カテゴリー: 6:【法人】における不倫問題(宮城)

  • 宮城県株式会社のケース(9)vol.120

    (社員から得た、純然たる社業のノウハウを再投資するのか?)

    社業を切り回すノウハウを得、士業的専門性を金銭調達してノウハウに肉付けし、適当なタイミングで会社事業を市場に投下してシェアを獲れればその利回りは大きい。

    ベンチャーキャピタル(VC)が行うスタイルに近い。

    違うのは、VCは上場させた後の株式売り抜きによるキャピタルゲインの利回りを狙うため「社業を切り回すノウハウ」はVCが用意した「上場審査をパスするためのノウハウ」だということだ。

    だが、宮城社の社長の狙いがあなたの考え通りなら、まだニーズも市場も顕在化していない世間に対し、手製のチーム体制を投下し、新たな市場を築き上げることも十分に可能だ。

    上手く当たればその利益は圧倒的なものになるだろう。

    社長は短期的な視点でのキャピタルゲインを狙っていない。

    自分が企画し、颯爽と登場させた会社の株を売り抜いて資金を手にし、代わりに会社を手放すような策を弄するようなことはしないはずだ。

    むしろ市場を誕生させられる潜在力を、積極的に使い回す投資効率を重視するだろう。
    ゆえに、会社単位にまで育て上げたチーム力は決して手放さず、増設や再編成を目指すに違いない。

    では、そうやって高めた産業界への影響力をもって、何を目論むのか?

    上場後も長く存続し、成長を続けてくれる会社を次々に誕生させ、多様性に富んだ豊かな経済性をこの国にもたらしたい、とか……。

    《続く》

  • 宮城県株式会社のケース(10)vol.121

    (そういうことか?)
    先走って出した結論を、あえてそのままぶつけてみた。

    普段はあまりそういうことはしないが、この宮城社のように、相手の反応に無頓着で一本調子なタイプにはこの「一本調子返し」が効く場合がある。

    「……そういう発言はしていないようですが」
    先ほどまでの流暢な調子は影をひそめ、【法人】は少したじろいだような気がする。

    社長自身はそこまで考えているかもしれないが、周囲のスタッフに話してはいないようだ。

    ついでに、“あなたのトコの社長は当然そう思っているはずなのに、【法人】たるあなたはそれを知らないのかぁ。フーン”という皮肉な空気感に弱そうな様子が、目の前の男からはうかがい知れたことが興味深い。

    (にわかエリートみたいで、からかうと面白いかもしれないが、それは後々必要なときの切り札にするとして…)
    あなたは気を取り直した。

  • 宮城県株式会社のケース(11)vol.122

    (ということは……)
    現在社内に蔓延している不倫の問題にも、社長の性格や意思が関与している可能性が高い。

    よく、「社員はその会社を映す鏡」と言われる。

    ここでいう“会社”は、社長そのものを指す場合もあるだろうし、社員たちの仕事ぶりの傾向が世間に印象された姿のことを指す場合もある。

    だがいずれにせよ社員にとっては、自分の暮らしのために毎日通って一日の活動を行う重要な『場』であり、そこに醸成されている空気にさらされているうちに、その影響を受けて変化を生じることに変わりはあるまい。

    (そうか)
    いつごろから不倫が盛んになったのかが特定できれば、その時期は会社に何らかのストレスがかかり、社員たちの心理に重大な影響を及ぼしたという結論を導きやすい。

     

    しかし、何をもって『不倫が開始された』とみるかが極めてあいまいで、【法人】から答えを引き出すための適切な質問が作りづらい。

    本人たちだって、毎日のように接している相手にいつから惹かれ、いつ想いを届け、また相手のそれを受け入れたかなんて、計測しているわけではないだろう。

    だからおそらくあなたが不倫中の社員たちの手相を見たとしても、半分以上は手のひらにそれらしき印は表れていなさそうな気がする。

    現在恋愛中であることは読み取れても、今のあなたが求めるような情報ではないはずだ。

    つまり「ストレスに対する心理的防衛として、異性との新たな関係に比重を置く形を採択した。ではそれは何年何月のことであるか?」などという記録であろうはずはない。

    息苦しさから逃れるために社内(だけではないが)恋愛に走ったとしても、当人たちの意識には『社内に醸成された空気感の息苦しさから逃れるために』という文脈があることなんてほぼ無いだろう。

     

    “残業続きで食生活がすさんでいた時に、手作りのサンドイッチを作って来てくれた彼女が、唯一の癒しだった”

    “ギスギスして皆がいがみ合っている課内で、ひとりだけ文句も言わず、黙々と毎日夜中まで残業している彼に、何かしてあげられないかと思った”

    などという感じ方をしているに違いない。

    残業続きになるのは、業務の発生量に対して生産性が低く、生産性の低さは人間関係に円滑さを欠いているからだとしても、恋する二人にとっては結果として自分たちがそれぞれ想う相手に対して起こした行動のほうが重要で、大本の原因など基本的にどうでもよいことだ。

    あなたはそれでも、一応あれこれと【法人】への質問を考えてみたが、社員の不倫開始をどうやって定義するかは断念せざるを得ない。

    (それならば、社長自身が異性関係にだらしがないとか、自由恋愛を推奨するタイプだとか、そういった性癖はあるかどうかだ)

    【法人】に対し、その質問から始めることにした。

    《続く》

  • 宮城県株式会社のケース(12)vol.123

    訊いてみると(意外なことに)社長はその夫人との仲は実に円満で、仕事終わりによく待ち合わせてトレーニングジムに通っているらしい。

    トライアスロンの趣味が共通しており、子供がいないことから二人で身軽にあちこち飛び回って大会に参加したりもしているとのことだ。

    かつて、こんなこともあったという。

    出張先と同じ地区で行われる財界のパーティーがあり、途中から夫人が合流した。

    本来、業務と無関係なことに社員を巻き込むのを嫌う社長だったが、その日は人手が必要で仕方なく同行の社員たちをパーティー会場へ付き合わせた。

    その時社員たちが目にした社長夫妻の行動は、パーティー開始早々からあちこちのテーブルを回り、品良く挨拶して積極的に参加した印象だけを残して、二人とも会場から早々に退出してしまうというものだった。

    社員たちもすぐに開放されたのだが、夫妻は共々にザックを背負って一足先にそそくさと街中に消えていった。

    後で調べると、その方角に会員制スポーツクラブの支店があったので、そこへ行ったのは間違いないと噂された。

    おいしい地酒とそこでしか獲れない海鮮の刺身や煮付けで有名な土地だったが、全国の名所や美味などは散々たしなみつくして、夫妻は全く興味がないようであった。

    社長は長男ではないので家を継ぐ必要もない。そして代々続く有名な資産家の一族であり、老後の生活にも心配がない。身軽な夫婦生活を、まるで友達や兄妹のように楽しんでいる様子がうかがいしれた。

    《続く》