▲▲社のケース(9)vol.056

最も重要な点は、新旧社長の方針の違いについて、二人が十分に意見を交わさないために起きた現場の混乱は、基幹システムでは解決できないということだ。

一見すると、経理作業、仕入管理、配送手法など、問題点は個々に発生する別物に見えるが、それぞれを対症療法でつぶしにかかると、中枢神経系で制御不能な肥大などの変異を起こして重症化する。

基幹システムやシステム会社のコンサルティング等、外部条件はアイテムのひとつにすぎず、この場合必須ではない。
自力で問題解決へ向き合う準備ができてから採り入れるのが最も効果が高い。

ほぼ一方的にしゃべり続けるあなたに対し、男は一切口をはさまず、熱の入った目でまっすぐに見つめている。

どこか吹っ切れたのかもしれない。
表情が明るかったのがやけに印象に残った。

「そういうものかもしれませんね」
そう一言つぶやくと、何かを思案する顔になった。

(父子が話し合う場のセッティングでも考え始めたか)
あなたはそんな風に考えた。

しかしそれにしても……

(それにしてもこの男はいったい何者なのだ)
新旧社長、いや、父と息子の腹を割った会見の場所を準備するなど、ただの社員ではできないだろうから、思案の内容はそんなことではあるまい。

「特に、古参社員の扱いについては、親子で徹底的に意見をぶつけ合わせる方が良いでしょう」
今度はあなたが、この男の顔をじっとうかがう番だ。

(やはり、新社長だったか。いや、▲▲社が契約しているコンサルタントか?)

そうなると、今のこの状況は妙な気がする。
あなたはコンサルタントのスーパーバイズをしていることになるからだ。

その道のプロが未経験のあなたをスーパーバイザーにするだろうか。

いや、▲▲社が契約コンサルタントに対し、そんなプライドを傷つけるようなことを要求するだろうか。

次々と頭をよぎる疑問に内心当惑するあなたに対し、今まで見せたことのない打ち解けた表情で、男は言った。
「仕入先との関係性は、この後どうなるのですか?」

再びあなたに両方の手のひらを示した。

sankakuleft

▲▲社(左手)

sankakuright

▲▲社(右手)

 

(誠実をモットーにすべし)
▲▲社という会社は、それに尽きるのだ。

いかなる状況に立ち至っても、「戦友」のために尽くす姿勢が顧客を作ってきた。
それは左手の太陽線が如実に物語っている。

外側からカーブしながら薬指に向かうこのタイプは、実行力に基づく誠意で人心を得て成功する証のようなものだ。

むろんそれは、今あなたの前に座っているこの男がそういう人間なだけであって、▲▲社とは関係ない。
そうは言えないが、当然この男だってわかっていることだ。

《続く》

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