岩手県株式会社のケース(3)vol.095

ビジネスが予想以上に急成長したときに起きる代表的な問題は「品質低下」だ。

これは、製品の品質である場合もあるし、事務品質の場合もある。

それから見落としがちなのが、自社は何とかしのげても、外注先や提携企業がパンクしてしまうことだ。

他社の内情までは詳しく知らないから、そんなに切羽詰まっている状況が把握できず、急に納期が遅れだしたり、ミスの連発が起きて何事かと追及したら、「そんなオーダー数に応じられる能力はない」と打ち明けられることがある。

事業を始めたばかりの無名企業と組んでくれるのは、地元で同じように小さく事業を営む会社であることが多い。

釣り合いの取れる規模のうちは良いが、片方が急成長を始めると、もう片方がそれについていけなくなる。

ビア社の場合、急成長による自社内の品質低下は、親会社からの早々の援助により、さほど深刻にならずに済んだ。

資金援助によるインフラ整備が早かっただけでなく、人員不足についても、同じビルのフロア内にいるアミ社から応援要員が駆け付けた。

しかし、指輪の心臓部を託された岩手県株式会社は、単独で事業を営む地元の小さな町工場にすぎない。
熟練工の社長(オヤジ)と二人の息子のほかは、事務の女性をひとり雇っているだけの陣容だ。

当初ビア社の事業部長は「ひと月に5個も作れればいい」という見込みでこの話を打診してきた。
「いいよ。そのくらいなら」と、オヤジが引き受けて始まった。

ところが、たった4か月後には注文数が、月間300個になった。

工場では他の仕事も受注している。それらも手掛けながらだと、休みなく働いても月に15個が限度だった。

前月に78個の注文を受けたことに驚きながらも「断る口数より、やった方が早い」とだけ言って淡々と仕事をしてきたオヤジですら、これにはさすがに音をあげた。

オヤジだけが持っている独自の感覚が、スタビライザーを実現させる。
息子たちには、まだそれができない。

オヤジが担当している他のことをどれだけ息子が引き受けても、絶対的に時間不足だ。

それに、職人の仕事には長年の経験で自然に身についた理想的なリズムがある。
前後の作業をすべて人任せにすると、肝心な部分の精製が上手くいかない。
単なる計算で効率を追求しても、この場合は解決策にならないに違いない。

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