宮城県株式会社のケース(1)

何か複雑な気持ちだ。
あなたは顔にこそ出さなかったが、この後の面談はどういう展開を見せるだろうかと戸惑った。

まさか【法人】から不倫の相談を受けることがあるとは、思いもよらなかった。

まあ、【法人】という存在からの相談自体が、しばらく前までのあなたには思いもよらないものだったが・・。

(これも『口コミ』のせいか)
北海道株式会社の面談後、にわかに広まったと思われる【法人】間でのあなたに関する口コミ。
どんな点が、どんな具合に好評だったのか、それはあなたに口コミのことを教えてくれたハローワークの担当官も知り得ないことだ。当然、あなたにもわからない。

自分が【法人】の目にどう映り、何を期待されているかわからないまま接すると、ついつい自意識過剰になる。
試みに、目の前にいる「宮城県株式会社」に尋ねてみた。【法人】間でのあなたの口コミについて。

「他の【法人】の考えをここで話すことはできません」
宮城社は怪訝な顔で答えた。
これ以上の質問は、あなたにとってもよくないことになりそうだ。
事業に関すること以外で、下手に【法人】の事情に踏み込むことはタブーなのだろう。
深掘りすると、それこそ契約終了になってしまう恐れがある。
今、この仕事を失ったら、あなたは小金を持った程度の失業者に逆戻りだ。

(ひょっとすると、以前にもこういった「深掘り」をして解任になった担当者もいたのではないか・・)
あなたは、これ以上この話題に触れることを避けた。

【法人】は事情を語り始めた。
もちろん、【法人】が不倫をしているわけではない。社内で明確な不倫が4例、雲行きが怪しいのが6例もあるという。
うち、社員同士の不倫は2例、怪しい6例のうち社員同士は5例ということだ。
(ヒマなのか?)
反射的にそう思ったが、無論口には出さなかった。
社員94名のうち、17名が不倫中、またはその予備軍ということになる。
(結構なパーセンテージだ)
約18%にのぼる。

(しかし、この場合『倫理』が問題なのだろうか)
あなたに相談しているのは個人ではなく【法人】だ。

“恋愛”すると生産性は下がるのか?
そうは言いきれないだろう。気持ちにハリができて、人生全般に前向きで積極的になり、仕事への意欲が増すというのは、不倫でない恋愛においても普通にあることだ。
社内に想う相手がいて、その助けになりたいと願う状況なら、より一層仕事にも熱が入る。そこから生まれる業務アイデアが生産性の向上に役立つこともあるに違いない。

これまであなたのもとに相談に訪れた【法人】は、いずれも業績の伸び悩みか、失速して落ちかけていく状態からの救いを求めてきた。
ということは、現時点で不倫問題が業績に影を落としているか、いずれそうなるという明らかな事象が確認されているかのどちらかだと思う。

(そう考えて間違いないだろう)
あなたなりの関わり方が、何となく理解できた。
不倫が業績に影響するかどうかはともかく、「不倫問題」となれば確実に業績に悪影響を与える。
家族にばれるか、世間(客)にばれるか、いずれかの状態になれば、ダメージは深刻だ。

意外に、社内にばれてもダメージは深刻でないことが多い。
だが、もちろんモラルは下がる。
社員が抱いている会社への信用が失われていくなどの影響を考えれば、表向き穏やかに済ませていても病巣は深く複雑になっていく。
いっそ、早い段階で怪我による大出血(不倫問題)が起き、わかりやすい粛清で気が引き締まったほうが、重症化しなくて済むのではないか。

(この【法人】は『怪我』か『病気』か?)
あなたは、少しペースがつかめてきた。
【法人】とは、こういうものなのだろう。
地球環境問題とは、地球の体内環境である。
職場環境も、地球環境問題のひとつであり、それは【法人】の体内環境のことだ。
そこには、業績だけでなく社員の価値観や感情、その延長で社員の家庭までを含んでいる。
(【法人】が不倫の相談に来ることだって、当然あり得るのだ)

宮城県株式会社のケース(2)

行く手を阻む様々な問題を乗り越えた先の未来を信じ、今の「不快」をすべて「快」に変換し続けられるのが『夢』
行く手を阻む重苦しく具体的な問題を棚上げし、目をそらすために未来を妄想し、つかの間の「快」を繰り返しているだけなのが『自己満足』

単なる自己満足を、「夢に向かう力強い行動」に変えれば、人生の路が開けてくるという法則は、どんなことにも当てはまる。
ただし、何でもかんでも「夢に向かった力強い行動」に変えてもよいのか、ということだ。

不倫が「単なる自己満足×2人前」にとどまっているからこそ、周囲(特に大切な人たち)を巻き込んでの大問題を引き起こさずに済んでいるという現実もある。
ある意味、当事者たちの倫理により、単なる自己満足的な不倫に抑えているという側面もあるだろう。

勇んで『夢』に向かうと、どちらかの、あるいは双方の家庭を破壊し、家族親族との決裂や、仕事面では左遷・離職、地域社会ではウワサ話と白眼視などといった「行く手を阻む様々な問題」が発生するからだ。

どんな逆風のさなかにあっても、それを乗り越えた先の未来を信じ、今の「不快」をすべて「快」に変換し続けられるだけの『覚悟』はあるか?
結局、『夢』=『覚悟』
『自己満足』とはやはり、次元が違うのだ。

目の前にいるのは【法人】だが、ついあなたは感慨にふけった。

あなたが初めて不倫の相談を受けたのはずいぶん昔だ。
当時のあなたはたぶん、21、2歳だった。

ろくに恋愛経験もないあなたが、妻子ある男性との関係に悩む一回り以上年上の女性から、未知の世界の領域の話を聞きながら面談を展開する。
まだ若く、人生経験や人間的深みを軸にトークを展開するなどという芸当はできない。

これは相談業一般に通底する問題だが、年齢が若いことが不利な状況を生むことが多い。

(こんなに若くて、私の置かれた立場やその苦しみが理解できるの?)
という不信感を抱かせてしまうからだ。

それは、本当の信頼を得るまでの間、継続する。
常に相手の不信感にさらされ、態度や言葉は絶え間なく観察される。
それを受け入れることからスタートしなければならないのだ。

その時の依頼者は、かつてあなたが鑑定した相手からの紹介だったため、その点で最初から信用のゲタを履いた状態だったが、それでも手のひらのデータベースをいかに深く読み込むかがすべてのカギで、一心不乱に彼女の手を凝視しながら解釈し、読み取った内容をアレンジして話をした記憶がある。

宮城県株式会社のケース(3)

あのころと比べれば・・
とも言えない。
1個人相手なら経験と記憶を頼りに、繰り返しで対処できる部分もあるが、今回は全てが手探り状態になる。
【法人】の体内環境を取り扱う者として、どこからアプローチすべきか。
しかも、インフォームドコンセントと同時に処置をし、2度と会わない相手に対する生活指導までを完結させねばならない。

(ン・・?)
思えば、これまでの【法人】鑑定だって同じことだ。
・2代目社長と古参社員の間に生じた亀裂
・「学歴」=「実力」と認識して無茶な採用活動を繰り返してしまう心の偏り
・長年乗り続けた運の波から振り落とされた力不足の経営者が感じている焦燥感

一番最近の鑑定では、一流ビジネス誌に大々的に取り上げられる仕掛けという、あなたの人生で全く未知で無関係と思う分野で暴挙をやってしまった。
今日現在ではまだその結果は出ておらず、心落ち着かぬ日々を、ビクビクしながら送っているありさまだ。

最後のは措置が特殊ケースだったが、いずれにしても、【法人】の相談内容の表面的な言葉の後ろに横たわる、得体のしれない「場が持つ病理」みたいなものの存在を感知し、財務諸表を見たり、社内の会話情報を抽出したり、業務手引書を閲覧したり、その時々に応じて社内のデータベースから実情を読み取って将来を予見し、手相で検証する(手相が先の場合もあったが)。
これを繰り返してきた。
こういうやり方をしようと自信たっぷりに始めた理由は、「個人で経験済み」だったからだ。

そして今度は「社内で頻発する不倫」。
ということは、やはり王道で人事データを見てみるべきだろうか。
【法人】に社員マスタを表示させ、不倫フラグに「1」を立てた社員だけを抽出した。
社内に相手がいる同士で並べてみると、男性が年上のカップルがほとんどだが、女性が年上という組み合わせもある。
男性が年上の場合、ふたりの年の差は大きいのに比べて、女性が年上の場合は年齢差がさほどない点があなたの目を引いた。

(こういう関係の場合、女性は相手に「父性」を求め、男性は相手に対し、自分が「弟であること」を求める傾向があるのだろうか)
しかし、女性が「父性」を求めるほど年齢の差がある割に、その付き合いが深まるにつれ男性側に「未成熟さ」が顕著になるケースも見られ、第三者として女性側から話を聞いていると、相手の男性はほぼ同年齢で、いかにも頼りない人間像として印象される。
しばらく話をしてから相手の年齢を聞いて驚くこともあるが、彼女たちの多くはなぜか、相手の年齢を伏せたまま相談してくる傾向があり、どこかで心理的なブロックが働いていることがうかがえる。

あるいは、相手男性から父性を感じる一方、逆に自らの母性を相手に当て込んで、まるで我が子を守るかのような態度が表れるのかもしれず、だとすればこれも共依存の一環かもしれない。

(まあ、それはいい)
ついつい昔のクセで、個人をターゲットに考えてしまったが、今の相談相手は【法人】だ。視点を変えて、対応方法を一から構築する必要がありそうだ。
(いや)
視点を変える必要はあっても、対応方法を構築し直す必要があるだろうか?

不倫であるかどうかを問わず、あなたが恋愛相談を受け付けた場合にまずすることといえば、相手の全体像をつかむことだ。
というより、相談内容の如何を問わず、それは共通している。
相手の要求が、恋愛・結婚に関する情報の提供であったとしても、短絡的に結婚線や恋愛線を見たりすることはない。

「あたし、いつ結婚する?」
などと言いながら手のひらを突き出してくる女子もいるが、あなたは基本的にそういう手合いは相手にしない。
それはコンサルタントが出会った早々の相手から
「どうすれば売上が上がる?」
と言いながら財務諸表を突き出されても、まともに対応しないのと似ている。