    乗降客が多い駅なので、駅前はかなりの人通りがある。

    「手相の勉強をしているんですが……」
    改札口の前で、こう言いながら近づいてきた20代と思しき若い女性の顔を、あなたは少し呆気に取られたように、見守ってしまった。
    ときおり見かける『路上の手相鑑定』だが、声をかけられるのは女性だけだと思っていた。
    しかし、いま彼女が見上げている相手は、まぎれもなくあなただ。

    まさか自分がその当事者になるとは……。
    しかも、よりによって、あなたが手相鑑定を受けるなんて……。

    いつもなら当然、足を速めて相手を振り切るところだ。
    だが、あなたは足を止めた。

    ふと、「相談する側」の気持ちになってみたくなった。
    企業の担当者は、どんな気持ちで自社の問題を相談するのだろう、と。

    それを敏感に感じ取ったのだろう。
    彼女は、聞く姿勢を見せたあなたに話し始めた。

    「実習のためにいろいろな方に声をかけてご協力いただいているんですが、いま少しお時間よろしいでしょうか」
    周囲からの好奇の目に対する照れがある。
    あなたの返事はあいまいだったが、彼女は明るい声でありがとうございますと言いながら、あなたの手を取った。

    「とても繊細な方なんですね。でもすごくさっぱりしていて……」
    というところから始まった彼女の解説を、あなたは半分うわの空で聞いていた。

    実は一番関心のあった、“ これからどうなるか ” については、
    「努力家で、すごく個性的なので、自分が納得する形で、きっと切り拓けると思います」
    という、当たり障りのない、そして満足もない回答しか得られなかった。

    《続く》

  • めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(5)vol.032

    あなたに声をかけてきた路上の手相見の若い女性は、『鑑定の勉強中』だからまだ未熟だということなのか、それとも、彼女の鑑定の才能は今後もそのくらいの切れ味なのか、あなたにはわからないが、モヤモヤした感覚だけが残った。

    (無料だし、仕方あるまい)
    変なものを売りつけられたり、宗教の勧誘ではなかっただけ、良しとするしかない。

    (良しとするしかない)
    相手がアマチュアで、期待値が低いから、品質が高くなくても納得できる。

    だがもしそこにフィーが発生していたら……。
    プロに依頼した相手が、それに見合う成果を期待していたら、納得できない結果はシビアに評価される。

    手相見の若い女性と離れたあなたは、周囲からの視線を気にして、急ぎ足でその場を去った。
    不満はないが、満足もないという内容だったが、あなたは彼女を、それで許した。

    あなたに相談してくる企業の社員は、あなたを許してくれるだろうか。

    こちらが初仕事であることは、ハローワークからの説明で知っているはずだ。
    だが、たくさんの企業がハローワークを通じて相談依頼をしているのなら、せっかく巡ってきた自社の順番がお試しの場になることを、きっと承知しないだろう。

    つまり、あなたがビギナーでも、相応の成果を求めてくると考えて間違いなさそうだ。
    『お試しの場』なんていう、あなたの側から見た言い訳は通用しないはずだ。

    《続く》

  • めざせ! 相談業でのリピート顧客獲得(6)vol.033

    必要なのは、“ コンサルタントとしての面目躍如 ”
    それを果たせなければ、相手はあなたを許さないと思うのが妥当だ。

    相手は面談時間と労力に加え、あなたにかけた期待までをも、無意識に『コスト』として認識するだろう。
    時間や労力はともかく、かけた期待は相手自身にも数値的な測定手段がないため、気分によって相当に左右される。

    それが表面に出るときには、露骨でシビアな『評価』という形をとる危険性が高い。
    見えない期待を上回るリターンを提供しなければ、積極的なリピートはないと考えてよさそうだ。

    もちろん、コンサルタントは占い師ではないから、
    「10年後にこんな感じになります」とか
    「来年の春頃に、良いパートナーに巡り合えそうです」
    なんていう、ゆるい回答は受け付けてもらえない。

    多くは「90日後」とか、「半年のうちに」といった期限の中で、「○○%の売上アップ」や「××円の価格改善」、または「△円程度の株価へのインパクト」なんていう限定数値への説明責任も伴うだろう。

    だから、たとえあなたが短時間で面談を終了させ、『対面時間』という点で割高感を防いだとしても、相談そのものへの解釈投与レベルが低かったら、あなたの面談は期待値をはるかに下回り、面談の手際の良さが、かえってマイナスポイントになってしまう。

    「もうちょっと、しっかりと時間をかけて判断してもらいたい」
    といった具合に、ハローワークに報告されるに違いない。

    改札口前を離れると、あなたはスピードを落とし、ブラブラと歩いた。
    乗降客の多い駅前は、閑散とすることがない。ぼんやりと周囲の風景を眺めていても、なかなか飽きが来ない。
    空腹のせいだが、あなたの目は飲食店にばかり吸い寄せられた。

    インド料理店の前を通るときに、あなたの脳裏には、カレー3種とタンドリーチキンを卓に並べ、熱々のナンをちぎる自分の姿がやたらと鮮明に描かれた。
    ナンは、チーズナンだ。
    ちぎっている指先が火傷しそうに熱いが、細い糸のように伸びるチーズが自然に切れるまで、熱さをこらえながらゆっくりと持ち上げていく光景がありありと浮かぶ。

    いつの日か、そんなことが好きなだけできる身分(収入)を得たいものだ。

    (次カテゴリー『相談相手・第一印象の決め方』へ続く)