カテゴリー: 6:【法人】における不倫問題(宮城)

  • 宮城県株式会社のケース(17)vol.128

    逆に、なぜ今までは不倫が起きなかったのか?

    いや、起きないのは当然だ。それが当たり前じゃないか。とも言える。
    しかし、起きてしまった今は、起きなかった過去の姿が何か特別なものに思える。

    ある時期から社長は、買収前の社長のことに関心を持ち、社歴を調べていることが多くなったと【法人】は言う。

    あなたはこの宮城社という【法人】の手のひらから、この問題の解決法として、かつての社長の存在に行き着いたが、どうやら現社長も同じ方向への意識が芽生えているらしい。

    現社長は、宮城社を買い取った時の社長だった創業一族の2代目から代表権を取り上げて相談役のポジションを与えたが、事実上、会社とは無関係の存在へ追いやった。
    そして、経営については自身が連れてきた人物に社長のポジションを継がせ、自分はオーナーの立場をとった。

    しかし、任命した社長の手腕に不満を感じて早々に解任し、自ら経営に乗り出して現在を迎えているわけだが、【法人】はその現状に不満を感じている。

    あなたはその、現社長が買収時に退陣させたという創業一族の2代目社長を、もう一度呼び戻すことを考えている。

    この【法人】の存在に最も適しているのは、その2代目社長だということが、あなたが【法人】の話から導き出した結論だ。

    宮城社では、とにかく社員たちの存在感が強い。
    おそらく、ひとり一人の気持ちが会社の存在と溶け合っているのだろう。

    なぜだろうか?

    あなたが社員たちの手相を見るわけにはいかないので推測するしかないが、おそらく宮城社に採用されるのは、感情豊かな人材が多かったのではないか。
    社風に合うのは、圧倒的にこのタイプだからだ。

    ということは、宮城社に集うのは主に、自分の想いを重ねられる職場を求める人材で、それには整いすぎた会社よりも、フランクな社風のほうが適している。

    だが、そもそも「会社」という漠然とした存在に、それほどの求心力があるだろうか。

    おそらく、そんな社員たちをしっかりと受け止めるトップの存在こそが、宮城県株式会社の最大の肝だったのではないか。
    あなたはそう考えている。

    《続く》

  • 宮城県株式会社のケース(終)vol.129

    買収前の創業2代目社長は、父である初代社長ほどのカリスマ性が無いことをごく当たり前に受け入れていた。無理に張り合って社員たちに自分を大きく見せるよりも、マイペースでありのままに周囲と向き合うタイプだった。

    跡取りだった彼が他社に武者修行に出され、帰り新参の幹部として戻るまで、結構な歳月を経た。

    その間は部外者であったわけだが、宮城社の社員たちとは絶え間なく連絡を取っていた。
    同じ想いを抱きつつも境遇を別たれた志士同士として、悩みや愚痴には休日も関係なく相談にのった。

    互いに分かり合いながらも離ればなれになり、違った場所に居ながらも喜びや痛みを共有する結びつきは、やがて帰参したときには、普通の役員と従業員の結束とは違った形に変貌を遂げていた。

    それはまさに、宮城社が持つ社員の存在力、宮城社の個性そのものだった。

    といって、別に2代目と社員たちの関係は、恋愛感情などというものとは違う。
    部下から見ると、仰ぎ見つつも、つい肩を叩いて言いたいことが自由に言えそうな上司であり、言葉にはせずとも互いに認め合っている実感がビンビン得られる。

    感情面で張り合いのある上司は、感情量の多い社員たちにとって、初代とは違った意味の強いカリスマ性を持っていた。
    後をついて歩きたくなる創業社長に対し、肩を並べて歩きたくなる2代目だったのだ。

    宮城社を悪用しようとする輩さえいなければ、現社長の助けも要らず、社員と会社の理想的な関係が続き、【法人】はあなたの前に現われることがなかっただろう。

    しかし、平和な日常は破られてしまった。
    悪の標的になり、ホワイトナイトの出現によって救われたことで。

    2代目にすべての責任があったとは言えない。
    それでも、自身では会社と社員を守りきれず、他人(現社長)の力を借りたことは事実である。
    彼は社長の座を降りることを決めた。

    去るにあたっては、スーパーエリートの現社長や側近たちと良い関係を作り、残った社員たちの労働条件をできるだけ良いものにしようとした。

    乗り込んできたエリートたち相手の立ち回りで、柄にもなく賢いふりをしなければならなかった2代目の苦悩は、あなたとのやり取りで【法人】が見せた、とっつきの悪い印象に表れていたが、それは2代目の責任感や人の好さの傍証とみて間違いないだろう。

    「責任を取って」退いた社長
    強い感情を受け容れる器が、社員ひとり一人の強い所属欲求を満たし、その強烈な想いに秩序と倫理を持たせることに成功していた。

    創業から2代にわたる、社長と社員の間をつなぐ絆が、【法人】の性格になっている。
    普段着にサンダル履きで過ごしてきた庶民感覚の持ち主に、フォーマルなタキシードは窮屈なのだ。

    宮城社を救ってくれた現社長だが、会長に退いて社長を復帰させることが、従業員に安心感を与え、元の状態に復する引き金になる。

    外部の士業のプロたちに任せる仕事も、お仕着せのものにするのではなく、復帰した社長と社員たちの裁量に任せるのがよい。

    宮城社のコア業務のスキルを手中に収める現社長の野望は、一旦社内が正常化するまで中断だ。
    歯止めの効かない不倫が、2代目の復帰により終息するさまを見れば、短期間での極端な改革は見直すだろう。

    元々この現社長は、長期視点で資産運用をする投資家。それも投資のプロなのだから……。

    これが、今回あなたが出した結論だ。

    これ以上、言うべき言葉が見つからなかった。
    それだけを伝えると、あなたは席を立った。

    ありがとう、と、背後で聞こえた気がしたが、そんな気がしただけだったかもしれない。