北海道株式会社のケース(終)

(良い関係、安定した関係になることを拒んでいるのだろうか)
安住することを嫌うタイプか? ぜひとも社長の手相を見てみたいところだが、あなたはハローワークとの契約で企業と関わることを禁止されている。鑑定した【法人】の会社と接触するなどもっての外だ。

(もしくは、弱点を補強するために『自分たちに備わっていない力』、言い換えれば『自分たちにそぐわない力』を欲しがっているのか)
弱点という言葉をキーにして手のひらをのぞき込むと、左手に比べ右手の市場線が細く短いので、業界シェアに打って出ている実感と成果に不全感を持っている可能性はある。

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北海道株式会社(左手)
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北海道株式会社(右手)
baseGuide-Hokkaidou
今回の基本線ガイド(北海道)
個人 【法人】
生命線 取引線(売上仕入線)
知能線 製品線
感情線 社員線
太陽線 市場(マーケット)線
結婚線 関係線
影響線 影響線

右手生命線(売上線)と知能線(商品線)がくっついてスタートしているので、もともと引っ込み思案なのだ。これは個人を占う場合の話だが、この場合【法人】に当てはめても話はつながりそうだ。
つまり、性格的な要素により、売上分野で思うように力を発揮できていない。
そのため、【法人】の短所を補強する使命感に駆られた社長が、懸命に弱点をカバーしようとして、自社なりの営業強化の道を探しているのではないか。ゼミの大学生を迎え入れた時のことを思い出して。

(たしかに、遂行能力がこれだけ高ければ、営業がどれだけ仕事を獲得しても受け皿のほうに問題はない)
つまり、基幹システムで会計面を強化するというのは会社の実力バランスの偏りを増大させるようなものなのだ。導入するなら営業管理システムのほうがニーズに合う。
新規客を見つけ、ソリューション営業へ展開する流れを効率化したいところだ。

(ソリューション営業への展開とその効率化については、きっと高いレベルで実現できるだろう)
今は地道な飛び込み営業をしていて、成約率は低い。ターゲットを絞って営業をかけるとしても、客にアピールする明確な特色がない。
仕事の質が高いので、依頼さえ受ければ実力はわかってもらえるが、新規獲得にあたって、『自社の顧客の姿』が明確にならないのだ。
仮に、香川県の顧客を切り捨てて『徳島県限定』を強調したから成約率が上がるというものでもない。

(マーケティングが課題ということになりそうだ)
顧客の本業を常時サポートするような事業なら、比較的口コミで広がりやすいが、顧客側にとって、たまにしか依頼しない単発の仕事相手のことでは、口コミもそれほど強力な伝播力にならない。

(それから、もともとこの会社は、口コミよりマスコミが合っているはずだ)
右手商品線の先のほうから、小指側に昇る数本の短線。
小指は通信や伝達、流行などを意味する。商品(この場合「事業」といった方が良いだろう)がパブリックリレーションへの高い親和性を示している。口コミよりマスコミをうまく活用するほうが、北海道株式会社の良さをアピールできるだろう。
「この会社に依頼したい」という予備軍を設け、そこに対してセールスを仕掛けたほうが営業効率は上昇し、持ち前の高品質を実感してくれた顧客がリピーターになり得る。
ポツンポツンとしたリピートでも、顧客の絶対数が多くなれば受注時期が適度に分散し、北海道社に安定した売上をもたらすようになることが期待できる。

何をマスコミにアピールするか、については考えるまでもなく、社長と、北海道株式会社の今日までの歴史が良いと思う。
【法人】の淡々とした語りだけでも充分なドラマ性に満ちていた。
しっかりとした演出で表現すれば、感動のストーリーが出来上がりそうだ。物語の合間に「お客様の声」を差しはさむと、好意的なコメントが得られてより効果が増すだろう。

(しかし、どうやって売り込むか)
【法人】が社長を誘導しても、父や初代社長の話を、積極的に雑誌社などへ語ることはなさそうだし、そもそも社長自身が「私の感動物語を聞いてください」などとアピールしたら、消費者は胡散臭さを感じてしまうだろう。
最終的には感動物語を受け入れてもらうとしても、そこに至るまでのプロセスは慎重に考える必要がある。

(マスコミとの懸け橋・・。その自然なきっかけになり得る要素・・)

あった!

中学時代から作文で賞をとったり、雑誌に地元リポートを送って掲載されたりしている

今、この会社で社長以外に唯一、会社の強みを支える「業務シナリオ」を書くことができる女性事務員がいることを、あなたは思い出した。

彼女は、社長と会社のこれまでの歩みを知っているのかと、あなたは【法人】に質問した。
「先代の仕事を引き継いで、先輩と二人でやりくりしてきたことは知っていますが、それ以外は詳しく知らないようです」
しかしそれでも、自身の昔話を社員に話したことは何度かあるそうだ。

(それなら不自然ではないだろう)
あなたは【法人】に、その女性に話すように社長を『誘導』し、次に、社内報を作るよう彼女を『誘導』するよう伝えた。
社員のあいだに、「ウチの会社の物語」を浸透させるうちに、それは自然な形で外部へ向き始めるはずだ。
右手製品線からの上向き短線(マスコミなど通信に対する特性)と、左手薬指に向かって外側から昇る市場線(外部からの引き立て)、それと両手の関係線(社員/社会との理想的関係性)を総合すると、その筋書きは、仕掛けさえすれば実現の可能性はすこぶる高い。やってみる価値はある。

右手の影響線の後半部分が35歳からスタートする。北海道株式会社は創業から33年。約2年の準備期間に、社内報で会社と社員のコミュニケーションを確立し、社員ひとり一人が強い広告塔になる頃、満を持してマスコミへのPRを仕掛ける流れが適切だと思う。
最初から全員でそれを狙って動こうとすると不自然さが出てしまうが、企画するのが赤の他人のあなたで、実行者が【法人】という形なら、当の本人たちには偶然の連続のようにしか感じられないだろう。

採用活動と基幹システムを凍結し、社内報の充実に資金を振り向けるのも有力な手段だ。
ただの印刷だけでなく、社内報の企画指導から取材及びライターの手配まで整えてくれる専門の企業もある。そういったところへプロデュースを依頼し、社員たちの創造の場を提供することも高い教育効果を持つことを、あなたは経験的に知っている。

もうひとつ、気づいたことがある。
左手の小指側からカーブして薬指に伸びる市場線の開始位置は22歳。今の社長が入社したときからスタートしている。
(ふたりの『父親』からのギフトだったのかもしれない。この会社そのものが)
だからきっと、うまくいく。
あなたは最後に【法人】にそう伝え、鑑定の終了を告げた。

オーバーフォース(2)北海道株式会社の鑑定を終えて

今回振り込まれた金額は、前回と比べると極端に少なかった。
ハローワークの最低保障よりは遥かに多額だったので、【法人】からの報酬がそれを上回っていたのは確実だ。
しかし今回は、新要素『【法人】内のデータベース』の存在を知り、それを駆使した高度な対応ができたはずだが、前回からの大幅下落はいったいどういう理由によるものだろう。

「【法人】からの報酬金額査定の方法は、ハローワークでも知ることができません」
例の、美人の女性担当官は電話の向こうでそう言う。予想していたことだが、あなたは混乱する。
前回の、驚くほど多額の報酬には、初回の契約金みたいなものが含まれていたのかと訊いてみた。プロ野球選手が入団するときの契約金に相当するものが、この【法人】相談にもあるのかもしれないと思ったからだ。

「いいえ。報酬は2種類だけです。ハローワークの最低保証額と、1回の相談に対して【法人】が感じた価値に相当する分しかありません」
自由業の収入は水物だ。多い時も少ない時もある。そう思うしかないのだろう。

(そういえば、国保と年金、それと住民税はどうなるのだったか?)
委託契約が継続になったときに説明を聞いたと思うが、詳しく覚えていない。あの時は、振り込まれた大金が本当に自分のもので良いのかという確認に頭がいっぱいだった。

(わざわざ電話をかけ直して聞くほど急ぐ話ではない)
次に会う時に聞こうと思った。
そのことに、環境の変化を感じた。ほんの半月前までは、未払い国保の分割納付はあなたの生活を脅かす大きな要因だったはずだ。
それが今となっては、“急ぐ話ではない”と思えるのだ。

しかし油断はできない。
この仕事がいつまで続くかわからないし、続いたとしても報酬が減って毎回最低保証額しか受け取れなくなったら、収入は1か月で15~16万円程度になる。しかも、契約期間中の就職活動は固く禁じられているのだ。
特別ボーナスに浮かれているわけにはいかない。

(北海道株式会社の規模が小さいから、▲▲社の時のような額にならないのか)
ぜひとも参考に知っておきたいことだ。
(あるいは、テキストマイニング的なデータ抽出をさせたせいか)
あなたは北海道社にそれを求め、【法人】はそれが『疲れる』と表現し、2度目の要求は断ってきた。
過度にリソースを使わせたことが、金額面に反映しているのかもしれない。

(あれはやはり、できるだけ使わない方が良い)
あなた自身の体調を考えても、テキストマイニングは避けた方が無難だ。

“会社に対するネガティブキーワードのトップテン”を素早くリスト化したあなただったが、それは、約10年にわたり、百人以上の会話データというけた外れのボリュームを、すさまじい勢いでスクロールさせて見つけ出していったものだ。
一つひとつの言葉をいちいち意識に上らせていたら到底完了しないので、多分、脳の言語野以外の場所で情報を処理していたのかもしれない。
あの日、ハローワークを出てからしばらくは、しつこい「めまい」に悩まされた。

テキストマイニングは【法人】のリソースを圧迫し、あなたの頭脳にもかなりのダメージをもたらすものだということを、鑑定から4日後の今もなお、わずかに残る後遺症とともに実感している。

それからさらに4日間、あなたのもとにハローワークからの連絡はなく、時間を持て余すあなたの心の中に不安が生じてきた。
【法人】からあなたへの評価が下がれば、相談依頼は無くなる。そうなれば、ハローワークとの契約が解除され、あなたにはまた、無職の境涯が待っている。
今でこそ預金残高には▲▲社から受けた破格の報酬が残っているが、この先就職が決まらなければジリ貧になることは目に見えている。

(だからといって【法人】に営業をかけることもできない)
ひたすらハローワークからの依頼を待つ以外にないのだ。
あなたにできる唯一の『営業』は、対面する一瞬一瞬にかける誠意と実力のみだ。

(北海道社に対して、それが示せなかったか)
報酬金額は少なく、次の依頼が来ないという現実に、あなたは背筋が寒くなった。恐怖だった。
せめてあと数回、依頼が来てくれれば、そして、初回並みの金額がもらえれば、契約が解除された後は、年金がもらえるようになるまで細々とアルバイトで食いつなぎ、老後の生活も何とかなるかもしれない。

更に連絡がないまま週が明け、月曜の朝にかかってきた電話に、あなたは淹れたばかりのお茶を置き捨ててハローワークへと急いだ。

担当官はなぜか複雑な表情であなたを迎えた。
あなたの心臓は早鐘のように血液を脳天に集めた。
(やはり荷が重かったか)
早くも契約解除の宣告を受けることになるのかと、あなたは彼女の顔を凝視しつつ、意識上の視界には何も見えていなかった。

「今までなかったことなのですが、【法人】からの問い合わせが殺到しています」
北海道株式会社との面談後、あなたに関する口コミが【法人】の間で一挙に広まり、相談希望者をはじめ、あなたについて詳しく教えてくれという連絡が、ハローワークに次々と寄せられているという。
ここ1週間ほどその対応に追われ、次回の段取りが進まなかったそうだ。

(口コミ・・)
【法人】にもそんなものがあるのかと、またもや疑念が生まれる。
やはり自分は担がれているのではないか。【法人】というのは設定にすぎず、あなたが接したのは普通の人間ではないかということだ。

(まあいい。どちらにせよ、北海道社のあの男にとって、先日の鑑定は評価が高かったようだ)
我ながら、鑑定の最後のほうは、流れでパンパンと言い放ってしまった感があり、後ろめたい気持ちがあった。だから前回との金額比較で反射的に低評価だったのだと早合点してしまったが、事実は違っていたらしい。

(しかし、よく考えてみれば本当の“低評価”とは、【法人】自身からの報酬が無いことだから、焦るのはハローワークからの最低保証額しか払われなくなった時でよいのかもしれない)
あなたはそう思い直した。

担当官は、【法人】とあなたの間で何があったのかをよほど聞きたいらしい。
しかし、面談内容を口外することを許可していないのはハローワークのほうだから、彼女があなたに質問することもできない。
複雑な表情であなたを迎えたわけは、それによるものだったのだ。

あなたの側だって、本当は彼女に話すことで、【法人】との接触の仕方について、自分の考えを整理しておきたい。【法人】の記憶がデータベースソフトに表示されるなんて不可思議な現象を、ハローワークはどう思っているのか。
一番引っかかっているのは、【法人】は社内の人間を『誘導』できるそうだが、本当にそんなことができるのか?

あなたは既に、北海道株式会社の本当の社名を知っている。【法人】のデータを見たのだから当然のことだ。
近い将来、社内報が創刊されれば、それはあなたの指示を受けて、【法人】が社長を誘導したためかもしれない。
ただし、「社内報の創刊」というトピックが、部外者に知らされることはあまりない。
確かめてみたい気持ちが非常に高まっているのだが、それについて調べることがどこまで許されるのかを、目の前の担当官に質問してみたいのだが、そもそも「社内報」という単語も相談内容に関わるので、口にすることができない。

「まず、この後に入っている2件分の依頼を受けて頂きたいと思います。そのあとの面談の組み方については、私どもの間で調整してご連絡いたしますのでお待ちいただけますか」
担当官は日時を告げた。

(よかった)
あなたは胸をなでおろした。
念願だった仕事の依頼が来たのだ。
老後の生活への不安は、ひとまず数歩先へ遠のいた。数歩進んだときに再び対面しないで済むよう、次の依頼でもしっかりした成果を示さなくてはならない。
その繰り返しを心がけなければ、自由業では暮らしていけないのだ。

サラリーマン専一だったあなたの感性が、こんな早く切り替わってしまったことに、あなた自身まだ気づいていない。